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婚約破棄されて奴隷になった私を救ったのは、無能と捨てられた「美少女」勇者でした。理不尽な支配の中で、私は一番の幸せを演じ続ける

作者: アリティエ
掲載日:2026/01/27


「レーナ・アラス侯爵令嬢、君との婚約を破棄させてもらう」


 婚約者であるアルベール殿下が、山田太郎を抱き寄せそう告げた。


 夜空のような髪、宝石のような瞳。外見は寸分違わない。

 けれど、殿下の胸に媚びるように身を寄せるその少女が、あの日言葉を交わした美しい少女に見えなかった。


「理由を聞かせてもらってもよろしいでしょうか」


 勇者との親交を深めるため定期的に行われている夜会の最中に突然告げられた。

 周囲もざわつき始めている。

 

「宝石の妖精とも呼べる可憐な乙女勇者、ライカ・カンザキをイジメていたんだろう!」


「失礼ですが、その者の名は山田太郎です。本人がそう名乗っておりました」


「ふざけるな! それは勇者達の世界では平凡な男につけられる名前だ。ライカの美しさに嫉妬して蔑称つけるなど恥をしれ」


 アルベール殿下はこんなにもお馬鹿さんだっただろうか。

 山田太郎と言う名前が平凡な男につけられる一般的な名前であろうとも、蔑称と呼ぶにはあまりにも失礼だ。

 いくら、勇者達に媚びを売りたくても、誇りがそれを許すのだろうか。


「他の勇者達に色香を使い、ライカをイジメさせていたと聞いたぞ」


 勇者達が山田太郎をイジメていたのは周知の事実だ。

 その主犯を私になすりつけたのか。

 いくら何でも無理がある。


 皆知っているはずだ。

 勇者達の大半が制御のできない存在であることを。

 色香を使ったとしても、報酬未払いで貞操を失うだけだ。


 それにそんな永安をして反感を買えば、勇者達の心象を悪くする。


「ライカは勇気を持って僕に相談してくれた。確かに彼女は無能かもしれない、だが、勇者であり一人の女の子だ!」


 私も同じ女性であり、貴方の婚約者だ。


 周囲の人間だって可笑しいことくらい気づいてるはずだ。


 だが、誰も言葉にすることができない。


 勇者の女の子がそう告げているのだから、それが真実だ。


 「何も言えないみたいだな。それは罪を認めたと言う事だな」


 ……殿下。

 貴方は例え無能な勇者だとしても、

 勇者が味方になる未来を選んだですね。


 どうしてこんなことになってしまったのだろうか。


☆★


 魔王軍と人類が戦争している今の時代、貴族に求められる資質は戦で役に立つかであった。


 一定の年齢を迎えた貴族の子息令嬢はエレバン王立騎士士官学校へ通うことが義務付けられている。


 そして、卒業までに一定以上の「戦術指揮能力」か「戦闘能力」を示さなければ、爵位の継承権を失ってしまう。


 私、レーナ・アラスは侯爵家の長女として日々自己鍛錬に励んでいた。


 今、学校ではある噂で持ちきりだった。


「レーナ様、お聞きになられましたか。異世界から召喚された勇者様方が生徒として私達の学校へ編入されるらしいですわ」


 取り巻きの一人が私に熱弁してくる。

 無理もない。異世界から召喚される勇者様にはそれぞれ特別な能力が備わるらしい。

 私達の為にその力を振るってくれることは、将来戦線に立たされる者達にとって、救いに見えることだろう。


「救い、か……」


 私は木剣を鞘に納め、遠くの演習場を見つめる。

 確かに、魔王軍の侵攻によって多くの領地が失われ、エレバン王国も防戦一方。

 救いを求める気持ちは痛いほど理解できる。


「聞いているわ。アルベール殿下も、その勇者様方を歓迎するために準備を進めていらっしゃるもの」


 私がそう答えると、周囲の令嬢たちは「流石は王妃教育を受けられているレーナ様」と、さも羨ましげに溜息を漏らす。


 この国では強さが優先されてきている。


 強者が弱者を守るという騎士道は、死に瀕したこの国において「強い者が支配する」という剥き出しの選民思想へと形を変えつつある。


 圧倒的な強さを持つ勇者が来て、王国の秩序は、これまでの「正しさ」を保っていられるのか。


「まともな者たちであれば良いですね……」

 

