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断罪された悪役令嬢は契約で国を買い取る ~支配ではなく市場で無双します~  作者: 桐生ことは


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第15話 調査官が来た

 昼前、集落の見張り役が慌ただしく駆け込んできた。


「……王国の使いです」

「一人だけですが、身分証を持っています」


 その言葉に、集会所の空気が一段階引き締まる。


 来た。

 想定より、少し早い。


「通してください」


 私は即答した。


「武装は?」


「軽装です」

「護衛も、いません」


(慎重派、ですわね)


 しばらくして、集会所の入口に一人の男が現れた。

 三十代半ば。

 質素だが手入れの行き届いた服装。

 視線は鋭いが、威圧はしない。


「王国財務局より派遣されました」

「ヴァルター・クロイツと申します」


 名乗り方が、すでに“交渉”だった。


「レティシア・フォン・ヴァルクレインです」


 私は、椅子から立ち上がり、形式張らない一礼を返す。


「本日は、どのようなご用件で?」


 ヴァルターは、周囲を一度だけ見回した。

 集会所。

 帳簿。

 人々の配置。


 観察が早い。


「……税務の確認と、実態調査です」


 率直だ。


「この地は、王国の最外縁」

「近年、税収と物流に不自然な変動が見られます」


 彼は、懐から書類を取り出した。


「特に――」

「医療用資材と魔導触媒の流れが」


 私は、何も言わない。

 続きを促す。


「正直に申し上げます」


 ヴァルターは、視線を私に戻す。


「本来であれば、もっと強硬な手段が取られてもおかしくない」

「ですが――」


 一拍、置く。


「現状を正確に把握せよ、というのが私の任務です」


(上は、まだ迷っていますわね)


 私は、席を勧めた。


「では、こちらも正確にお答えしましょう」

「ただし」


 視線を合わせる。


「虚偽は申しませんが」

「誤解される説明もしません」


 ヴァルターは、わずかに口元を緩めた。


「……助かります」


 彼は、帳簿に目を落とす。

 数字を追う目は、真剣だ。


「人口増加」

「耕作地の拡張」

「収穫効率の改善……」


 指が止まる。


「これは……魔導補助ですか」


「ええ」

「私の管理下にある魔導士が」


 ミレーヌが、無言で会釈する。


 ヴァルターは、一瞬だけ驚いたような顔をしたが、すぐに戻した。


「……なるほど」


 しばらく、沈黙が続く。

 彼は、数字を一つ一つ確認している。


「率直に聞きます」


 やがて、顔を上げた。


「あなたは、この地を」

「王国から切り離すつもりですか」


 空気が、張り詰める。


 私は、即答しない。

 だが、目は逸らさない。


「いいえ」


 はっきりと告げる。


「切り離すつもりは、ありません」

「ですが――」


 指を組む。


「従属するつもりも、ありません」


 ヴァルターは、息を呑んだ。


「私は、王国の敵ではありません」

「ただ……」


 一拍、置く。


「王国が、ここを“放置してきた”事実は、変えられない」


 彼は、反論しなかった。

 それが、答えだ。


「では、どうするおつもりで?」


「機能を、提供します」


 私は、静かに言う。


「物流」

「医療」

「資源供給」


「王国が必要とするものを」

「対価と引き換えに」


 ヴァルターは、眉をひそめる。


「……それは、交渉ですか」


「ええ」


 私は、微笑む。


「支配ではありません」

「取引です」


 彼は、しばらく考え込んだ。


「あなたは……」

「女領主を名乗らないのですね」


「名乗る必要がありませんわ」


 私は、淡々と答える。


「形より、機能の方が重要です」


 沈黙。

 そして――。


「……本日の調査は、以上です」


 ヴァルターは、立ち上がった。


「上には、事実のみを報告します」

「評価は……」


 一瞬、言葉を選ぶ。


「私の権限を超えます」


「ええ」


 私は、頷く。


「それで結構です」


 彼は、出口へ向かいながら、ふと足を止めた。


「一つだけ」


「何でしょう?」


「王国は――」

「あなたを、見誤っていました」


 私は、穏やかに返す。


「いいえ」

「最初から、見ようとしなかっただけですわ」


 ヴァルターは、何も言わず、去っていった。


 集会所に、静けさが戻る。


「……大丈夫、なんでしょうか」


 クラリッサが、小声で尋ねる。


「ええ」


 私は、帳簿を閉じる。


「これで、王国は選択を迫られます」


 無視するか。

 潰すか。

 ――交渉するか。


 どれを選んでも。


(もう、こちらは“盤面の外”ではありません)


 調査官が去った後の空は、妙に澄んでいた。


 嵐の前の静けさ――

 そんな言葉が、ふと頭をよぎる。


 だが、恐れはない。


 準備は、整っている。


本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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