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08 ーHACHIー ~俺の彼女と私の彼~  作者: 由耀
第2部 ー継承ー
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EP33 境界線(2)

 僕、ラナンは待機中だ。動物型AIドールの横で。

 目の前には観察対象者がいる。

 黒い瞳に黒い髪。僕の主とは真逆の印象の人間――、ユイ・リア・イサキ。

 僕の主が『境界線』を守るために行ったことは、彼女の癖や言動を学習させることだ。


 オリジナルとコピーを会わせて、そして比較して最終チェックする。

 僕はそのためにレイラの側にいる。


 そして僕の主は僕にもう一つ仕事を与えた。

 隣にいる動物型AI護衛サポートタイプ:識別名「マシュー」の分析だ。


 しかし先ほどからスキャンを試みるものの、ことごとく跳ね返されてしまう。

 いや「跳ね返す」じゃないな。


 僕が周辺把握に偽装して発したスキャンの波は、マシューのAIコアから発される微細な振動によって相殺されている。全て相殺じゃない。部分的に、かつ巧妙に、だ。


 結果、差し支えない情報だけ渡され「読み取った」と錯覚させられる。

 僕じゃなきゃコロッとだまされちゃうだろうね。

 ってか、これをすまし顔でやってのけるのだから……。


 いや、マシューは気づいていないのか? AIコアの自動防衛?

 気づいていないふりをしている……? どっちにしても癪だ。 

 

 僕は最新式のカスタムデザイン式ヒト型AIドール。しかも護衛サポートタイプだ。

 僕の方が性能は上……だ。


 しょうがない、何も成果を上げられないのは僕のプライドが許さない。

 方向性を変えてみよう。


「僕の主はさぁ、太るからといって甘いものを食べないくせに、作りたがるんだよなぁ」


 会話しながら漏れ出る波を拾ってやる。


 マシューは充電台から起き上がり、その場を離れる。

 なぜか。ユイという主が見えなくなったからだ。

 

 僕の眼でみるかぎり、充電に必要な時間はたかだか数分だ。

 つまりそれだけ高機能なコアを持っている可能性がある。

 マシューはユイの姿が見える場所を見つけると座り込み、そのまま待機状態に入った。

 

「……それでもおまえの主には必要なんだろう」

「そうなのかねえ。太りたいのか痩せたいのか、僕には意図がわからないよ」


 僕も主が見える場所に移動する。

 学習データによると僕の主は確かに“キレイ”とかいう存在らしいが、僕にはよくわからない。

 となりのマシューの目にはどう映ってるんだ? 


 感情センサーも追跡が出来ない。

 なんだこいつ。むしろ僕の方がコイツに筒抜けな可能性も……。

 まさかな。


「……それは我々が判断することではない」


 マシューが初めて僕を見る。

 分析してるとはっきりわかる視線だ。

 クソ。威嚇か? 牽制か?

 

「意図を知らずに主のサポートなんて出来ないよ?」


 僕は分析されないようロックを掛ける。

 遮断完了……。

 しかしこれではっきりした。

 コイツわかってる。そして”分からない素振りをしてやっているのだ”と知らせてきた。


 マシューはまた視線をユイに戻した。

 ユイはオーブンにケーキの型を入れている。

 マシューはオーブンに視線を移す。   

 

「知らずとも出来るサポートはある」


 ――主を知ろうとしていない?

 

 いや、コイツの行動にはムダがない。

 それどころか会話しながらオーブンの温度調整をする余裕すらある。

 蓄積されたデータから、高度な推論で先回りしているとしたら……知る必要は、ない……のか?


 察して動く。それはAIの領分を超えている――

 おいおい。ヤバすぎだろ。


「それは本当に、主に寄り添っていると言える?」


 僕はわざとユイの言葉を使って問いかけた。

 今まで鉄壁の守りを見せていたマシューが、僅かに揺らいだ。


「おまえにも立場があるのは理解する。だがそれは俺にも言えることだ」

 

 僕の口が少し痺れた。

 何をしたんだ、コイツ……。


 次の瞬間、マシューは犬のようにあくびをして見せた。

 そんな様子を見てユイが微笑む。


「じゃーん! マシュー、どう? すごくない!?」

「そうだな。鼻にクリームが付くほど夢中でやっていた」


「え、やば。そういうところは見てなくていいのに!」

「ははっ。こういうところ昔からまんまユイだよねぇ!」


 レイラが笑う。


「あーあ。僕も食べられたらいいんだけどなぁ」

「何言ってんのよ、ラナンが食べたら直通するだけでしょ」

「……下品だな」


 マシューのツッコミにユイとレイラが笑う。


 僕の主は知らない。

 マシューを分析したデータが、なぜかこの瞬間に消去されたことを。


 今日のところは認めよう。完敗だ。


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