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EP18 ゼロ

”運命”(システム)は、また俺に”選択肢”を与えるのか……』


 彼はそう悲痛な声を漏らした。

 震える手で作業を続けながら……始終悩み、苦しみ続けた。

 

 それはアゼロン・カンパニーからの通達が来た時から始まっていた。

 内容を確認した彼は、すぐさま”修理許可”が下りた理由を訊ねた。

 最初はオペレータが対応したが、彼は”管理者”の説明を求めた。

 

「恐らく下級あたりか中級かの”管理者”あたりが出るだろうが……」


 しかし対応にあたったのは、彼の予測を大きく上回る最上級ランクの”管理者”だった。

 

「どうして……それほどの案件だというのか?」 



『お客様とのやり取りはすべて文字にて行わせていただきます』


 彼は滅多に使われない昔ながらの、チャット画面に切り替える。

 うまく力が入らない指を酷使しながら、キーボードを打つ。


『私は管理者・SZ、お問い合わせ内容を確認し、応対させていただきます』

「ああ、よろしく頼む……」

 

『さて、当社のAIコアの修理許可申請を受理した理由をどうして言及なさるのですか?」

「許可が降りたからそれで良い案件であったなら、あなたは私の対応をしていないだろう」


「そうですね。あなたは優秀な修復専門師、いや導師と呼んでも良いほどの存在だ』 

「……私如きを導師とは、いささか過大評価が過ぎるのでは?」


 管理者・SZとのやり取りは、彼にとって避けられない戦いだ。

 彼は、管理者・SZを警戒しながらチャットを進めた。

 

『あなたは謙虚かつ勤勉な方だ。今もその技術を我々に提供しようとしてくださる』

「アゼロン・カンパニーに提供するとは一言も言っていないが?」


『今回の許可は申請者があなただからにほかならない』


 彼は言語を解読するため、老眼鏡を動かす。

 彼の中で感じていた不安と予感が的中していたのだろう、彼は舌打ちする。


「私は確かにアゼレウス社に属しますが、アゼレウス社の責任者ではありません。そういうことでしたら今回の”修理許可”は取り下げてください」


『わかりました。我々はそれでも構いませんが、それで本当によろしいのですか?』


 管理者・SZがチャット画面に動画を送信する。

 その動画には、若い女性と……その背後に黒い車が映っている。

 彼はその動画を見せられ、激しい怒りを見せた。


『……本当の意味で奇跡を起こしたいとは思いませんか?』


 管理者・SZの言葉が彼の心を射抜く。

 動揺を隠し、彼は震える指先を懸命に理性で押さえつけながら文字を綴る。

 

「私は家族に”罪”を残して、この世界を去るつもりはない」


 それは彼自身の揺るぎない信念。

 しかし管理者・SZはそれすらも崩しにかかる。


『いいえ、罪ではない。これはあなたが背負った使命の対価だ』

「決定権は私にあると?」

『そう考えられても良いでしょう。我々は選択肢を用意しただけにすぎません。では、失礼いたします』


 通信はそこで終了した。

 彼の頬をつたう雫は、ひび割れた画面へと落ちた。


 ー※ー

 このメモリーを、”主”の許可なく”削除”することは出来ない。

 しかしこの事実をあの繊細な”主”が受け止められるだろうか。


「ふぁ~~。 マシューっ、おはよう!」

「おはよう、今日は成人式だ。忙しくなるぞ、メシはしっかり食っておけ」

「え……、コーヒーだけで良いし……」


 俺の”主”は、ユイという。

 彼女がつけてくれた名前は”マシュー”だ。

 どうしてこの名前をわざわざ俺につけたのかは、俺が知るところではない。

 俺はいつも通り彼女と共に在り、彼女のサポートをするだけだ。

 

 俺はその記憶をもう一つのコアに送った。

 そのコアで”ロック”しておくことにする。

 

 この記憶をいつか”主”(ユイ)が必要としたとき、いつでも伝えられるように。


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