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断罪された悪役令嬢は契約で国を買い取る ~支配ではなく市場で無双します~  作者: 桐生ことは


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第16話 女領主ではありません

 ヴァルター・クロイツは、三日後に再び現れた。


 今度は一人ではない。

 護衛を二名伴っている。


 だが、武力を誇示するような配置ではない。

 あくまで“形式”だ。


(……王国は、まだ様子見ですわね)


 私は、集会所ではなく、外の広場で彼を迎えた。

 隠すものはない、という意思表示でもある。


「再訪、失礼します」


 ヴァルターは、前回よりもわずかに硬い表情をしていた。


「上から、追加の確認が下りました」


「内容は?」


「この地の“法的立場”についてです」


 やはり、そこに来る。


「あなたは、この地を実質的に統治している」

「税を肩代わりし、物流を管理し、契約を取りまとめている」


「それは、領主と何が違うのか」


 周囲の空気が、張り詰める。


 クラリッサが、無意識に息を止めているのが分かった。

 カイルは、一歩後ろで静かに立っている。


「違いは、明確です」


 私は、即答した。


「私は、王国から任命されていません」

「爵位も、領地の正式譲渡も受けていない」


「ならば」


 ヴァルターは、視線を鋭くする。


「あなたの行為は、越権では?」


「越権とは」


 私は、わずかに首を傾げる。


「誰の権利を侵害している状態を指しますの?」


 一瞬、沈黙。


「この地は、長年放置されてきました」

「統治も、保護も、投資もない」


「私は――」


 一歩、前に出る。


「“空白”を埋めただけです」


 その言葉は、静かだが、重い。


 ヴァルターの護衛が、わずかに視線を交わす。

 だが、彼自身は表情を変えない。


「では、あなたは何者ですか」


 単刀直入な問い。


「女領主ではない」

「王国の官でもない」


「何です?」


 私は、迷わず答えた。


「契約者です」


 ヴァルターの眉が、わずかに動く。


「人と人の間に、約束を結ぶ者」

「その履行を、保証する者」


「それだけです」


 それは、事実だ。


 私は王国を否定していない。

 だが、依存もしていない。


「もし、王国が正式に統治を望むなら」


 私は、続ける。


「条件を提示してください」

「こちらも、条件を出します」


 ヴァルターは、息を吐いた。


「……やはり、交渉ですか」


「はい」


 私は、微笑む。


「一方的な命令には、従えません」


 広場に、ざわめきが広がる。


 辺境の人々にとって、それは初めて聞く言葉だった。


 “従えません”。


 王国に対して。


「あなたは、危うい立場にいます」


 ヴァルターは、低く言った。


「上が強硬策を取れば、この地は簡単に圧される」


「承知しています」


「それでも?」


「ええ」


 私は、揺らがない。


「力で奪われるものは」

「力が弱まれば、必ず戻ります」


「ですが」


 視線を合わせる。


「契約で結ばれた関係は」

「簡単には崩れません」


 ヴァルターは、しばらく沈黙した。


 彼は理解している。

 ここを潰せば、王国の物流も傷つくことを。


 そして。


 完全に無視すれば、影響力が拡大することを。


「……正式な使者が来ます」


 やがて、彼はそう言った。


「あなたの立場を、整理するために」


「歓迎いたします」


 私は、即答する。


「茶と、席を用意しますわ」


 ヴァルターは、ほんの僅かに笑った。


「女領主ではない、と言いながら」

「振る舞いは、完全にそれだ」


「違います」


 私は、静かに否定する。


「私は、頂点に立ちません」

「立つのは――」


 広場を見渡す。


「仕組みです」


 人々。

 契約。

 役割。


 それらが、ここを支えている。


 ヴァルターは、それ以上追及しなかった。


「……報告します」


 それだけ言い残し、彼は去っていく。


 広場に残るのは、静かな興奮。


「本当に……対等に話しましたね」


 クラリッサが、小さく呟く。


「ええ」


 私は、遠くを見る。


「ここからが、本番ですわ」


 女領主ではない。


 だが、ただの追放令嬢でもない。


 王国が次に選ぶのは――


 敵対か。

 交渉か。


 どちらにせよ。


 この地は、もう後戻りしない。


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