 力に溺れるような者達なら、私達は自ら毒を飲むことになる。


 勇者の迎え入れ、共に訓練を行うようになった。

 真面目な者、心優しき者もいた。

 それは本当にごく少数であり殆どが自分勝手な者達だ。


 気に食わない教官や他の生徒に暴力を振るい、終いには殺してしまうこともあった。

 それを咎める者もいない。

 

 勇者達は16歳から17歳と、まだ子供。男女合わせて30人。その半数以上の勇者達が手に負えない。


 特別な能力があるというだけで、ここまでも非道になれるには違和感を感じる。

 

 特に酷いと感じるのが、たった一人だけ戦う力を持たない勇者が、他の勇者に攻撃の的にされていることだ。


 同郷の仲間ですら非道を行える。

 本当にこれが勇者なのだろうか。


 それでも、彼らの力を戦争の為に使ってもらわないとないけない。

 皆、目を瞑ることしかできなかった。


 けれど、次第に暴力事件が少なってきた。

 どうやら、国から勇者達に奴隷を与えられたようだ。

 

 全てのストレスの捌け口を道具として扱われる人間に向けろということだ。

 奴隷なんて制度は許せない。

 けれど、それを受け入れる余裕が国にはない。


 そんなもどかしさを感じながら時間は過ぎていく。


 そんなある時、一人で隠れるように食事をしている女の子を見つけた。


 勇者の一人だ。

 星々を散らした夜空のような艶のある綺麗な毛髪、

 きめ細かい白い肌に宝石のような眩しさを持つ瞳、

 その整った容姿に一瞬見惚れてしまった。


 あれだけの美貌を持つのに、どうしてイジメられるのか不思議だった。

 加害者は全て男性だ。

 むしろ、好かれるために良くされても可笑しくないはずだ。

 いや、そもそも、勇者達がまともじゃ無いのだから、その価値観は当てにはならない。


「ごきげんよう、いつも勇者達に暴力を振るわれてるようだけど大丈夫なのですか。もしよろしければ私がお話を聞きましょうか」


 彼女のことを知れば、勇者達について何か知れるかもしれない。

 そんな下心はあったと思う。


「あいつらを殺してくれるなら、話をしてやるよ」


 綺麗で可愛い声で、言葉は乱暴だった。


「それは残念ながらできません。というより不可能です」


「じゃあ、あんたが俺の代わりになってくれよ。仕事内容は簡単だ。まず殴られる、彼らの粗末なものを舐める、股から異物を入れる、あとは殴られる。な、簡単だろ?」


 力強い意志を込めた瞳で見つめられる。

 『変わってくれる?』なんて期待じゃない。

 助ける覚悟もないくせに声をかけるなと言われてるようだった。


「それは……」


「誰だって自分が大切なんだよ。でも、気にすることはない、だってそれが普通だから」


 どうしてそこまで達観できるか不思議だった。


「見て見ぬふりをすればいい、誰も責めない。君以外は」


 まるで見透かしたように言う。


「そう言われると否定できないわ」


 私は勇者の女の子を優しく抱きしめていた。

 たぶん、言葉じゃ救えないと思ったから。


「なんだ、乳を人の顔に押し付けて興奮する変態だったのか」


 本当に口が悪い。


「人の優しさをなんだと――」


 私の胸を揉み始めた。


「何しているの!」

「嫌なら、何処へでも行ってどうぞ」


 イジメられている原因はこの子にもありそうに思えた。


「誰にでもそんな態度を取っているのですか?」

「カウンセラーのつもりか、向いてないから苦労するだけだぞ」

「貴女にも原因があるみたいですね……」


 同情してなかったと言えば嘘になります。

 けど、気の迷いだったかもしれないと思えてきました。

 

「……揉ませてくれた礼に忠告してやる。もう俺に関わらないほうがいい。人の玩具が勝手にいじられたら気分を良くしないのがガキの特徴だからな」


 何を言いたいのか、分からないほど私は馬鹿ではない。


 貴族社会でも見たことがある。

 解決策はより強い権力で押しつぶすこと。


「今は、誰も見てないわ」

「俺が我が身可愛さに報告するかもしれないな」

「するの?」

「幸せも不幸も決めていいのは俺だけだ」

 

 ここまで自分の意思を主張できるのに、力が無いから抵抗できない。

 

「貴女が一番強かったら良かったのに……」

「俺が一番強かったら、真っ先にこの世を支配するぞ」

「それは困るわね……あと、いつまで揉んでるんですか」

「そちらこそ、いつまで抱擁を続けてるんだ?」


 たぶん、話していても意見が合うことはない。

 

