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EP50 もう一つの家族

 リエの墓はカイドウ家所有の墓の中で、最も海に近かった。

 小高い丘の上、遠くには海が一望できる一角にリエの墓はあった。

 ダークグレイの石の墓に眠っているのはリエだけではない。

 ユイの父親、母親、トミオもまたこの墓に眠っている。

 マシューは遠くではばたき、鳴く海鳥を目で追っていた。海の青と空の青。

 その両方を360度、目で追えるこの絶景を、少しでも長く目にとどめておきたいと願うように。


「そっか、マシューは海を知らないんだっけ」


 スズランを供え、短い祈りを終えたユイは明るい青空を見上げる。

 海鳥の鳴き声が遠くこだまする。

 風がユイの髪を撫で、髪を揺らす。

 それをユイは片手で抑えながら、墓の背後に海を見つめる。

 マシューはユイのそんな様子をずっと沈黙したまま見つめていたが、不意に視線を落とす。


「いや……」


 何かを言おうとして上手く言えない、そんな戸惑いが黒いカメラアイに一瞬浮かんだが、

 海を眺めているユイはそれには気が付かない。


「ただ視覚的に捉えたことがないだけだ。すべてはここに集結するからな……」


 マシューのいつも通りの声。

 質問していないのに何かを説明しようとするお節介な一面を前面に出してくる。

 でもそれはユイにとっては当たり前のマシューだ。


「また小難しい話を……。マシューはホント私を煙に巻くのが得意だね」

「そうか? ユイはそう言いながら、耳ではしっかり受け止めていただろう?」


 確かに理解できなくても、マシューの言葉はちゃんと聞いていた。

 そう、マシューはいつも私に安全をくれる。


「そりゃそうだよ。マシューは余計な事言わないし」

「そうだな」


 ユイは墓の横に植えてある草の前で足を屈める。

 手は、これまで何度もそうしてきたように、小さな葉を丁寧に仕分ける。

 マシューはその場に待機状態で腰を下ろす。

 太陽の光がユイの髪に降り注ぎ、左の真珠色のイヤリングが輝きをみせる。

 マシューは目の前の光景に目を少しだけ閉じる。


「あ……あった。どうして本気で探さない時に限って見つかるんだろうね」

「四葉のクローバーか?」


 ユイがマシューの目の高さまで視線を下げ、少しぎこちない笑顔でマシューに差し出す。

 それは均等な大きさの葉を4枚付けた、少し大ぶりな四葉のクローバーだ。


「そう。これ、マシューにあげる」

「……ユイが持てばいい。息子に捧げるべきだぞ」


 マシューはユイから直接受け取ることを拒否するように、目の前の地面を見つめた。

 ユイはその視線の先に四葉のクローバーをそっと置く。

 そして立ち上がり、もう一度海を見つめる。

 お腹に手を当て、太陽の光りを受け――

 ユイは宣言するかのように言葉を放つ。


「この子の幸せは私がなるもん」

「やれやれ、マザコンに育たなければいいが」


 呆れるように呟いたマシューは、ユイが置いた四葉のクローバーを咥える。

 そしてダークグレイの墓の前に、そっと置く。

 その様子をいつから見ていたのか、ユイがマシューに声を掛けようとしたとき。

 黒檀の杖をつき、アヤカに支えられて、スズランの花束を抱えたタクマがやって来た。


「当主様……どうしてここへ?」

「……家族に会いに来ただけだ」


 タクマはユイと視線を合わせない。

 そんなタクマをアヤカが庇うように支える。


「そっか、今日だったんですね」

「ええ」


 リエ達の墓の向かい。大きな白い花が咲く木陰に立つ小さな墓石。

 大きさが均等な墓が三つ並んでいる。 

 そこにスズランの花束を置くのかと思えば、後から執事が持ってきた黄色い花を置く。

 

「あれ……」


 ユイは思わずアヤカが抱えるスズランの花束を見て、声を漏らす。

 その声に反応したタクマが、咳払いをした後にぶっきらぼうに言い放った。


「ついでだ。向かいに墓があるしな」


(嘘だ)


 海鳥の声が聞こえる。

 風の音が耳に聞こえる中、タクマは何を祈るのか……長く手を合わせている。


「私も手を合わせても?」


 ユイがアヤカに問う。

 するとアヤカは驚いたように目を見開くも、穏やかな微笑みを向けた。


「……嬉しいわ。ありがとう」


 ユイが手を合わせると、マシューも横に並び、目を閉じる。

 タクマとユイ、そしてマシューが並ぶ。

 墓に祈りを奉げる様子を墓の上にとまった海鳥が見つめる。

 海を望むその丘の、リエの墓と3つの墓にはスズランが奉げられた。

 

 ユイが選び取った四葉のクローバーは家族が眠る墓の中央で、水を受けて輝いていた。


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