第13話 役割を与えるということ
王国の人間が姿を見せてから、集落の空気は微妙に変わっていた。
不安。
緊張。
そして――期待。
外から見られている。
その事実は、人の背筋を伸ばす。
「……皆、少し浮ついていますね」
集会所で帳簿を整理しながら、クラリッサが小さく呟いた。
「ええ」
私は、頷く。
「良くも悪くも、“意識される側”になったということです」
これまでの彼らは、見捨てられた存在だった。
だが今は違う。
王国が“確認”に来る。
それだけで、状況は変わる。
(ここで、組織を一段階上げますわ)
私は、視線をクラリッサに向けた。
「あなたに、正式な役割をお渡しします」
彼女の手が、止まる。
「……役割、ですか」
「ええ」
「対外折衝と、内部調整を担当してください」
クラリッサは、驚いたように目を瞬かせた。
「私が?」
「まだ、何も――」
「十分ですわ」
私は、即答する。
「あなたは、王都の言葉を知っている」
「恐れも、期待も、両方分かる」
それは、辺境の誰にも持てない視点だ。
「ただし」
一拍、置く。
「命令ではありません」
「受けるかどうかは、あなたが決めてください」
クラリッサは、しばらく黙り込んだ。
逃げてきた令嬢。
自信を失い、評価されなかった過去。
だが――。
「……不思議ですね」
彼女は、苦笑しながら言った。
「役職を渡されるのに」
「怖くない」
「それは」
私は、淡々と答える。
「責任と同時に、裁量も渡すからです」
責任だけを押し付けられる役職ほど、重いものはない。
だが、裁量があれば、人は成長する。
「失敗しても、構いません」
「失敗は、情報です」
その言葉に、クラリッサの表情が少し変わった。
「……分かりました」
彼女は、深く息を吸い。
「お引き受けします」
「逃げずに、やってみます」
「ええ」
私は、微笑む。
「それでこそ、ですわ」
その日の午後。
集会所に、主要な人々が集められた。
グラント。
ミレーヌ。
カイル。
そして、数名の代表者。
「本日から」
私は、皆に向けて告げる。
「クラリッサ・ベルモンドを」
「この地の対外窓口兼、調整役とします」
ざわめき。
だが、反対の声は上がらなかった。
彼女は、すでに何度も人々と話し、調整をしてきたからだ。
「私は、前に立ちません」
私は、続ける。
「ここは、皆で作る場所です」
「私は――仕組みを守ります」
ミレーヌが、小さく頷く。
「……役割、明確」
「効率、上がる」
カイルも、腕を組んで納得した様子だ。
「責任の所在が、はっきりしましたね」
クラリッサは、一歩前に出た。
まだ、少し緊張している。
だが、声は震えていない。
「……私にできることは、限られています」
「ですが、隠しません」
「王国の様子も」
「こちらの都合も」
「すべて、共有します」
その言葉に、人々は静かに頷いた。
信頼は、宣言ではなく、積み重ねだ。
集会の後。
クラリッサは、私の隣に並んだ。
「……私、やっと分かりました」
「何が?」
「あなたが、なぜ命令しないのか」
彼女は、遠くを見ながら言う。
「命令された役割は、演じるもの」
「与えられた役割は……」
一拍、置く。
「生きるもの、なんですね」
私は、少しだけ目を細めた。
「ええ」
「その通りですわ」
夕暮れの光が、集落を包む。
ここには、もう“寄せ集め”ではない。
役割を持った人々がいる。
王国が見ているのは、まだ表面だけ。
だが――。
この小さな辺境で、
確実に“組織”は生まれていた。
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