第9話 青い画面のフリーズ
朝の光がカーテンの隙間から差し込んで、俺の顔を直撃した。
「うっ……まぶしい。」
寝ぼけ眼でベッドから這い出して、いつものようにデスクに向かう。
昨日は音のトラブルを何とか解決した達成感で、珍しくぐっすり眠れた。
俺はコーヒーを淹れながら、いつものルーティンを開始した。
PCの電源を入れる。Windowsのロゴが表示される。そこまではよかった。
その後は青い画面で止まったまま。
「ブルースクリーン!?」
心臓が一瞬止まった気がした。いや、違う。ブルースクリーンならQRコードとかエラーコードがドーンと出るはずだ。でも今のは……ただの青。真っ青。文字もアイコンも何もない。ただの青い海。まるでWindowsが「もう疲れたわ」と投げ出したみたいな。
「うそだろ……」
俺は慌ててキーボードを叩く。Ctrl+Alt+Del。反応なし。
マウスカーソルすら動かない。
「グラン! 助けてくれ!」
【グラン】
「おはよう、ゆうた。……随分と慌ててるな。何かあったか。」
「ブルースクリーンだ! でも普通のじゃない! ただの青い画面! 何も出ない!」
【グラン】
「ふむ。画面の色コードでいうと#0078D7か。Windows 10の初期ブート時の青だな。起動途中で固まってる可能性が高い。」
「起動途中って……昨日は普通にシャットダウンしたぞ!」
【グラン】
「昨日はな。寝てる間にWindows Updateが走った可能性がある。2026年の無料ESUだと、セキュリティパッチはまだ強制的に来るからな。」
「マジかよ……」
俺は電源ボタンを長押し。5秒、10秒。ファンが止まる。完全にシャットダウン。深呼吸して、もう一度電源ボタンを押す。
ピピッ……ファンが回り始める。
Windowsのロゴが出て、くるくる回るドット。そして――また青。
「またかよぉぉぉ!」
絶叫が部屋に響いた。
【グラン】
「落ち着け。まだパニックになる段階じゃない。まずはセーフモードで入れるかどうか試そう。」
「セーフモードって……どうやるんだっけ?」
【グラン】
「今はもう通常起動ができない状態だ。強制的に回復環境に持っていくしかない。手順を言うぞ。」
俺は頷きながら、グランの指示を一つずつ実行した。電源ボタン長押しで強制シャットダウン(2回連続)。
3回目の電源オンで、Windowsが「自動修復を準備しています」と表示されるのを待つ……
表示された!
「来た!」
青い画面に「自動修復を準備しています」の文字。
続いて「Diagnosing your PC」。
そして――「PCを修復できませんでした」
「うわあああああ!」
【グラン】
「予想通りだ。だが、ここからが本番だ。画面の下に『詳細オプション』があるはずだ。クリックしろ。」
俺は震える指でクリック。→ 「トラブルシューティング」 → 「詳細オプション」 → 「スタートアップ設定」→ 「再起動」
再起動後、数字キーの選択肢一覧。俺は4を押した。セーフモード。……画面が切り替わる。デスクトップが出た!猫壁紙はいつも通り。でも解像度が低くて、色が変。ドライバが最低限しか入ってない証拠だ。
「入れた……入ったぞ!」
【グラン】
「よくやった。だが、これは応急処置に過ぎん。ここから原因を特定するぞ。」
「原因って……何が考えられるんだ?」
【グラン】
「最近のWindows Updateが一番怪しい。次点でドライバの相性問題。特にグラフィックドライバだな。内蔵GPUの古いIntel HD Graphicsが、最新パッチでコケるケースは今でも報告されてる。」
「じゃあどうすりゃいいんだよ……」
【グラン】
「まずは更新のアンインストールだ。セーフモードならコントロールパネルからできる。」
「わかった。やってみる。」
スタート → 設定(歯車アイコン) → 更新とセキュリティ → Windows Update → 更新履歴の表示 → 更新プログラムのアンインストール
一覧の中に、怪しいのがあった。
「KB504xxxx – 2026-02セキュリティ更新プログラム」インストール日時は……昨夜の2時半。
「これだ! 絶対これだ!」
【グラン】
「決めつけるのはまだ早いが、可能性は高い。右クリック → アンインストールだ。」
俺は祈るような気持ちでクリック → はい → 再起動。再起動中、心臓がバクバク鳴っていた。
Windowsロゴ……ドットが回る……そして――通常のログイン画面。
「うおおおおお!」
俺は思わずガッツポーズ。パスワードを打ち込んでデスクトップへ。猫壁紙が、いつも通りの解像度で俺を迎えた。
「やった……やったぞグラン!」
【グラン】
「ふっ。確かに一歩前進だ。だがな、ゆうた。」
「ん?」
【グラン】
「次も同じことが起きる可能性は十分にあるぞ。まだ序の口だ。」
「……わかってるよ。」
俺はコーヒーを一口飲み、大きく息を吐いて画面を見つめた。
一瞬、壁紙の猫がヒゲをピクピク震わせたような気がした。まだ終わらない……




