第五話 崩れかけた村と霧の守護者
森を抜ける獣道を、ぎしぎしと荷馬車が進んでいく。
ミネルが手綱を握り、その横を俺が歩く。霧の仮体は、相変わらず半透明だが、村に入る以上、あまり得体の知れない雰囲気を出しすぎないように気を付けているつもりだ。
「もう少し進めば、村が見えてきます」
ミネルが後ろを振り返り、少し緊張した笑みを向けてくる。
「そっか。あんまり驚かせないようにしないとなあ、俺」
「みんな、きっと驚きます。でも……きっと、感謝もします」
そう言って前を向き直すミネルの背中は、小さいけれど頼もしかった。
しばらく進むと、木々の間から開けた空間が見え始める。
そこが、ミネルたちの村だった。
村の周囲には、一応木の杭と粗末な柵が並んでいる。けれど、ところどころ折れていたり、穴が空いていたりして、正直、魔物はおろか野犬だって簡単に抜けられそうだ。
中に見える家は、どれも木と土でできた素朴なものばかり。屋根の藁は傷み、壁はひび割れ、崩れかけた家もちらほらある。畑は広くはないうえに、土が乾きすぎていて、緑より茶色の方が目についた。
何より、そこにいる人々の姿が――。
「……痩せてるな」
思わず、心の中で呟いていた。
畑仕事をしていたらしい男たちは筋肉こそあるものの、頬はこけ、目の下に濃い影が落ちている。洗濯物を干していた女たちの服は擦り切れ、手はひび割れている。柵のそばで遊んでいた子供たちは、すぐに荷馬車に気づいて駆け寄ってきたが、その腕や足は細く、骨が浮き出るほどだった。
それでも、彼らの目は死んでいない。ただ、ぎりぎりで持ちこたえている、そんな印象だった。
「帰ってきたぞ」
村の入口に馬車が差し掛かると、老人――ミネルの祖父であり村長だ――が、小さく息をつきながら立ち上がった。
「じいさま!」
「ミネル、無事で何よりだ」
祖父は孫の姿を確認してほっとしたように目を細めると、すぐに後ろを振り返った。
「お前たち、村人を集めてくれ。話がある」
村人の何人かが慌ただしく走っていく。その間にも、視線が俺に集まり始めていた。
半透明の人影。霧でできた仮の身体。
ざわ……と、村全体に小さな波紋が広がる。
「なんだ、あれは……」
「人か? いや、違う……」
「ミネルが連れてきたのか?」
警戒と好奇心と恐怖が混じった視線だ。そりゃそうだ。いきなりこんなのが村に入ってきたら、俺だって身構える。
俺は少しだけ手を上げ、にこやかに言った。
「えーと、どうも。ユウトです」
霧でできた口を動かし、落ち着いた声を出す。できるだけ「怪しくなさそうな雰囲気」を意識して。
その時。
「皆の者、落ち着きなさい」
村長の声が、ざわつきを切り裂いた。
老人はゆっくりと村の中央へ出て、皆の前に立つ。その横に、ミネルがぴたりと寄り添った。
「このお方が、盗賊から我らを救ってくださった霧の精霊様だ」
村長が俺を指し示す。
精霊様――。
その呼び方に、俺は内心で苦笑した。
(精霊ってそんな格式高いもんじゃないけどなあ……)
中身は残業続きで倒れた、普通のサラリーマンだ。
だが、それをわざわざ言う必要もない。
「ええと、さっき村長さんが言った通り、森の途中で盗賊をちょっと驚かせたのは僕です」
ざわ、と再び小さな波紋が走る。
「ユウト様は、とても強い方なんです!」
ミネルが声を張る。
「盗賊さんが何人もいたのに、一人も殺さないで追い払ってくれました。私たちの荷物も、全部守ってくれて……!」
ミネルの言葉に、村人たちの視線が少し変わる。恐怖よりも、感謝と期待の色が混ざっていくのが分かった。
村長が静かに続ける。
