表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/20

-> "story": return "episode 2: Whole New World" (1/4)

 俺はミアの背を追いながら、散生する木々の間を我武者羅に走った。背後からは、ミストウルフの荒い息と吠え声の混じった、地面を蹴散らす音が容赦なく迫ってくる。


 一瞬、笑い声が聞こえた気がして振り向くと、ミストウルフだけではなく、全身緑色のゴブリンみたいな生き物まで加わっていた。ナイフを持ってるやつと、ミストウルフの背にまたがって槍を持ってるやつが!


 槍の先端に刺さってるのは——、人間の頭蓋骨だ!


「ゴブリン! ゴブリンがいるぞ!」

「わ、ほんと! ユウトさんもっと早く!」


 ……あいつら、俺たちを追い回して疲れるのを待っているんだ!

 地面は平坦で走りやすいが、このままじゃいつか——、


「はぁ、はぁ、脇腹が、いてぇっ……」

「……まさか、攻撃魔法を?」

「運動不足ですぅ……!」


 ミアが一瞬、顔汗の顔文字を浮かべた直後、ズザザっとブレーキをかけて立ち止まった。

 俺もつっかえながらなんとか止まる。


 ——崖だ! そしてこの川の轟音……、下は目も眩む高さの先に激流が……。

 飛び込んだら、一か八かになる。


 崖の向こうまでは目見当で十メートル程度、ジャンプしても絶対届かないだろう。


「ミア、魔法でなんとかできないか?」

 頼ってばかりで情けないが、俺が考えてどうにかできる状況じゃない。

「えぇと、えぇと……っ!」


 頭を抱えて焦るミア。

 AIでもすぐに答えが出せるわけじゃないんだ。

 いや、指示無しで自発的に考えるのは苦手なのか?


「……崖の向こう側へ渡る方法を!」

「それなら……っ! ファンクション(function) クリエイト(Create) チェーン(Chain) リンク(Link();)!」

 ミアの指先に現れたのは、赤く発光する半透明の鎖の一コマだった。

「それ一つじゃどうにも」

「ここからです! ……ワイル(while) チェインチップ(chainTip) ドット(.) ディスタンス(distance) トゥ(To) ターゲット(target) レス サーティーン (<15) ファンクション(function) クリエイト(Create) チェーンリンク(ChainLink)|!!」


 ジャララララララララ——


 一コマだけだった鎖から、新たなコマが連結しながらすごい勢いで生成されていく!

 あっという間に、ミアの足元に赤い鎖のとぐろができあがった。なるほど、ホワイル構文で増やしたんだ!


「ナイスミア! それをアローに繋げて、向こう側の太い木に巻きつけるんだ、できるか?」

「やってみます! ……ファンクション(function) アロー(arrow)!」


 ミアが右手に鎖をつかみ、狙いを定めながら魔法を唱えると、アローと共に赤い光の鎖が伸びていった。そして、ちょうど良い太さの大木にぐるぐると巻きついた。

 ミアが左手で右腕を掴んでいたところをみると、魔力の流れを調整して軌道を変えたのだろう。


 二人で鎖を思い切り引っ張る。きちんと固定されている。矢の返しの部分がうまくひっかかってくれたようだ。

 魔獣どもの声が近い。心の準備をしている時間はないだろう。


 ——ミアは、俺が守るんだ!


 俺は崖の際に立ち、鎖を手首と腹に巻きつけた。そして、後ろにいるミアに言った。

「ミア、俺にしっかりつかまって! 飛び降りるよ!」

「はい!」


 ミアが背後から俺の体の前に腕を回し——、


 ガシっ

 むにっ(むにっ)


 しっかりとホールド(密着)したのを確認!

 俺は全神経を背中に集中させながら——、意を決して飛び降りた。


「うぉおおおぉおおおお——っ!」

「きゃぁぁあぁああ——ッ!」


 グンッ——と、経験のない暴力的な衝撃が走り、手首と腹に鎖が食い込む。

 容赦のない二人分の体重! 体がぶちんっとちぎれたかと思うほどの激痛が全身を貫いた!


「ッッッんぎぎぎぎッッッ!!」

「大丈夫ですか?」

「だ、だぁいじょうぅぶだぁ!」


 あれこれ計画する余裕なんてなかった。とにかく魔獣どもから逃げられたこと、ミアが落ちなかったことに安堵した。


 ぶら下がったまま周囲を見渡した。まさに激流あるあるの岩壁、つかまれそうな凹凸はいくらでもあるが、体を預けて休めそうなところは皆無だ。流れの勢いが崖をえぐって、岸もない。


「このまま少しずつ登ろう。ミアは、鎖の方に移動できそうか?」

「はい。やってみます……」


 ミアの体が俺に密着しながら、まるで這うように——、ずりずりと少しずつ下がってく。

 時々あたる二つの膨らみが——、俺の心と体の内側に、豊かな力が湧いてくる。


 全神経がミアの体のかたちを覚えかけた頃、鎖が点滅しているのに気がついた。

 嫌な予感がする。これって、


「ミア、鎖が」

「あっ」


 ミアも気づいたが、すべて遅かった。


 ———— バシャーン!!!


