EP84 光と影(2)
リージョンN、H市。カイドウ家の大病院。
緑豊かな中庭。
水飛沫を空に向かって押し上げる噴水。
ーーそこは光射す穏やかで優しい中庭。
初めて彼女に会った時、ユイは彼女が怖かった。
銀色の髪は、"あの時"を思い出してしまうから。
同じ時間、同じ場所で4度目に会った時、
ユイは彼女に名前を聞いた。
「わたくしは……レイ……」
小さな、消えてしまうような声。
レイは、幼馴染みのレイラによく似ていた。
髪や目の色が違うだけで、うり二つといってもよかった。
だから怖いとはいえ、彼女が気になったのかもしれない。
この綺麗なお人形のような少女が笑った時の顔が。
「あなたは?」
「ユイ、だよ」
ユイがそう答えた時、レイの紫が大きく揺れた。
そして泣きそうな声で、
「……ごめんなさい」
と繰り返す。
それが何を指すのか、ユイにはわからない。
ただ哀しそうに、苦しそうに、言葉を絞り出していた。
ユイはレイも自分と同じなのだろうかと思った。
ーーユイとレイ。
名前が似ているだけではなく、抱える苦しみがあるのも一緒のような気がした。
「友達になろうよ」
気がつくとユイはそう言っていた。
たったそれだけなのに、レイは泣き出した。
正直、驚きはした。
しかしどれほど辛い目にあったのだろうか、
そう思ったらユイも涙が止まらなくなった。
2人並んで声をあげ、ただ泣いた。
レイは言った。
「わたくし、ユイとお友達になりたい」
お互い涙でくしゃくしゃな顔、
それでも不器用に笑い合った。
リージョンNでは昔から、ふたりで約束をする時、お互いの小指を絡める風習があった。
ユイとレイがこの風習で誓ったのはたった一つだ。
「大人になってもずっと友達でいよう」
レイ曰く、子供の頃の友情は大人になっても続くことは稀だという。
だからこそこの友情が壊れることなく続きますように、と。
その願いはしっかりとユイの心に刻まれた。
レイと中庭で会うようになってから7日目。
レイは『もう会えないかもしれない』と告げた。
それを聞いたユイは、
”四葉のクローバーを一緒に探そう”
そう、提案する。
ユイはレイの四葉のクローバーを探し、レイはユイの四葉のクローバーを探した。
中庭を歩き回る2人。
程なく、ユイはレイの四葉のクローバーをすぐに見つけ、レイに渡した。
しかし、レイの方は一向にみつからない。
病院内の探せる場所はほとんど探した。
そのうち見つかるよとユイは気にしていない素振りを見せた。
しかしレイは「もう時間がないの」と悲しそうに言うのだ。
ユイはレイが退院する日が近いのだろうと思った。
ただユイはレイを安心させたかった。
「約束を思い出せるなら、なんでもいいの。大事なのはモノじゃない」
そして翌日。レイは、二つのクローバーをもってきた。
一つは、ユイがレイに送った四つ葉のクローバー。クリスタルに封じ込められている。
そして、もう一つはその四つ葉のクローバーを複製したレプリカだ。
それがユイの四葉のクローバーになる。
中庭で見つけた本物と、それを複製した偽物ーーいや。
重要なのはそこではない。
二人にとって、それが互いに相手を想ってのものであること。
そしてそれが、まぎれもなく“友情の証”だということ。
会えなくなっても私達は。
ーー友だ。
―*―
これがユイにとってレイとの思い出のすべて。
レイから四葉のクローバーを貰った翌日、ユイは退院することになった。
レイに別れの挨拶をと思ったのにあの中庭を訪れても、もうレイには会えなかった。
看護師に聞いても、この病院に銀髪の少女の患者は居ないと言う。
儚く目の前から消えてしまったレイ。
ユイにとってレイは大事な友達だったはずなのに、
いつしかユイはレイを忘れてしまっていた。
銀髪のルシー・フェルドの存在と共に。
置き去りにした時間を取り戻した今は、確信がある。
「また、会える」
そう思うのは、ユイの願いでもある。
偽物の四葉のクローバー。
ユイにとっては、それは今でも壊れることのない”友情の象徴”なのだ。