「この村の者にとって、この方は命の恩人だ。決して無礼のないように」
その一言で、村人たちは慌てて頭を下げた。
「す、精霊様……!」
「お助けくださり、ありがとうございます!」
老若男女問わず、ぎこちないながらも感謝の言葉が飛び交う。
「いやいや、そんな……」
さすがにこれは気恥ずかしい。
「とりあえず、状況を知りたいので、村をひと回りしてもいいですか?」
俺がそう言うと、村長が頷いた。
「もちろん。案内はミネルに頼もう。ミネル」
「はい!」
ミネルは張り切った様子で手を上げる。
「じゃあ、こっちです、ユウト様」
◆
村を一周する間、俺は仮体で歩きながら、同時に霧を少しずつ拡散させていた。
地面の上だけでなく、土の中、家の隙間、井戸の底。できるだけ目立たないように、しかし広範囲に。
表面的な様子だけ見ても、この村が限界に近いのは分かる。でも、本当にヤバいのは目に見えない部分だ。
「畑、かなり大変そうだね」
村の外れにある畑で足を止めると、ミネルが申し訳なさそうに笑った。
「はい……雨も少ないし、土も痩せてしまって。肥料を買うお金も、もうあまりなくて」
土に霧を染み込ませながら【解析】を発動する。
土壌の水分量、栄養の偏り、混じっている石や枯れ葉、魔素の濃度。その全てが、霧を通して「情報」として流れ込んでくる。
(……水分、少なすぎだな)
完全な砂漠というほどではないが、表層の土はカラカラだ。地下深くを探っていくと――。
(あった)
細く細く、蛇のようにうねる水脈を見つけた。
村の少し外側をかすめるように流れている、細い地下水の通り道。今のままでは村の中心までは届かない。
村の南側を霧で探ると、別の問題も見えてきた。
「この辺り、魔物がよく出るんです」
ミネルが眉をひそめる。
「森から大きな狼型の魔物が近づいてきていて……柵もボロボロだから、抜けられちゃうんじゃないかって」
「狼型か」
霧で森の淵をなぞると、鋭い爪と牙を持つ獣の気配が複数感じ取れた。しかも、ただの狼ではない。身体能力が強化された魔物だ。
(魔素の流れも不安定だな)
村の周囲には、魔素が濃くなったり薄くなったりしている場所が点在していた。濃い場所は魔物を引き寄せ、薄い場所は土地を痩せさせる。
世界全体のバランスが崩れかけている、というレイガルの話を思い出す。
「……けっこう、厳しいな」
ぽつりと漏らすと、ミネルが不安そうに俺を見上げた。
「やっぱり、無理ですか?」
「いや」
俺は首を横に振った。
「無理かどうかは、試してみないと分からない。少なくとも、“何もしないで見てるだけ”っていう選択肢は、俺の中にないから」
前の世界では、それを選び続けてきた。
この世界では、そうしないと決めた。
村を一周し終えた頃、夕方の気配が空を染め始めていた。
村長の家の前で足を止めると、ミネルと村長、そして数人の大人たちが集まっていた。
「どうじゃ、ユウト殿」
村長が静かに尋ねる。
「この村は……まだ、救えるかのう」
その問いには、重さと諦めと、ほんの少しの期待が混ざっていた。
俺は空を見上げて一呼吸――いや、霧だから呼吸はしないけれど、気持ちを整えてから答えた。
「全部を救える、なんてかっこいいことは言えません」
正直に言う。
「でも、さっき少し見て回った限りでは、“試してみる価値はある”と思いました。この村を、少しでもマシな場所にできるかもしれない」
ミネルがぱっと顔を上げる。
「本当ですか!」
「ただし、俺だけの力じゃ足りない。村のみんなにもできることをやってもらう必要はある。それでもよければ……」
そこで言葉を切る。
村長は一瞬目を閉じ、すぐに力強く頷いた。
