第5話 回復ドライブの作成
ようやく……ようやくWindowsが起動した。デスクトップが表示された瞬間、俺は椅子に深くもたれかかった。肩の力が抜ける。心臓のバクバクが少しずつ収まっていく。
壁紙の猫が、いつもの位置でこっちを見てる。ほっとした。
「はあ……生き返った……マジで生き返ったよグラン……」
俺は小さくつぶやいた。CMOSクリアとBIOS初期化で奇跡的に復活したけど、もうケース開けるのはこりごりだ。
【グラン】
「ゆうた、よくやったな。無事に起動したみたいだ。」
「うん……もう大丈夫だろ……これでしばらくは平気だよな……」
俺はマウスを軽く動かして、アイコンを眺めた。エクスプローラー開いてみる。HDDのドライブもちゃんと認識されてる。ほっと胸をなでおろす。
【グラン】
「……まあ、そう思うのは勝手だが。」
「え?」
【グラン】
「念のため、回復ドライブ作っておけよ。今のうちに。」
「回復ドライブ?」
俺は首を傾げた。聞いたことはあるけど、作ったことなかった。
【グラン】
「ああ。最悪起動しなくなったとき、これがあれば回復環境に入れる。コマンド打ったり、修復したりできる保険だ。ゆうたみたいなトラブル体質には必須だ。」
「トラブル体質って言うなよ……でも、確かにまたあんな目に遭ったら死ぬ……」
俺は少し考えて、立ち上がった。引き出しをあさって、埃まみれの16GB USBメモリを見つける。
「よし、作るか……グラン、教えてくれよ。」
【グラン】
「お、素直でいいな。まずはスタートメニュー開いて、検索ボックスに『回復ドライブ』と打て。」
俺は言われた通りにした。
「回復ドライブの作成」がヒット。ダブルクリック。ユーザーアカウント制御の確認が出る。
「はい」を押す。ウィザードが起動した。
「一部のシステムファイルを回復ドライブにバックアップする」ってチェックボックスがある。
【グラン】
「そこは必ずチェック入れろ。外すとただの起動メディアになるだけだ。システムファイルもコピーしておけば、後で楽になる。」
「了解。」
俺はチェックを入れて、次へ。
接続されているドライブの一覧。
俺のUSBメモリが表示されてる。容量十分。
「このドライブ上のすべてのデータが削除されます」という警告が出る。
まあ、古いデータしかないし。次へ。作成ボタン。押す。
フォーマットが始まった。進捗バーがゆっくり動く。
「……意外と時間かかるな。」
【グラン】
「30分から1時間は覚悟しろ。USBの速度とマシンのスペック次第だ。
Lune ProOffice 7100じゃ、こんなもんだろ。」
「そっか……」
俺はコーヒーを淹れに立ち上がった。戻ってくると進捗は20%くらい。座って画面を見つめる。
【グラン】
「回復ドライブがあれば、次に何か起きても少しは対応しやすい。chkdskとかsfcとか、コマンドプロンプトからいろいろできるぞ。」
「うん……ありがとな、グラン。言われなかったら作らなかったかも。」
【グラン】
「ただな、ゆうた。これで万全ってわけじゃないぞ。」
「え?」
【グラン】
「回復ドライブはあくまで対症療法だ。HDD自体が古い。セクター劣化が進んでる可能性は高い。いつ本格的にヤバくなってもおかしくない。」
俺は少し黙った。
「……そっか。でも、今はこれでいいよな?」
【グラン】
「まあ、一歩前進だ。根本的な解決は別としてな。」
進捗80%。コピーが進む。
俺はため息をついた。新PCなんて、まだ手が出ない。でもこのまま使い続けるしかない。
ついに100%。完了。
「できた……回復ドライブ、できたよ。」
俺はUSBを抜いて、ラベルにペンで書いた。「回復ドライブ」と。
【グラン】
「よし、上出来だ。次にトラブル来ても、少しは慌てずに済むだろ。」
「うん……ありがとう、グラン。念のためって言ってくれてよかった。」
俺は椅子にもたれて画面を見た。壁紙の猫が一瞬目を細めたような気がした。
心のどこかで小さな不安がこみ上げてきた。この古いPC、本当にあとどれだけ持つんだろう。まだ終わらない……




