EP68 対面(2)
ユイとレイラとミオンが第4倉庫の奥へと進んだ後、
第3倉庫の外れで、原因不明の火災が起こる。
直ぐに消防チームが駆けつけ火は鎮火。
ボヤ騒ぎも落ち着くはずだった。
後に、この火災が単なる事故ではなかったと知る者は少ない。
そして、この日ここに現れた“ある人物”の存在が、すべての均衡を崩したことも。
第4倉庫前に何者かによって手榴弾が投げ込まれたのは、ユイが電動車椅子まで戻った直後だった。
入口付近から煙が押し寄せて来る。
どこに逃げれば……と三人が考えを巡らせたとき――。
側面の壁に穴が開いた。そこから何人かの人間が中へ入ってくる。
その中に灯りを手にした若い男性が、注意深く何かを探しながら近づいて来る。
「やっぱりここにいたのか。急いでここから出るよ」
それは以前アザリウムで聞いた若い男性の声によく似ていた。
「あなたは……?」
「話は後だ」
彼は灯りを下に置き、背後から来た者から毛布を受け取ると、ユイの肩に素早く掛ける。
ユイが毛布の温かさに安心していると、男性は突然、軽々とユイの身体を持ち上げる。
「何をするの!?」
「お腹の子に煙を吸わせるつもり? 少し黙っててよ」
言われてユイは黙る。口元に毛布をあて、煙を吸い込まないようにする。
「ふうん。意外と素直なのは良いね。んじゃ、二人とも立てる? 崩壊するから走るよ!」
さらに壁の側面が壊された音がする。
「レイラ様、お辛いようでしたらわたしの背中に。煙をあまり吸わないように」
「うん、大丈夫。こういうのは意外と慣れてる」
ユイは男性に抱き上げられたまま、開けられた大穴から外へ出る。
現場から離れたことを確認し、清浄な空気を体内に送り込む。
第4倉庫からは煙が立ち上っている。
安心したのは、レイラとミオンも直ぐ近くにいたことだ。
「レイラ、ミオン……大丈夫?」
「うん、大丈夫よ」
「わたしも平気です!」
二人の無事を確認してユイはホッとする。
マシューとセキジが気がかりだけれど、ミオンがセキジと連絡を取っている様子をみて、
ユイはその心配をとりあえず引っ込める。
「どこのどなたか分かりませんが、助かりました。……ありがとうございます」
「いや……この程度大したことじゃない」
「そんな……」
言葉を続けようとしたとき、ユイは男性の視線の先に驚く。ユイの右手の甲だ。
その赤紫色の目が僅かに鋭く細められるが、すぐにもとの表情に戻る。
男性はユイたちを救急車のもとまで連れて行き、
救助隊と一緒に静かにユイを降ろした。
直後。爆発音と共に、第4倉庫に火の手があがる。
「――っ!?」
「僕の部下が回収した。あとで洗えば、きれいになるから」
ユイは改めて男性の黒髪と赤紫色の目を見た。
あの時と同じ組み合わせ。アザリウムで見かけたアバターは彼そのものだった。
それでも警戒心は解いてはならないと思う。
が、男性の方が一枚上手だった。
「これは薬を溶かした水。お腹の子供を助けるものだよ。飲むかの飲まないかは君の自由だけど」
そう言われたら断る理由がなくなる。
実際、喉の渇きも感じている。
「……ありがとう」
ミオンもレイラも男性から水を受け取る。
「マシューとセキジは無事?」
「はい、無事です。今は怪我をした人を運んでいるそうで」
ミオンの言葉に、ユイはようやく安心した表情を見せる。
しかし一方でレイラは苦しそうにこめかみを押さえ、荒い息を吐いていた。
「レイラ、大丈夫?」
「ごめんね、煙吸ったかな……? 少し眩暈がする」
それを聞いた男性が手を叩いた。
すると男性の部下らしいスーツ姿の女性たちが数人駆け寄ってきた。
「彼女が安静に出来る場所へ連れて行ってあげて」
男性の言葉で女性たちは状況を把握し、苦しそうなレイラを支えながらテントへ向かう。
「君は大丈夫かい?」
「わたしは全然平気です。ちょいハードな訓練て感じですね!」
ミオンはこんな時も明るい。
「カイドウ家の訓練もなかなかヘビーだね。じゃあさ、ちょっと外してくれる?」
「……あなたは誰? ミオンは私の護衛です。勝手に指図しないで」
ユイは赤紫色の目を冷やかな視線で見つめる。
男性はその視線を全く気にせず受け止めた。
「あれ、自己紹介まだだった? 僕はミカゲ。以前、君の要請で君のAIドールを回収したよ?」
男性の言葉に、ユイは何となくそんな人が居たと理解する。
ミオンが名前を聞いて、僅かに上ずった声を上げた。
「ミカゲって……もしかしてマガミ家当主の、あのミカゲ様、ですか!?」
「そうだよ」
彼はニヤリと笑って見せる。
(このヒトがマガミ家当主……? うそ、私よりも若く見えるけど?)
「声が全然違う……」
「ああ、そうだったかもね」
ユイの疑問もミカゲにあっさりと流される。
「じゃあ行こうか、ここじゃない何処か」
その台詞をどこかで聞いたことがあると思いながら、一瞬だけ、躊躇が生まれた。
それでもユイは、ミカゲの手を取った。