「もちろんじゃ。わしらはもう、覚悟はできておる。何もせず壊れていくくらいなら、何かを変えるために動きたい」
その言葉を聞いて、俺の中の何かが決まった。
「じゃあ、始めましょうか。まずは――水だな」
◆
村の中央、古びた井戸の近くに、村人たちが集まっていた。
「何をするんですか、精霊様」
子どもたちが、期待と不安の入り混じった目で俺を見つめる。
「ちょっとした水の道の工事、かな」
俺は笑って答えると、仮体を解除し、霧の本体を地面すれすれまで濃くした。
地下にある細い水脈に、再び霧を伸ばす。今度は通り道に沿って、じっくりと。
水脈の周囲の土に入り込み、少しずつ、少しずつ道を広げていく。無理にこじ開ければ崩れてしまうから、時間をかけて少しずつ削るように。
(この辺りで曲げて……)
村の中央付近に、目印を立てておいた。そこへ向かって水脈を誘導するように、地下の道をなだらかに変えていく。
途中で岩が邪魔をすれば、そこだけ霧を集めて細かい砂に分解する。脆くなった部分を押し広げ、水が通れる隙間を作る。
「おお……地面が、少し揺れておるぞ」
「何か、来る……?」
村人たちがざわついた次の瞬間。
村の中央、目印を立てた場所の地面が、ぼこ、と小さく盛り上がった。
そして――。
「出ろ」
俺が意識をそこへ集中させると、地面の割れ目から、冷たい水が噴き出した。
「うわっ!」
「おおおおっ!?」
最初は細い筋のようだった水が、次第に勢いを増していく。透明な水が太陽の光を受けてきらめき、飛沫となって周りに散った。
「水だ……!」
「本当に、水が……!」
村人たちが一斉に歓声を上げる。
子どもたちが嬉しそうに手を伸ばし、冷たい水に触れる。顔を洗い、頬についた泥を落とし、笑い声を上げる。
何人かの大人は、その場で膝をつき、手を合わせていた。
「これが……水脈?」
ミネルが驚きと感動で目を潤ませる。
「うん。もともと村の外を通ってた細い水の道を、少しだけこっちに曲げさせてもらっただけだよ。雨頼みよりは、ずっとマシになると思う」
「すごい……!」
ミネルがぎゅっと拳を握る。
「ユウト様、本当に、精霊様なんですね……!」
「だから、その“様”はもうちょっと控えめでいいんだけどなあ」
そう言いつつ、嬉しさが込み上げてくるのを止められない。
水の問題は、これでとりあえずひとつ目の山を越えた。
「次は、魔物対策だな」
◆
村の外周部に沿って、俺はゆっくりと歩いた。
仮体での歩みと並行して、霧を薄く広げていく。木の杭や柵の隙間、草むらの間。村をぐるりと囲むように、目に見えない霧のラインを引いていく。
ただ霧を置くだけでは意味がない。
魔物にとって「嫌な場所」にしなければ。
俺は【吸収】と【拡散】を微妙に組み合わせた。
霧に触れた存在から、ほんの少しだけ体温と魔力を奪う。致命傷には程遠い量だ。でも、体の表面が冷え、胸の奥がざわざわするような、言葉にしづらい不快感を与える。
同時に、霧に触れた時の感覚を魔物の神経にフィードバックして、「ここは危険だ」「ここは不快だ」という印象を強く刻み込む。
「霧の結界、ってところか」
自分で名前をつけてみて、少し照れくさい。けれど、効果はしっかりしている。
結界を張り終えてからしばらく、わざと森の中の魔物の注意を引いてみた。霧で枝を揺らしたり、足跡もどきを作ったりして。
数匹の狼型魔物が匂いを嗅ぎつけて村の方角へ近づいてくるのが分かる。
やがて、霧のラインに触れた瞬間――。
「グルル……?」
狼たちの動きが、ぴたりと止まった。
霧を通して、彼らの体温が少し落ちるのが分かる。毛の下の皮膚が粟立ち、背筋を冷たいものが走ったような反応。
