表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/85

EP70 対面(4)

「ユイ、帰るぞ。……立てるか?」

「はい」


 タクマがユイを促し、ユイが立とうとしたとき、身体がすこしだけふらつく。

 マシューが最初に気付くものの、少し遅れてミオンがユイを支える。

 それを見ていたミカゲが、マシューを見た。


「動きたいのに動けないって辛いだろ?」


 その言葉はマシューに告げているのか、ユイに告げているのか。

 ユイは判断が付かなかった。喉からこみあげて来る言葉を突きつける前に、

 ユイを庇うようにマシューが半歩前に進み出る。


「AIドールは万能ではない。出来ないことがあるのは人間と同じだ」

「……それでは護衛(シゴト)は務まらない。だから君の主は“器”を用意しようとしてるんだよ」


 ミカゲの言葉にマシューは言葉を失う。

 

「完璧な護衛が居たら、世の中誰も狙われてませんよ!」


 ミオンがミカゲに訴えかけるように告げる。

 その言葉を聞いたユイは、お腹に右手を添え、しっかりと床に足を付け、背筋を伸ばして告げる。

 

「ミカゲ様、ルシー・フェルドを私にください」


 その言葉を聞いたタクマとアレンは目を見張る。

 

「いいよ。――死神だけど、それでも欲しいんだ?」


 嘲笑を交えたミカゲの問いに、


「私にとっては、ルシー・フェルドは死神ではありません。希望の種なんです」


 ユイは真摯な表情で、真っ直ぐに赤紫の目を射るように見つめ、放つ。

 その言葉は美しい一本の矢のように、ミカゲを射抜いた。


「……へぇ。いいね、気に入った。じゃあお望み通り明日カイドウ家に行くけどいい?」

「構いません」


 ユイは即答する。


「ユイ、それは性急すぎるぞ……」


 代わりに慌てたのはタクマだ。

 しかしユイは杖を持つタクマの左手に、右手を重ねる。

 右手の甲にはあの奇妙な印が浮かびあがっている。

 子供の頃は左手の甲にあったはずだ。模様も昔よりもはっきりしている。

 アレンはそれを目にして、呟いた。


「これは……、まさか、ミシルシ、なのか……?」


 ミカゲはその赤紫の目を真っ直ぐユイに向ける。


「言い切るねぇ。実際それって、女王蜂ってことだよ。自覚、ある?」


 目に含まれる静かな熱に、ユイは少しだけおされ気味になるも――


「……わかりません。ただ、あなたのそのたとえは正しくないと思います」


 視線を一度逸らして再度、赤紫色を見つめなおす。

 その視線の強さに、この場の時間が止まる。


「……書類を一枚増やす。明日は急すぎるようだから翌々日にするとしよう」


 数秒の沈黙の後。ミカゲの顔から笑みが完全に消えた。

 ミカゲはユイを見つめたまま、静かな微笑みを一瞬だけ向け、扉に向かって歩き出す。

 それが合図と言わんばかりに、時間はまた巡り始める。

  

「なんかすごいもの見ちゃった気がする……!」


 ミオンの高揚した声で、ユイは現実に戻る。

 全身から力が抜けるのを、タクマが支えた。


「……はぁ。なんか滅茶苦茶怖かった。心臓の鼓動が半端ないわ……」


 頭から熱が出てくる。

 それを心臓ですべて受け止めて、一瞬で中和したような感覚。

 疲労感にも似た感覚に思わず本音が漏れてしまう。

 女王からユイに戻ったその瞬間を、タクマとミオンが笑顔で迎えた。


「気のせいだ。ユイが言うほど心臓は高鳴っていない」


 マシューが冗談を言うなんて、ちょっと貴重かもしれないと思ったとき。


「……ふむ。しかしあのミカゲから笑みを奪うとは……でかしたぞ、ユイ」


 滅多に人を褒めないタクマが、ユイを褒めた。

 それがユイにとっては少しだけ嬉しかった。

 カイドウ家に対して距離を取っていたアレンが、ユイに向かって歩み寄る。

 その足音は、急に重さを伴った現実的な、確かな音としてユイの耳に入る。

 そしてある地点で停まり、深々とユイに向かって一礼する。

 

「ユイ様、数々の無礼をお許しください。貴女様のお言葉、アゼレウス社をあげてお礼申し上げます」


 見上げたアレンの顔には、少しだけ涙が滲んでいた。

  

「今の貴女にならルシー・フェルドを託せます。彼を本当の意味で救ってください」

「はい、必ず……」


 ユイが即答した言葉を、お腹のユーリは嬉しそうに聞いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