 無我夢中で手足を動かして水面に顔を出す。川底が深くて助かった。


「ミア! どこだ!?」

「ここでーす!」


 先に落ちたミアは、少し先に流されていた。

 俺は流れを利用しながらミアの元まで泳いだ。


「ごめんなさい、私まだ、自分の力のこと、全部はわからなくて……」

「いいんだ、気にすんな!」

 俺は泣きそうなミアの体を抱きしめた。


 そのまましばらく流された。

 そのうち流れが緩やかになり、岸が見えてきた。



   * * *


 岸に上がった俺たちは、すぐに膝から崩れてしまった。俺は四つん這い、ミアなんてナメクジみたいなうつ伏せになって、

「はぁ、はぁ……、なんとか、助かったあ」

「疲れましたぁ」

「このままじゃ、身が持たん。はぁ、休んだら、川沿いに岸を歩いて、人のいるところを目指そう……」

「賛成です……、あと服も乾かさないと、風邪をひいてしまいます」

 

 ミアはそう言いながら起き上がると、ぺたんこ座りのままワンピースのスカートの裾を持ち、ぬぎっと裏返して、


「ストーップ!」

 まだ火を起こしていないし、その方法だって、

「どうされました?」

「ぱぱぱぱおぱおぱなんで脱ぐの?」

 俺は両手で顔を覆いながら言った。白のパンティなんて見てないし、二つのノーブラなんて見ていない。

「脱いで服を絞るんです。少しでも水気を除去しないと」

 首を傾げたような声だった。

「全くあなたの言う通りでした! そうするべきです! 俺、向こう向いてるから!」


 どうやらこの子は、羞恥心が欠けているようである。

 どうしたもんかと考えつつ、ミアに背を向けて、俺も上着の半袖シャツを脱いで雑巾みたいに絞った。あちこち汚れてて、もうぐちゃぐちゃだ。ズボンは制服の素材的にすぐ乾きそうなのでこのままとした。


 その後、俺たちは川沿いに岸を歩いた。

 川の先には人里がある、そのセオリーを信じることにした。

 岸は川と森を挟んで、どこまでも続いているようだった。

 森の中は魔獣がいるので近づかないようにした。

 音波っぽい鳴き声が空から聞こえて見上げると、図鑑や映画で観たプテラノドンみたいな形の鳥が、ゆったりと飛んでいた。恐竜かよ。あんなのに襲われたらひとたまりもない。


「……ミア、疲れてないか」

 俺はもうヘトヘトだ。

 ここまで会話もほとんどない。本当はミアの能力のことをいろいろ調べて試したいが、今はするべきじゃないだろう。

「はい……、トゥルーです……」

 かなり辛そうだ。もしかしたら魔法を使ってる分、俺より疲れているのかもしれない。

「杖がわりになる木の棒を探そう。歩くのが楽になる」

 ミアはこくんと頷いた。

 

 辺りを探索していると、風に舞う一枚の紙切れがひらりと俺の足に絡みついた。手に取って広げると……、異世界文字で書かれたチラシのようなものだった。端が少し破れていて、あちこち土汚れが目立つけど、内容はわかる状態だ。


 一番上には見出しの部分、その下には城と街と川、とんがった崖の手書きイラスト。右側には何かの解説文章に……、一番下の目立つ文字は、アラビア数字に似ている。賞金の額っぽく見えるが。


「ミアー! これ翻訳できるか?」

 俺は慌てる気持ちを抑えつつ、ミアの元に駆け寄った。

「……これは……、中世ラテン語に似ていますね。日本語にすると……」


 やった! ミアが読める!

 心臓の高鳴りが強くなる。


「…………エルダーヴェール王国……、王都、専属冒険者募集……、採用試験あり、詳しくは門兵まで……」


 疲れが吹っ飛んでいく!

 飛び上がって叫びたい!

 これだよ、俺がずっと夢みてた世界だ!


「最低報酬一万……エドルン、かな?……。最後のは通貨の単位です。実際のラテン語とは違うところもあり、全部は訳せませんでしたが、大体は今言った通りのはずです」

「さすがミア!」

 俺はミアをガシッと抱きしめた。

 心臓から湧き上がる多動感を抑え込めなかった。

「ふふっ、お安い御用です。 あとユウトさん、もう一つ朗報が」

「なに?」

 俺はミアを解放して、彼女の指先を目で追った。

「このイラストの崖の形……、もしかして、あれのことではないですか?」

 ミアの指先は俺たちが歩いてきた方を指していた。見上げると、たしかにイラストそっくりのとんがった崖があった。



   * * *


 ——陽が傾きだした頃。

 樹木の途切れたところから、俺たちは川岸を離れて草原に入った。

 少し歩き進むと、チラシのイラストの通りの砂利道があった。


 その道の先を見ると、なだらかな草原の向こうに、万里の長城のように果てしなく続く防御壁が立っていた。


 俺たちはついに、王都に辿り着いたのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=563985693&size=300
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