表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
断罪された悪役令嬢は契約で国を買い取る ~支配ではなく市場で無双します~  作者: 桐生ことは


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/17

第10話 足りないものは、力ではありません

 クラリッサ・ベルモンドは、集会所の中で落ち着かない様子だった。


 椅子に腰掛けてはいるものの、背筋は伸び、視線は定まらない。

 王都の社交界で生きてきた者特有の癖だ。

 常に周囲を観察し、空気を読もうとする。


(……なるほど)


 私は、彼女を正面から見据えた。


「まず、お聞きしますわ」

「あなたは、何から逃げてきたのですか」


 単刀直入。

 回りくどい前置きは、時間の無駄だ。


 クラリッサは、一瞬だけ唇を噛んだ。


「……王都です」

「正確には、“居場所を失う未来”から」


 そう前置きしてから、彼女は語り始めた。


 没落貴族としての立場。

 社交界での噂。

 そして――追放された悪役令嬢の名が、皮肉にも希望として囁かれていること。


「皆、笑っていました」

「あなたのことを」


 クラリッサは、苦笑する。


「でも……私は、知っています」

「王都が、どれほど“あなたに頼り切っていたか”を」


 その言葉に、グラントが小さく息を呑んだ。

 ミレーヌは、無言でこちらを見る。


「私は、あなたの味方です」

「――とは、言いません」


 クラリッサは、はっきり言った。


「私は、自分の身を守りたいだけ」

「そのために、ここに来ました」


 正直だ。

 だからこそ、価値がある。


「分かりましたわ」


 私は、頷いた。


「では、こちらも正直にお答えします」


 一拍置き、言葉を選ぶ。


「ここは、まだ安全な場所ではありません」

「拡大すれば、必ず目をつけられる」


 クラリッサは、息を呑む。


「それでも――」


 私は、静かに続けた。


「力で守るつもりは、ありません」


「……え?」


 彼女だけでなく、カイルも眉をひそめた。


「兵を集める?」

「城壁を築く?」


 私は、首を横に振る。


「それは、最後の手段です」

「今、足りないのは――」


 指で机を軽く叩く。


「仕組みです」


 私は、手帳を開き、簡単な図を描く。


「人が増えました」

「仕事も、物も、情報も増えています」


「ですが、判断する基準がありません」

「だから、人は不安になる」


 クラリッサは、ゆっくりと頷いた。


「……社交界と、同じですね」

「ルールを知らない者が、必ず弾かれる」


「ええ」

「だからこそ、最初に決めます」


 私は、三つの項目を書き出した。


「第一に」

「契約の管理」


 グラントを見る。


「すべての取り決めは、書面に残す」

「口約束は、しません」


 次に。


「第二に」

「話し合いの場」


 集会所を見回す。


「争いは、力でなく、言葉で解決する」

「そのための場所を、制度として用意します」


 そして。


「第三に」

「成果の分配」


 ミレーヌが、僅かに目を上げる。


「働いた者が、報われる」

「才能を出した者が、評価される」


「曖昧な善意は、いずれ不満に変わります」


 私は、視線をクラリッサに戻す。


「あなたに、役割を用意できます」


 彼女の肩が、わずかに揺れた。


「……私に?」


「ええ」

「対外的な窓口です」


 王都の空気を知り、言葉を選べる。

 感情の機微に敏感で、計算もできる。


「あなたは、私の代わりに“人と話す”」

「私は、仕組みを整える」


 クラリッサは、しばらく黙り込んだ。


 やがて、小さく笑う。


「……逃げてきた先で」

「仕事を与えられるとは、思いませんでした」


「逃げた先ではありませんわ」


 私は、はっきり言った。


「あなたは、選んで来た」

「それだけで、十分です」


 その言葉に、彼女の表情が少しだけ柔らいだ。


 その夜。


 私は、集落の人々を集めた。


「これから、この地には“決まり”を作ります」


 ざわめき。


「難しいものではありません」

「守るのは、三つだけ」


 契約を守ること。

 争いは話し合うこと。

 成果は、正当に分けること。


「それが守られる限り」

「ここでは、身分も出自も問いません」


 人々の顔に、不安と期待が混じる。


 だが、誰も反対しなかった。


 ――命令ではない。

 ――強制でもない。


 それでも、人は理解している。


 無秩序より、簡単なルールの方が、生きやすいことを。


 集会が終わった後、カイルが近づいてきた。


「……本当に、兵を置かなくていいのですか」


「今は、不要です」


 私は、夜空を見上げる。


「守るべきものが“形”になれば」

「人は、自分で守ります」


 辺境の夜は、静かだ。


 だがその静けさの下で――

 ここは、確実に“集落”から“組織”へと変わり始めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