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EP28 記憶

 マシューは目を伏せ、まだ待機姿勢のままだ。

 

「待ってるとは言ったけどよ。そのルール無視な衣装のままで来たのかよ」

「演目作品のイメージを優先させただけだ。団長も許可した」

「なら良いけど、あんまり突っ走りすぎて事故るなよ?」

 

 頷くヒロト。

 眼鏡をかけていないヒロトと視線が合う。

 澄んだ紫が少しだけ澱んでいる気がした。

  

「……恋人と来たとは思わなかった。邪魔してすまない」

「ん? 恋人? どうしてそうなるんだ?」

 

 ユイはそんな彼に、少しだけガッカリする。

 と同時に自分の思い込みを押し付けようとする態度に腹が立った。


「誤解です。勝手に決めつけないで」

 

 ユイの言葉が静かな空間に響いた。

 冷たい怒り。

 向けられたヒロトだけでなくトオルも動きを止めた。

 

 それまで待機中だったマシューが起き上がり、言葉を放つ。


「話は終わったようだな。ユイ、今日は宿をとったほうがいい。検索するか?」

「うん。……お願い」


 ユイはヒロトとトオルに一礼する。

 マシューはユイのバッグを咥え、ユイに渡す。

 ユイが立ち去ろうと一歩を踏み出したとき。


「待って。俺もトオルもリージョンCに帰る。送るよ」

「……ごめんなさい。お気遣い嬉しいですけど、結構です」


 冷たいユイの言葉があたりに響いたその時ーー。


「あー。この時間に歩くのはヤバいよ?」


 トオルが慌ててユイを止める。


「どうして?」

「昔、このリージョンには過激派組織「グライゼル」の拠点があったんだ。嫌かもしれないけど一緒の方がーー」


 ヒロトがユイにただ事実を話す。

 しかしユイにとってはその単語は凶器だった。

 

「過激派組織……グライゼル……」


 その単語を聞いた時、ユイの中で何かが揺れた。

 銃の音、人の悲鳴。

 広がる赤ーー、過去の悲惨な光景がユイに津波のように押し寄せる。

 両腕を抱え、震えながらその場にうずくまるユイ。

 

「ユイ!」


 マシューの声が遠ざかる。ヒロトもトオルの声も遠く消えていく。

 ユイの全てが過去に引き込まれる。

 

 忘れたいのに今なお鮮明に覚えている。

 どんなに振り切っても背後から迫ってくる。


 そんな忌まわしい記憶の全てが津波のようにユイに押し寄せた。


『……ヲ発見シタ。裁キヲ……』


 アレはあの時。リエとユイを見てそう告げた。


『オマエ……タチ サエ……』


 無機質に向けられる銃口。


 『イナケレバ』

 

 悲痛な叫びが辺りにこだました。


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