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EP27 後続者

「おお! コイツはすごい!」


 マシューを見たとき、彼は目を輝かせた。


「……知り合いか?」

「う~ん……なんか心当たりがあるような、ないような」


 明るい茶色の髪、明るい緑色の目。

 背は高くて鍛え上げられた筋肉が凄い。

 着慣れていないのがはっきりわかる、新品のビジネススーツ。


「アゼレウス社の人ですか?」

「あ……まだ違うよ。オレ、学生だし」


 学生さんということは。

 最新式の動物型AIドールに興味をもって、思わず口に出たのかもしれない。 

  

「ごめん、そんな睨まないで。怪しいかもしれないけど、怪しくないよ」

「怪しいって自覚はあるんですね?」


 腕組みをしてユイは彼をもう一度見る。

 素朴な印象の人だ。

 陽気で穏やかで素直……おじいちゃんの様な機械オタク、なんだろうか。

 

 ふたりのやり取りを聞いたマシューが大きく欠伸をする。


「うほ〜! 超リアル!!」


 彼はマシューの仕草に一層目を輝かせる。 


(なんか面倒な人に絡まれた気がする……) 

 

「ユイ、このままだと水上タクシーの営業時間が終わるぞ」


 マシューはチラリとユイを見上げると、”そろそろ切り上げ時だ”と態度で示す。

 でも記憶のどこかで、こうした熱量の人をレイラに紹介されたような――。

 考え込んでしまったユイを見て、トオルはショルダーバックから本を取り出す。


(ーー! おじいちゃんの! てことは……)


 間違いない、彼はレイラの……。


「オレ、トオル・ルオ・タケシバ。これありがとう。マジ感激」

「私は、ユイ・リア・イサキ……。レイラから話は聞いています」


 トオルはレイラと聞いて照れくさそうにしながら、頷く。

 その表情はなんだかトオルのことを話すレイラと似ていて、ユイの中で納得がいった。


(つまり、ふたりは。そういうことなのね!)


「ありがとう。……採用試験が終わったらお返しするんで、もうしばらくだけ借りていい?」

「ううん、持ってて。きっとお爺ちゃんに選ばれたんだよ」


 ユイは、トミオの遺志がちゃんと後続に繋がった瞬間を見たような気がした。

 トオルに微笑む。

 少しずつ形を成していくのがわかる、そんな予感がした。

 

 ー※ー

 それから2人はベンチに腰をかけた。

 それを合図にしたかのように、マシューはユイの隣で丸くなり目を伏せた。

 

 マシューの動きにトオルは始終興奮しっぱなしだ。

 最近分かったことだが、マシューは自身の”外見の印象”を大事にするフシがある。

 マシューなりの気遣いなのだろうか。


 トオルはユイに自分のことを話し始めた。

 今日は音楽フェスに出演する友人の応援のために駆けつけたんだそうだ。

 ついでに過去の因縁に決着をつけるために、ということもあったらしい。


 トオルには幼馴染の女性がいたそうだ。

 その彼女とは以前交際していた時期があったが、彼女の都合で別れた。

 彼女への想いをなかなか断ち切れずにいたところ、あるパーティーでレイラと出会ったのだという。

 レイラと意気投合し、話が弾んだ。


 彼女の祖父がアゼレウス社の重役であること、人材を探していることを知る。

 しかし、彼女の仕事への情熱に惹かれ、自身も強い興味をもち、バイトとして働くようになった。

 機械の販売サポートなど、初めての経験は数多くあった。

 元々興味のあったAIドールの最先端技術を目の当たりにし、「自分が求めていたのはここだ、いやむしろ求められている!」と感じるあたり、若さが爆発しているようだ。


 そこから一念発起して採用試験に挑む決意をしたという。

 目指すは、修理技能士のライセンスを得て、後々は特級技士へと。

 もちろん、既に特級技師であるレイラのことも節々に織り交ぜられ、その度にトオルの顔はにやける。


(……なんか可愛い)


 ただ、レイラと同じ会社に就職したとして、相手は重役の孫。

 しかも、自分より若いのに立場が上だ。

 そこが悩ましいのだと、悩ましい表情で熱弁している。


(でも……不思議。おじいちゃんが戻って来たみたい。だけどもっと柔和かも)

 

 話せば話すほど、ユイはトオルの明るい人柄を好ましく思うようになった。

 

(レイラが惚れちゃうのもわかる気がする)

 

「応援します。きっとお爺ちゃんみたいな修復専門師になれると思う!」

「修復専門師!? しかもオレがイサキさんのような導師に?」

「じゃあレイラと一緒に目指すのは?」


 ユイは少しだけ”レイラと”いう箇所を強調した。

 トオルは目を少しだけ見開き、トミオの技術書を鞄にしまう。

 そして、真剣な眼差しでユイを見た。


「ありがとう、前向きに検討してみるよ」


 まるで木漏れ日のような温かい微笑みを向け、ユイもそれに応えた。

 

 その時、今まで全く耳に聞こえてこなかった足音が急に聞こえた。

 足音の主は、先ほどの舞台衣装のままだ。


(どうしてここに彼が……?)


 息が荒い。

 走ってきた事実があるのに、まるで突如現れたような違和感があった。


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