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08 ーHACHIー ~俺の彼女と私の彼~  作者: 由耀
第5部 08 ―HACHI―
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EP83 光と影(1)

 リージョンK、S市。

 ここは、小さな無人島の周囲を埋め立てて拡張した人工の島。

 島全体が要塞であり、島の中央にはグラゼル家の、本邸がある。

 4階建ての大きな建物は、シンプルなデザインだ。

 これが個人宅とは言い難い。

 

 そして今日。

 1人の若い女性がそこを訪れる。

 白い仮面を付け、フード付きの黒い外套を纏う。

 はみ出した金色の髪の後れ毛が海からの風に揺れる。

 その後ろを黒髪の少年のようなAIドールが続く。

 機械で出来た猫耳が、最奥の部屋で奏でられている楽器の音を捉える。


「ようこそ。……美しき銀円の人」


 白い仮面を付けた執事の声が、エントランスにこだまする。


「……ブルーレイン」


 少し低めの女性の声は、何かの意思をこめてその言葉を口にする。


 執事はそれだけで彼女の要件を理解した。


「ジルヴ」

  

 1人のメイドが蝋燭を模した灯りを両手に、彼女たちの前に現れる。


「ラナン」


 女性が名前を呼ぶ。

 後ろにいたAIドールは、女性の前に数歩進む。

 メイドから2つの灯りを受け取り、片方を女性に手渡した。

 その灯りが彼女の白い仮面の一部を照らす。


 黒の外套のフードが少し風に煽られる。

 外套の隙間から見えている金色の髪を気にして、自然な仕草でフードの中に隠す。

 AIドールと女性は案内を続けるメイドに続いた。

 漆黒の回廊を三つの灯りが点のように続く。

 女性の靴の音が、廊下に置かれた置き時計の秒針と重なる。


 やがてエレベーターが見えて来た。

 メイドが扉を開く。

 ここから先は女性だけが通行を許可されている。

 女性はエレベーターにそのまま歩き進み入る。

 重さを感じ取った空間はその扉を閉じ始めた。

 ゆっくりと閉まる扉の向こう。

 灯りに照らされたAIドールのその顔を、女性は画面の奥から見つめ続けた。


 ーー地上4階。

 エレベーターが速度を落とし、4階で静止する。

 ふと女性の耳にも届く、ハイトーンの柔らかな音色。ヴァイオリンだ。

 エレベーターから一歩踏み出し、その優雅な調べの元に歩みを進める。

 上から緑色の光が照らされる。


『イジョウアリマセン』


 モニターの左の扉が開く。

 ヴァイオリンの旋律が流れ、向こう側には光。

 陽光を限りなく忠実に再現した、偽物だ。

 

 偽物なのは陽光だけではない。

 終わらない青空、美しく咲いた時を保存した花。

 水音は本物だが、流れる水そのものは偽物。

 そんな空間をこの部屋の主は愛している。


 女性は中へ向かう。

 アイスブルーの目が捉えるのは、ヴァイオリンを奏でる1人の女性。


 彼女の年齢はこの女性と同年代の、若い女性に見える。

 銀色の長いストレートヘア。

 紫色の目。

 着ているのは、この地方に長く伝わる伝統衣装。

 ただし白を纏うのには意味がある。

 伝統衣装に白を使うのは、初婚の花嫁の証だ。

 

「わたくしを待たなくていいのに」

「ですが……演奏の途中でしたので」

 

 小さな鈴のような、穏やかで愛らしい声。

 まだあどけなさを残した子供の声だ。

 彼女は途中で弓を持つ手を止める。


「ねぇ、レイラ。……順調、かしら?」

「はい、レイハ様。滞りなく」


 部屋の主に名を呼ばれた女性、――レイラは、女性からヴァイオリンを受け取る。

 それを近くにあるガラスのテーブルの上にそっと置き、ベルでメイドを呼んだ。

 入って来たメイドがヴァイオリンを片付け、別のメイドがグラスに淡い紅色の果実酒を注ぐ。

 それをレイラが受け取り、レイハに渡す。


「彼女は元気?」

「はい」


 レイラが答える。


 銀色の髪の若い女性――レイハは、レイラの白い仮面を、両手で外す。

 露わになる素顔。

 金色の髪のレイラ、銀色の髪のレイハ。

 纏う色が違う、二つの同じ顔が在った。


「レイハ様……私は……」


 レイラはその紫色の目を直視できない。

 見てしまえば、またレイハに重なることを知っているからだ。

 レイハは首を横に振った。


「分かっているわ。わたくしと貴女は一連托生でしょう?」


 あの雨の日。

 レイハに救われた瞬間から、そうなる運命だった。

 そうだ。私は、レイラ・リード・レゼル。

 

「ーー心得ております」


 そう答えたのは、自分なのだろうか。

 それとも、主によるものなのだろうか。

 発した当の本人さえもわからなかった。


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