表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
断罪された悪役令嬢は契約で国を買い取る ~支配ではなく市場で無双します~  作者: 桐生ことは


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/15

第11話 最初の反発者

 決まりは、静かに浸透していった。


 契約。

 話し合い。

 成果の分配。


 どれも難しいものではない。

 だが、“今までなかったもの”だ。


 だからこそ――。


「……気に入らねえな」


 不満は、必ず表に出る。


 集落の西側。

 比較的広い倉庫を占拠していた男――バルド。


 年は四十を少し超えた頃。

 この辺境では古参で、顔も利く。

 放置されていた土地を勝手に使い、周囲に睨みを利かせてきた人物だ。


「急に決まりだの、契約だの」

「貴族様が来たと思ったら、これだ」


 酒の入った声が、周囲に響く。


「今までは、好きにやれてた」

「それで、何が悪い?」


 周囲の数人が、曖昧に頷いた。


 不安。

 反発。

 そして――失うことへの恐怖。


(想定内ですわね)


 私は、報告を受けてすぐに現場へ向かった。

 護衛は、カイル一人だけ。


「……止めなくていいのですか」


 途中、彼が小声で尋ねてくる。


「今は、必要ありませんわ」


 争いは、芽のうちに摘むものではない。

 **形を見せて、選ばせる**。


 それが、私のやり方だ。


 倉庫の前には、人だかりができていた。

 皆、固唾を飲んで成り行きを見守っている。


 私は、静かに一歩前に出た。


「何か、ご不満があるそうですわね」


 バルドは、私を見るなり鼻で笑った。


「そりゃあもう」

「急に来た貴族様に、縛られる筋合いはねえ」


「縛ってはいません」


 私は、即座に否定する。


「契約は、任意です」

「応じなければ、強制もしません」


「ほう?」


 彼は、挑発するように腕を組む。


「じゃあ、俺は契約しねえ」

「今まで通り、やらせてもらう」


 ざわめき。


 多くの視線が、私に集まる。

 ここでどう出るかで、この“制度”の価値が決まる。


「分かりましたわ」


 私は、頷いた。


「それが、あなたの選択ですね」


「お、おい……?」


 バルドが、一瞬だけ戸惑った顔を見せる。


「では、こちらも選択します」


 私は、淡々と告げる。


「あなたとは、取引をしません」

「この地で結ばれた契約の恩恵も、受けられません」


「は?」


 彼の声が、低くなる。


「税の肩代わり」

「物流の共有」

「魔導士による修繕」


 一つずつ、挙げていく。


「それらは、契約者のみの権利です」


 空気が、凍りついた。


「な、何を言ってやがる……」


「命令ではありません」


 私は、静かに言う。


「契約です」

「結ばなければ、関係がない」


 バルドの顔が、徐々に歪む。


「……脅しか?」


「いいえ」


 私は、首を横に振る。


「区別です」


 その言葉が、決定打だった。


 周囲の人々は、理解した。

 これは罰ではない。

 排除でもない。


 **選択の結果**だ。


「……ちっ」


 バルドは、舌打ちをして背を向ける。


「好きにしろ」

「俺は、俺でやる」


 彼は去っていった。


 ざわめきが、残る。


 私は、人々に向き直った。


「誰も、無理に縛りません」

「ですが――」


 一拍、置く。


「ここで築くものを」

「壊す自由も、与えません」


 沈黙。


 だが、反発の声は上がらなかった。


 その夜。


「……強く出なかったのですね」


 集会所で、クラリッサがぽつりと呟いた。


「ええ」

「力で抑えれば、簡単です」


「ですが、それでは――」


「“戻れない”人を作りますわ」


 私は、そう答えた。


「選ばせるからこそ」

「後悔が、生まれる」


 数日後。


 変化は、すぐに現れた。


 契約を結んだ農地では、魔導具の補助で収穫量が上がる。

 共同物流で、物資が安定する。


 一方で。


 バルドの倉庫には、物が集まらない。

 人も、集まらない。


 彼は、まだ気づいていない。


 だが、周囲は気づき始めている。


 **“契約の外”にいるということの重さ**を。


 私は、報告を受けながら小さく息を吐いた。


「最初の反発者は、上出来ですわ」


 制度は、抵抗があってこそ強くなる。


 そして――。


(次は、外から来ますわね)


 王国が。

 あるいは、別の領主が。


 どちらにせよ。


 ここはもう、“無視できる場所”ではなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