「失礼したわ、もう関わらないから安心してください」


 私は勇者の女の子を離し、距離を取る。


「最期に名前を窺ってもよろしいですか?」


「山田太郎だ」


 異界の住人の名前は本当に変だと常々思う。


 勇者と関わることはあまりない。

 下手に難癖をつけられたら困るからだ。

 乱暴で我儘で自分勝手で、それでも、戦争に出てもらわないといけない。

 この国で一番重宝されている毒物だ。


 それでも、

 初めてまともに会話をした勇者は変だった。

 

 それから、訓練の日々に熱を込めて取り組んだ。

 私一人の力が役に立つとは思えない。

 それでも、勇者の暴走を止めるには戦争をさっさと終わらせ、彼らの力が不要になればいい。


 そうすれば、きっと、今より生きやすくなるはずだ。


☆★


 

 婚約破棄された。


 それからは流れるようにして、

 学校を追放され、

 家から追放され、

 奴隷として売りに出された。


 こんな救いようのない世界のため、私は何をしていたんだろうか。


 あの時、山田太郎に声をかけなければ、こんな目には合わなかっただろう。


 でもそれは、腐った世界を必死に守るため努力する世界だ。


 これから先奴隷として自由のない地獄みたいな生活が待っているだろう。


 一体どちらが幸せなんだろうか。


 私には残された選択肢は地獄みたいな生活を、幸せか不幸か決める事だけだった。


 元侯爵令嬢というだけあって戦争奴隷にはならなかった。

 勇者共の玩具にもされなかったのは、せめてもの慈悲だったんだろう。


 私を買い取ったのは辺境の変態貴族らしい。

 何でも人体を壊しながら奉仕させるのが好きと聞かされた。

 

 馬車に乗せられ移動している最中に野盗に襲われた。

 

 御者と変態貴族は殺され、私は野盗に攫われる。


 アジトと思われる洞窟で、乱暴に扱われ、道具のように女としての価値を使われた。

 変態貴族のおもちゃにされるよりか、幾分マシだったと思う。


 不満があるとすれば、食事と衛生面を疎かにされていることだ。

 これなら、娼館に売られていたほうが良かったかもしれない。


 私以外にも、囚われている娘達がいる。

 幼い少女が三人、私と同じくらいの女性が一人。


 一人だったら心が折れていたかもしれない。


 私達はお互いを励まし合った。

 きっと助けが来る。

 長くは続かなかったけど。  


 次第に何も考えないようにするのが、楽だと気づいた。

 ただ死ぬこともせず、虚ろな瞳で天井眺める日々。


 代わり映えのしない日々は突然終わりを告げた。


 盗賊達の悲鳴が洞窟内に響き渡る。

 静寂が訪れ、少し時間が過ぎて、一人の女性が私達を救ってくれた。


 光を髪の毛にしたかのような白い髪の毛に、宝石のような眩しい瞳、傷一つない白い肌の天使のような人だった。

 ただ、山賊のような服装をしているのは不思議だった。   


 私達の存在を確認すると一度その場を離れ、着ている服装が変えて戻ってきた。


 私達は心も体もボロボロで反応することはできなかった。


 天使のような人は私達に触れる。

 不思議なことに、身体の痛みは消え、汚れや臭いが浄化された。


 それでも、心は死んだまま。誰も反応を示さない。


 天使のような人は私達を見据えて言う。


「俺は山田太郎だ。お前ら自己紹介できる奴からしてみてくれ」

 