狼たちは数歩前進し、また霧に触れる。そのたびに、不快感が強くなっていく。
しばらくうろうろしていたが、結局、彼らは鼻を鳴らし、方向を変えて森の奥へ戻っていった。
「よし」
小さく拳を握る。
もちろん、これで全ての魔物が完全に防げるわけじゃない。強力な個体や、理性を失った魔物なら、無理やり突っ込んでくるかもしれない。
それでも――少なくとも低級の魔物たちは、村を「避ける場所」と認識するようになるだろう。
「村の皆さん、ちょっとは安心してくれるかな」
村に戻ると、すでに噂が広まり始めていた。
「さっき、畑の近くまで来ていた狼が、急に引き返していったんだ」
「精霊様が結界を張ってくださったからだって、ミネルが言っていたぞ」
「本当に守ってくださるんだな……」
不安げだった顔に、少しずつ明るさが戻ってきている。
俺は照れ隠しに頭を掻く仕草をしながら、次の段階に取り掛かった。
◆
畑の上に、うっすらと霧を漂わせる。
日差しを完全に遮らない程度に、薄いベールのように広げる。昼間は直射日光を少しだけ和らげ、夜は地面から逃げる熱をわずかに留める。
霧そのものに水分を含ませておけば、乾燥を少し防ぐこともできる。風が強すぎる日は、風除けにもなる。
「……こんなもんかな」
自分でも試行錯誤だ。霧を厚くしすぎれば光合成の邪魔になるし、薄すぎれば意味がない。
数日おきに様子を見に来て、霧の濃さや高さを微調整していく。
最初はしおれていた苗たちが、三日目くらいから少しずつ葉の色を取り戻してきた。
「見てください、ユウト様!」
ミネルが嬉しそうに駆け寄ってくる。
「この前まで元気がなかった苗が、こんなにしゃんとして……!」
確かに、葉の張りが違う。土も、霧で運んだ水のおかげでほどよく湿ってきている。
「この調子なら、次の収穫は前よりマシになりそうですね」
別の農夫が、信じられないといった様子で畑を見回していた。
村のあちこちから、ささやかな笑い声が聞こえるようになっていく。
「霧の……守護者様だ」
誰かがぽつりと言い、その言葉がじわじわと広がっていった。
霧の守護者。
いつの間にか、俺の呼び名は「霧の精霊」だけでなく、そんな名前も増えていた。
「なんか、タイトル増えたな俺」
そう呟くと、隣でミネルがくすりと笑う。
「素敵な名前だと思います。みんな、ユウト様がいてくれるだけで、前よりずっと安心してるんです」
その言葉に、胸の奥が温かくなる。
村の子どもたちも、すっかり俺に慣れてきたようだった。
「ねえねえ、精霊さま!」
「その、ふわふわしたところ、触ってもいい?」
小さな子が、おそるおそる手を伸ばしてくる。
「いいよ。ただし、あんまり濃いところ触ると、ちょっとひんやりするかも」
俺は仮体の腕を軽く霧に変えて差し出す。
子どもたちがわいわい言いながら、霧に手を突っ込んだり、なでたりする。
「わ、ふわふわしてる!」
「ちょっと冷たい!」
「でも気持ちいいー!」
無邪気な笑い声が、村に響く。
「こういうの……いいな」
思わず、心の中でそう呟いていた。
前の世界では、誰かに感謝されることはあっても、それが素直に嬉しいと思える余裕がなかった。常に次の仕事、次の問題に追われていたから。
今は違う。自分のしたことが、目の前の誰かの笑顔に繋がっているのを、ちゃんと感じられる。
けれど同時に、別の感情も胸をかすめた。
(これだけ目立つことをしてたら、いずれ誰かに気づかれるよな)
領主。街の商人。教会や、他の精霊使い。あるいは、もっと面倒な存在。
レイガルの言葉が頭をよぎる。
