EP79 希望のヒト(1)
アレンから、ルシー・フェルドにマシューの移行を行う準備が整ったと知らせを受けたユイは、ミオンと共に指定された場所へ移動した。
そこは祖母リエが勤務していたH市の病院に付属する教育施設だった。
この教育施設を選んだ理由は、二つあるという。
その日、教育施設は建立記念日で講義が休みだった。
室内運動場を貸し切りで使うことで、グライゼルの襲撃があったとしても被害を最小限にすることが出来る。更に病院が近いため、体調を崩してもすぐに対処できるようにするため。
残念なことにレイラは体調不良で不在だった。
その代わりトオルが現場の指揮を執るらしい。
「オレ、ここの学校の出身でさ。学生の時、サポーターとしてイサキさんに出会ったんだ。懐かしいな……。あの時は目の前の爺さんが、実は偉大な人だなんて知らなかったんだよな」
「うん」
「あの時イサキさんと会えたから、今のオレが居るんだ。その出会いに感謝してきた。だから今日はオレが出来ることの全てをやってみせる」
そう告げて、トオルはユイの控室を後にした。
ユイは鞄から、ミカゲから貰ったファミリー・リングの箱を空ける。
――お守りが欲しかったからだ。
不安に押しつぶされそうな心を守ってほしかった。
リングはシルバーの中に青と紫と緑の線が絡み合うように配色された、美しいリングだった。
ユイはそれを左の薬指に嵌めようとして――、苦笑する。
左の薬指よりもリングは大きく、どうやっても簡単にすり抜けるほど大きい。
「……これじゃ嵌められないじゃない。ばか……」
「あの完璧なミカゲ様でもしくじることってあるんですね!」
ミオンの言葉にユイは目を見張る。
これが誤解というやつかと……、しみじみ思う。
「そうだね……」
それでもユイはこのリングを左の薬指に入れたかった。
指輪の青い石に長く触れたら、中に内蔵された声が聞けるらしい。
しかしユイにはその声を聞く自信が無かった。
聞いてしまえば、戻れないからだ。
「ユイ様、只今からAIドールの移行作業を開始します。お立合い下さいますか?」
「分かりました」
トオルの部下の技師がユイを呼びにやって来る。
ミオンは外で警備を行っているセキジと連絡を取り合いながら、ユイの手を引いた。




