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EP13 お見合い(2)

 ふたりが池の辺まで歩いてきたときだった。

 岩で囲まれた池には景観の美しい滝があり、広い池には大きな赤や金色の魚が泳いでいる。

 

「リエさん。結構歩きましたが、疲れてはいませんか?」

「はい」


 リエから笑みが消えて暫くたつ。

 リエの視線は池の滝に向けられていたが、滝を見ているわけではない。

 ただ言葉なく池の辺に立ち、何か考え事をしているようだった。


 トミオはそんな状態も疲れるだろうと、辺りを見回し座れる場所を探す。


「近くに座れる場所があれば、そこで少し休みませんか?」

「いえ……。大丈夫、です」


 リエはそう言いながらも、左足を庇って立っている。


(いつからだ……?)


 足の動きが妙だとは思っていた。

 キモノを着た女性は独特の歩き方をすると社長夫人から聞き、そういうものなのだろうと思っていた。

 親指の付け根、白い足袋が僅かに赤く染まっている。

 

「靴擦れ……?」


 リエは目を伏せ、小さく頷いた。

 

「大丈夫です、大したことありません」

「仕事柄よく指先を痛めることがあるんです。そのせいかこれをポケットに入れる癖がありまして」


 トミオはポケットから小型の絆創膏を取り出し、半ば強引にリエに渡す。


「どこか座れる場所を探してきます。リエさんはこの場で待っていてください」  


 リエはトミオから絆創膏を受け取る。

 トミオはリエに離れることを告げてから背を向け、離れて行った。

 

 その時リエは初めてトミオの名前を呼んだ。

 リエのその声はこの時のトミオに届くことはなかった。


 -※-

 トミオが東屋を見つけ、こちらに移動してきたリエは、慣れた様子で足に絆創膏を貼る。

 その様子を見られたくないだろうとの配慮から、トミオは先ほどからリエに背を向けている。


 トミオは目の前に咲く赤い花を見ていた。

 花に疎いトミオでもわかる花はこれしかない。

 

「すみません、終わりました。ありがとうございます」

「いいえ。大したことではありませんから。歩いて大丈夫ですか? そろそろ――」

「待って、待ってください。イサキさんに話さなければならないことがあります」


 トミオを見つめ泣きそうな表情で必死に首を左右に振るリエ。

 リエの表情がすべてを物語っている。


「何か事情があるようですね」

「はい。……長くなりますが、聞いていただけますか?」

「もちろんです。私が聞いてしまっても差し支えなければ」 


 リエには学生時代から交際をしている幼馴染の男性がいるという。

 しかし彼女の祖父は以前からその男性との交際に反対していた。

 それでもリエは、その男性と交際を続けた。

 ならばと祖父はお見合いの場を強引に作った。

 最悪なことに、お見合いのことが相手の男性の耳にも入ってしまう。

 疎遠の状態はもう長く続いており、リエは板挟み状態のまま今日を迎えた。


(なるほどな……)


 ふたりのお見合い話がやけに強引に勧められていることに、トミオも疑問に思っていた。

 何かのカラクリがあるのだろうと察し、トミオも様子を見て穏便に済ませようと思っていた。

 

 目の前にいるリエは、映像でみるよりずっと素敵な女性だ。

 男性が圧倒的に多い職場で、彼女のような魅力的な女性と出会うことはまずない。

 トミオにとってこうした場を持てたことは幸運だったが、それがリエにも当てはまるはずはない。


(すれ違う運命だろうと思っていた……やっぱりそうなるよな)


 トミオにはリエを守るだけの力も立場もない。

 せめて彼女の想いが良い方向に行くように、遠くから応援するぐらいだ。

 

「事情はわかりました。私の立場では私の方から破談にすることは出来かねます」

「そう……ですよね……」

「ですが、リエさんの方でその方向でお話を進めていただくのはどうでしょうか?」

「え……」


 リエの顔が悲しみに染まる。


「イサキさんにも事情があるはずなのに……。私の都合ばかりを押し付けて……本当にすみません」 

「そんな辛そうな顔をしないでください。今の話は、打ち明けず黙っていることだって出来たはず」


 トミオの言葉にリエは頷く。


「リエさんは俺に隠さず真摯に話してくださった。……ありがとう」


 リエの目が潤む。

 澱みのない澄んだ涙だと、トミオは思った。


 ー※ー

 トミオが提案したのは、二人で協力してこの場を綺麗に収めることだ。

 自分の立場でどこまで出来るかわからない。それでも出来る限りのことをすると、リエに告げる。

 

 トミオは時計を確認する。

 庭園に来てから一時間が経過した。

 そろそろ戻ってきてもいい時期だと社長たちは考えるだろう。

 二人の空気がぎくしゃくとした重たい空気であればリエとの計画に差し支える。

 トミオは心を落ち着け、故郷の動物園の話を始めた。

 

 携帯端末にあの動画は保存されている。

 それを素早く確かめた後、トミオはリエに対し初めて強引に、そして唐突に話題を振った。

 リエは驚いた様子を見せる。


 (そんな顔も見せてくれるんだな)


 トミオは業務上、セールスを行うことがある。

 軽いジョークを交えてトミオはペンギンの動画をリエに紹介した。

 トミオにとっては女性相手のプレゼンと何ら変わりはない。

 それなのにリエは素直な様子でごく自然に動画に妙味を示した。


「見てみますか?」

「はい、ぜひ!」


 トミオが端末を操作し、リエに手渡す。


(本当にこの動画が役に立つとは思わなかったな)


 愛らしいオスのペンギンの一挙一動のズームアップに「すごい」、「可愛い」を連発するリエ。

 その笑顔が心に刺さる。

 

「見せてくださってありがとうございます!」

 

 トミオの携帯端末がリエからトミオに渡される。

 いま、更に手を伸ばせばリエに手が届くかもしれない。

 

(いや、……これでいいんだ)


 リエから携帯端末を受け取り、トミオとリエは和やかな雰囲気で個室に戻る。

 ふたりのお見合いは大成功したと、当事者達以外の誰もが疑わなかった。


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