 そこから先は、夢のような、あるいは嵐のような日々だった。

 彼は命令という形で、死にかけていた私達に食事を与え、自尊心を無理やり叩き起こし、そして――。


☆★


「おい、人の顔を抱き枕にするな」


 久しぶりにあの日のことを夢に見た。

 目の前には私を地獄の底に叩き落とした女、ライカ・カンザキと全く同じ顔をしたご主人様がいる。


「今日は私がご主人様を、独占する番ですから、幸せにしてくれるって約束してくれましたよね」


 私のご主人様、山田太郎様。

 今は初めてお会いした時と全く同じお姿をしています。

 私に抱き枕にされるのを嫌がりながら、きっちり、両手で私の柔らかい膨らみを堪能しています。


「まだ、起きないつもりか。俺は腹が減った」

「ギル様に会えなくて寂しいんですか、嫉妬しちゃいますよ」

「俺はお女体は好きだけど女は嫌いなんだよ。知ってるだろうが」

「それって、女として見てくれてるってことですよね!」

「面倒えくせぇ幸せ自動生成機になっちまった」


 私のご主人様、山田太郎様は、かつて、外れスキルの勇者として冷遇されていた。


 そのスキルの名前は『美少女』


 触れたものを美少女に変えるスキルです。


 当時はその使い方を完全に把握できず、山田太郎様が美少女になるだけの役に立たないスキルとして見られていました。


 私が追放される際、ライカ・カンザキは山田太郎様の美少女のお姿に変装して、元婚約者を誑かしました。

 私が地獄の生活を落ちた後、山田様は勇者の方々に見捨てられたそうです。


 そして、偶々盗賊の慰み者として使われていた私をそのスキルで誰もが羨む美少女に作り変えました。

 私は元々女性としても魅力でした。

 宝石の原石をより良い形に作り替えたと言えばいいでしょう。


 『美少女』というスキルで変化した者は、山田太郎様の思うまま支配することができます。

 死ねと言えば死ぬし、殺せと言えば殺す。

 どんなに心から否定しても行動を支配するスキルでもあります。

 その気になれば、心すら変えてしまう恐ろしいスキルです。

 でも、ご主人様は優しい人ですから、心までは弄りません……例外を除いては。


「私の幸せはご主人様の幸せです。いらないのであれば売るなり捨てるなり好きにしてください」


「俺は悪人を虐めるのが好きなだけで、善人を虐める趣味はない」


「はい、知っております。他者の責任で善人が虐げられても助けないのに、自分の責任で善人が虐められる事を嫌う捻くれ者ですよね」


 幸せにすると言った責任からご主人様が手を引くことはない。


 呆れたようにため息をつくご主人様の腕に、私はさらに力を込める。


 この国を覆う選民思想も、魔王軍との果てしない戦争も、今となってはどうでもいい。 


「……神崎来夏、あのクソアマに復讐したくないのか?」

 私が婚約破棄され、奴隷に落ちたことに罪悪感を抱いてくれているのだろうか。


「ライカ・カンザキのことですか。どうでもいいです。ご主人様の支配する世界で幸せにしてください」


「今日は偽善者共の夜会に、美少女に変化させた罪人のオッサン共を放つ予定だ」


「それは楽しそうですね」


「だろ? 神崎はもう捕まえて秘密基地で監禁してる」


「それでどうされるんですか?」


「神崎を俺のスキルで『美少女』に変えて支配してるから、紛争地帯に突っ込ませる。勇者様なんだから戦ってもらわないとね」


 ライカ・カンザキのスキルは、『変幻自在』だとご主人様から教えてもらいました。

 『変幻自在』は幻を自在に作り出し惑わし、作り出した幻を具現させる力。

 

「はい、勇者様として振る舞われてるなら、責任は果たすべきですね」


「うんうん、散々俺を『無能勇者』としてイジメてくれたからね。ちゃんと勇者として働いてもらわないと、イジメられ損になるもんね」


 ご主人様が士官学校でのイジメの主犯は、カンザキ・ライカだったようです。

 普段から『罪と罰の天秤は揺らぐことなかれ』と口にするご主人様も、ご自分のことになると熱が入るようです。


「夜会に忍ばせた美少女達と暑い夜を過ごしているタイミングを見計らって、スキルを解除する。想像しただけで笑えてくると思わないか」


「最高です!」


 ご主人様との会話は楽しく思う。

 昔の私からでは考えられなかった。

 この世界の支配者がご主人様なら、善人は善人として天秤に見合った幸せを送ることが出来るだろう。


「朝っぱらからイチャイチャと、ギルは悲しいです」

 ギル様が冷めた目線で私達を見ます。

 白く輝く毛髪に、空よりも澄んだ青い瞳、人形のように完成された美麗なメイド服の女性。


 ご主人様が初めてスキルを使った人がギル様です。


 元々は毛むくじゃらの大男。

 私の尊厳を散らした盗賊団の同僚ギルバード。

 それが今目の前にいるギルと呼ばれる美少女です。


 ご主人様のスキルの実験の末、肉体の影響が心にまで浸透してしまったらしく、今ではご主人様無しでは生きられない雌犬になってしまっています。


「……はぁ」


 その冷酷な気質を抑えるため、洗脳を強めた結果、

ご主人様大好きっ子へと変貌した。

 その責任から殺すに殺せない。

 スキルを解除しても、毛むくじゃらの大男に戻るだけ。

 そんな男が大好きと言ってくる地獄になるだけ。

 手元から手放すには危険すぎる凶悪性を持つため捨てられない。


 という理由で、手元に置いているみたいです。


 山田太郎様はとても難儀な方です。

 


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