第2話 Windows Updateの不具合
CMOS電池交換から一夜明けた朝。
俺はまだ半信半疑で電源ボタンを押した。ビープ音は鳴らない。
Windows 10のロゴがゆっくり回って、デスクトップが現れる。
壁紙の猫が「にゃー」とこっちを見てる気がした。
【グラン】
おはよう、ゆうた。生き返ったな。
でも油断するな。今すぐバックアップ取れ。64GBもあれば余裕だ。
「ドキュメント」「デスクトップ」「お気に入り」フォルダだけでもいいからUSBメモリにコピーしろ。
後で泣くぞ。
「……めんどくさいな。」
でも、確かにグランの言うとおりだ。
机の引き出しに入れていた128GBのUSBメモリを引っ張り出す。
大事なフォルダをドラッグ&ドロップ。
30分くらいで完了。
【グラン】
よし、これで最悪死んでもデータは生きてる。
安心して戦えるな。
安心したのは、その夜までだった。翌朝。
コーヒーを淹れて、いつものように電源ボタン。モニターが点く。
でも、そこにあったのは見慣れたデスクトップじゃなかった。黒い画面に白い文字。
Non-System disk or disk error
replace and strike any key when ready
「……は?」
キーボードを叩く。何も変わらない。再起動。
また同じメッセージ。ビープ音は鳴らない。ただの無情な白文字。
「グラン!! 助けて!!」
【グラン】
落ち着け。スクショか写真撮れ。
メッセージを全部見せて。
俺はスクショを撮ってグランに送った。
【グラン】
……来たか。
これ、2025年11月のWindows 10更新で混入した
KBXXXXXXXXX(架空) がブートセクタを破壊する超有名不具合だ。
Microsoftも公式に削除推奨してる。まずは設定から消してみろ。
「設定」→「更新とセキュリティ」→「Windows Update」→「更新の履歴を表示」→「インストールされた更新プログラムのアンインストール」やってみる。
リストの中に確かに KBXXXXXXXXX(架空) がある。
右クリック→アンインストール。
「この更新プログラムは削除できません。」
「グラン、エラーが出て削除できない!」
【グラン】
落ち着け。
次は、セーフモードでwusaコマンドだ。
F8連打はもう効かないから、俺の指示通りにやるぞ。強制的に3回再起動(Shift+再起動)。
「トラブルシューティング」→「詳細オプション」→「スタートアップ設定」→「再起動」。
「4」キーでセーフモード。
なんとかセーフモードに入る。
真っ黒なデスクトップ。懐かしい感じすらする。
【グラン】
よし、管理者権限のコマンドプロンプトを開いて以下のコマンドを入力するんだ。
一文字ずつ確実にな。
wusa /uninstall /kb:KBXXXXXXXXX /quiet /norestart
俺は震える指で、スマホの画面を見ながら一文字ずつ打ち込んだ。
最後にEnter。
「グラン、コマンドを入力した。」
【グラン】
よし、削除予約完了。
再起動だ。再起動1回目。
しかし、またNon-System Disk。
「うそだろ……」
【グラン】
焦るな。2回目いくぞ。再起動2回目。
今度は違う画面。
File: \Boot\BCD
Status: 0xc0000098
Info: The Windows Boot Configuration Data file contains no valid operating system entries.
「……新しいエラーが出た!!」
【グラン】
想定内。
ブートセクタが修復されかけてる証拠だ。
もう1回再起動。
震える指でEnter。再起動3回目。
Windows 10のロゴがゆっくり回る。
いつもより少し長い気がした。そして、デスクトップ。猫の壁紙。
タスクバーの時計がちゃんと動いてる。
「……起動した。」
【グラン】
おかえり。
KBXXXXXXXXXは完全に消滅した。
これでしばらくは大丈夫だ。
俺はソファにへたり込んだ。
「これで……本当に大丈夫か?」
【グラン】
甘い。15年も前のPCだ。何が起きても不思議じゃない。
壁紙の猫がこっちを見て「まだ安心するな」って言ってるような気がした。




