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EP51 女王

 カイドウ家本邸で、各界の要人が集まるパーティーが催された。

 とある重要な発表があるとされ、各種メディアや、それらの動きを見張る警備員も配置された。 

 現当主タクマ・キア・カイドウが正式に次期当主として、ユイ・リア・イサキを指名する。

 それをユイは皆の前で「謹んでお受けいたします」と受け止めた。

 ただしこの時のユイの服装は伝統的なカイドウ家の衣装、キモノではない。

 着ている黒のマタニティドレスは既存のキモノを解体して作られたものだ。

 宝飾は最低限にし、シンプルな装いにしている。

 このことから未来の当主は伝統的な文化を、独自の視線で受け止めるという理解が広がった。


 一部のメディアは、穏やかに微笑むユイに対し、こう質問した。


「お子様の父親についての公表はされるのでしょうか?」

「現時点ではその予定はございません」


 ユイは質問者に視線を向け、微笑みを崩さずに答える。

 別のメディアがさらにユイに迫る。


「しかしながら、お祝い事が二つ同時に来ていますし、立場ある方の慶事とあれば我々も祝福を世界に伝えたいのです。特に医療を司る名家であれば、多くの若者の模範になるべきでしょう」


「多大なる祝福をありがとうございます。そうですね、現時点では私はまだ当主ではございません。いずれ正式な当主になった暁には、正式な会見をさせて頂ければと思います」


 と、メディアに一礼し、去っていった。

 この時の印象をニュースではこう告げている。


『新時代の女王が、カイドウ家に誕生』と。


 そんなニュースを、今。

 ユイは、大きく膨らんだお腹を撫でながら他人事のように見つめた。


「なんか私じゃないよね」

「ま、らしくはないよね。ユイは女優の才能もあったわけだ」

「そんなのあったら、もっと器用に生きれたよ」

「そっか」


 床にはユイの長い黒髪がまた一束切られ、青いシートの上に落ちる。

 レイラの手で黒髪は次々切られ、そぎ落とされる。

 髪は軽くなるのに、身体にずっしりと重い何かが落ちて来るようだ。


 一方でマシューとトオルは、白と黒を反転させ、領域を競うゲームをやっていた。

 トオルにアドバイスを送るセキジは、マシューの手が届かない盤面の駒を動かすのを手伝っている。


「ミオンさんって言ったっけ。あなたって護衛なのメイドなの?」

「実はどっちもござれなんですよ!」


 現在のミオンはメイド服を着ており、レイラが切ったユイの髪を纏めている。

 和やかな一日。


 ユイはつわりがほとんどないのが救いだ。

 最近になってからユイは特に魚を好むようになった。

 特にリージョンRで採れる川魚をユイは好んで食べる。

 

 アヤカの依頼でトオルはよくカイドウ家本邸に顔を出していた。

 彼の趣味は魚釣りだそうで、出身地であるリージョンRの魚にとても詳しい。

 もちろんレイラも一緒に来ることがあるが、仕事が忙しいのか、頻繁にというわけではない。

 それでもユイは忙しい友人たちが、こうして自分を訪ねてくれるのは嬉しかった。


 ユイはマシューに視線を移そうと、頭を僅かに動かす。


「ハイハイ、動いちゃダメ。マシューが気になるのは分かるけど、ガマン」

「むう……」


「前髪切るからね、目を閉じて、動かないで、そのままそのまま……」


 レイラが操るハサミが、鋭い音を立てた。


『ユイ』


 誰かが自分を呼んだ気がして、ユイはハッと目を開ける。

 正面の鏡には肩で髪を切揃えた、澄んだ瞳の女性が映っていた。


 黒髪に黒い目。

 でも、その髪が銀色になり、目も黒から紫へと徐々に移っていく瞬間を、ユイは見た。


「レイ」

「ん? なんか言った?」


 最終調整のため、ユイから少し離れた後ろでハサミを握るレイラがそこにいた。

 鏡に映るユイの髪と目はやはり黒だ。


(見間違い……?)


「何でもない……完成?」

「もうちょっと。女王様の威厳をちゃんと表現しきれてないの」

「って……なにそれ」


 レイラの言葉にユイが心からの笑みを見せたとき。


「ユイには変わって欲しくない。いつまでも私のユイでいて」


 背を向けたレイラが告げた願いにも似た想いを、ユイは否定することは出来なかった。


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