『居場所を持つということは、守るべきしがらみも増えるということだ』
今は、この村に自分の力を注ぎ込んでいる。だからこそ、この村は俺という存在に依存し始めている。
もし、俺が何かの理由でここを離れなければならなくなったら。その時、この村はどうなるのか。
考えれば考えるほど、不安と覚悟が入り混じった。
「ユウト様?」
ミネルが心配そうに首を傾げる。
「……ううん、何でもない。ただ、そろそろ本気でこの村のこと、考えないといけないなって思って」
曖昧に笑ってみせると、ミネルはそれ以上は踏み込んでこなかった。ただ、強く頷くだけだ。
「私も、できることは何でもやります」
◆
その夜。
村の中央広場に、焚き火が焚かれた。
村人たち全員が、焚き火を囲むように集まっている。子どもたちは少し離れた場所で、眠気と興奮が戦っている様子だ。
村長が焚き火の前に立ち、杖を軽く地面に突いた。
「皆の者」
静かながらも、よく通る声だった。
「今日、わしらの村に変化が訪れた」
村人たちが、固唾を飲んで見守る。
「水が湧き、魔物が村を避けるようになり、畑の作物にも再び力が戻りつつある。これは、誰の力によるものか」
村長の問いに、誰かが小さな声で答えた。
「霧の……精霊様」
「そうだ」
村長は頷く。
「ユウト殿。我らは勝手ながら、お前を霧の精霊様と呼んでいるが……今日は、もう一つ名を贈りたい」
俺は焚き火の少し離れた場所で、霧の仮体として立っていた。火の明かりが半透明の身体を照らし、揺らぐ影が地面に落ちる。
村長が、俺の方へ向き直る。
「この村を守ってくださっている霧の精霊ユウト殿を、我らの守護者として正式に迎えたい。皆、それでよいか」
一瞬の沈黙の後――。
「賛成だ!」
「霧の守護者様だ!」
「ユウト様、これからもよろしくお願いします!」
村人たちの声が、次々と上がった。
焚き火の炎が、彼らの顔を紅く照らす。そこには不安だけでなく、希望も宿っていた。
守護者。
それは、責任と期待を同時に背負う言葉だ。
前の世界で、俺はそういう役割から逃げてきた。守りきれないのが怖くて、失敗するのが怖くて、曖昧な立ち位置にいた。
今、目の前には、自分を必要としてくれる人たちがいる。この居場所を、自分はいま選ぼうとしている。
「……分かりました」
俺は焚き火の明かりを背に受けながら、一歩前に出た。
「守護者なんて大げさなものになれるかどうかは分かりません。でも、この村を守るためにできることは、全部やります」
子どもたちの目が輝く。
ミネルが安心したように微笑む。
村長が深く頷く。
「ありがとう、ユウト殿」
俺は、小さく息を吐く代わりに、霧をふわりと揺らした。
「それと一つだけ」
言いかけて、村人たちの視線が一斉に向くのを感じる。
「覚えておいてほしいことがあります」
少しだけ真面目な声を出した。
「俺は、万能でも最強でもありません。できないことも、失敗することもあります。その時は、俺一人のせいじゃなく、皆で一緒に乗り越えてほしい」
沈黙。
だが、それは重苦しいものではなかった。
村長が、ゆっくりと笑った。
「もちろんじゃ。守護者に頼るだけの村にはしたくない。共に歩む者として、ユウト殿にいてほしいのだ」
その言葉に、胸の奥の不安が少し和らいだ。
「じゃあ、改めて」
俺は頭を下げる。
「霧の守護者、ユウトです。これから、よろしくお願いします」
焚き火の炎が高く燃え上がる。
夜空には星が瞬き、その下で、崩れかけていた村は、かすかな再生の一歩を踏み出した。
俺は静かに霧を広げ、村全体を包み込むように覆う。
自分の居場所を、自分の手で守るために。




