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08 ーHACHIー ~俺の彼女と私の彼~  作者: 由耀
第5部 08 ―HACHI―
114/124

EP110 世界

 リージョンN、カイドウ家本邸。

 失踪したユイとMathew、レイラを含むグライゼル当主らの行方を全力で捜索していた。

 泣くユーリを抱きながらアヤカは、外を見た。

 

 アーリア海で小型のヘリの残骸が見つかった。

 しかしMathewの残骸も、ユイの遺体も発見されていない。

 海底も調査されたが、遺品となる物は何も残っていなかったという。

 きっと生きている、とアヤカは信じている。

 

 ――Mathew、どうかユイを守って。

 

 その願いがMathewに届いたかどうかは分からない。

 同じ想いを幼いユーリもまた抱いていた。


 ―*―

 一方タクマは、リージョンFの当主会議でユイの代理として参加していた。

 グラゼル家当主が“世界”と”神”を再び裏切ったというシナリオを、世界に伝える必要があるからだ。


 目の下に深いクマを作りながら、ミカゲは会議で意見を述べる。

 アハド家当主ロバート・グラン・アハドが、その長い髭をいじりながら孫を見た。


「曾孫が新しい守護者とはな……。ようやく神がその役目を終えるか」

「まだ役目を終えられると決まったわけではありませんよ」

「彼女のせいで世界は荒れた。グライゼルを動かした責任をカイドウ家はどうとる?」

「カイドウ家はなにもしていない。その正当性を行動で訴える。あとは司法と思想が整えてくれ」


「……グラゼル家は消えてもらいましょう。世界が変わる時、生贄は必要ですし」

「なぜそこまでユイに固執するんだ? 女王の因子が目的か?」


 タクマの質問にミカゲは小さく微笑み、そしてすぐに真摯な眼差しで言い切った。


「ユイは僕の妻だ」


 僅かな沈黙の後。


「……それが、死と同義であると知ってもか?」


 ロバートが揺れる視界で孫を見つめる。


「僕は神の前で永遠の愛をユイに誓いました。彼女がどう答えようがこれは変わらない」

「貴殿の愛は本物だったのだな。ありがとう……。ユーリをユイを、頼む……」


 タクマはうつむき、ロバートは窓の外に視線をずらす。

 ミカゲは両者の想いの大きさを感じながら、目を瞑った。


 しかしミカゲは知っていた。

 初めからこの結末を迎える事を。

 僅かに予定が早まったものの、それだけだ。

 本当に神を裏切ったのは、グラゼル家でもグライゼルでもない。


 ”誰かを想うことは罪ではない。

 その結果を望んでしまうから罪になるんだ” 


 僕はユイと初めて出会ったあの日、望んでしまった。

 消えることのない想いを。


 ―*―

 カイドウ家当主だけが去った、ミカゲの執務室。

 アハド家当主が温かい紅茶を口に含んだ時だった。 


「リージョンKのグラゼル家本邸には戦える者は残っていない。それでも制圧したという事実が欲しい。僕が動いていいですね?」


「構わんが、儂が動いたほうが良いのではないか?」

「いいえ、花嫁を奪われた者が動いたほうが“絵”としては美しい」


「アゼレウス社はどうする?」

「社長を変えます。トオル・ルオ・タケシバと言う技師が適任でしょう」

 

 トオルとアレンは現在アハド家の本邸で保護されている。

 暴徒からの襲撃から守るためだ。


「それはおまえを庇ったからか?」

「それもありますが、彼のエピソードは悲劇の美談になります」


 神シュゼルトから”同調”を消された今となっては、大勢の人間の「目」を使うしかない。

 それにこうなることは最初から分かっていた。


「恐ろしい男だな。魔王でもなるつもりか?」

「神を裏切った時から、僕はもう魔王ですよ」


 ―*― 

 誰もが引き返せない夜を過ごした夜。

 美しい星空に流れ星が一つ流れた。


 衰弱した姿のままミカゲは緊急報道会見を行った。

 愛する花嫁を奪われた花婿の涙の会見は、多くの人間の涙を誘った。


 一方でミカゲも予測しなかった人物が動く。


 それはRARUTOのラウルだ。

 彼は多くのSNSを使って女王の目撃情報を募った。

 

 彼が見た女王の姿は、世界の悪グライゼルによって奪われた”世界の聖女”だった。

 そんな聖女をどうか温かく迎え入れて欲しい、そんな願いをこめて彼は歌ったのだ。

 その歌が全世界で大ヒットしたというのは面白い皮肉だろう。

 

 魔王ミカゲ・カイ・マガミが描いた愛の嘘。

 それは誰にも知られることなく、最高のエンディングを持って迎えられることになる。


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