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-> "story": return "episode 1: System Awake" (1/4)

 —— 2041年

 誰もがサポートAIと共に生きる時代——


 Artificial Intelligence(AI)技術の飛躍的な進歩により、人々の営みは大きく変わった。教育も労働も、もはや、あらゆる分野がその力なしには成り立たず、AIは人類という種の繁栄に、必要不可欠な存在になっていた。


 中でも医療は、AI技術の恩恵を最も受けた分野の一つである。

 診察、検査、手術に至る全てのアプローチにおいて、AIが中心となり支えていた。


 そして人類は、それまで不可侵領域とされていた「植物状態」の克服に手をかけようとしていた——


「人間の活動にハ、脳の、神経伝達回路のアクティビティが、不可欠でス。イラストをつかって、皆さんにもわかるように説明しまス」


 そう言いながらスティーブは、ジェラルミンケースからボードを取り出した。それは、イラストやのフリー素材を活用した説明ボードだった。


 脳のイラストと、仕事や遊び、家事をしている複数の人物のイラストが、電気信号を示す矢印で結ばれている。人の活動が脳に刺激を与えていることが視覚的にわかる。


「しかし、植物状態でハ、そのアクティビティがなくなりますから、神経伝達回路のつながりは、ひび、弱まっていきまス」


 二枚目のボードに変わった。今度はアメーバのイラストかと思いきや、英語の文字もある。“synapse”と“neuron”——、シナプスとニューロンだ。授業で習ったから知っていた。


「神経伝達回路は、刺激を受けたところが強くなリ、使われない部分は、弱くなっていきます。そして、使われなくなったつながりは、やがて刈り込まれて、途絶えてしまいまス」


 スティーブが片手に太いペンを持つと、シナプスとニューロンの繋がりをズバッと切るように線を描き込んだ。


 理実が軽く頷いたのを遥花は見た。母は心理士だ。紙芝居を見せられているようでなんだかチープだったが、この説明は信用できると踏んだ。


「これが今の、ユウトさんの頭の中で起きていることでス。もし目を覚ましても、その時には、人格が変化していたリ、知能や、運動機能が大きく低下していたりと、社会復帰に、多大な課題が待ち受けていまス」


 三枚目のボードには、ベッドで寝たきりの男性や、車椅子から動けない女性のイラストが使われていた。その周りで介護をする家族は、疲弊している。


「ここまでの内容で、質問などはございますか?」


 理人は遥花を見た。

「遥花は、今の説明でわかったか?」

「うん、だいじょうぶ。人間の脳のことは、AIの授業でも習うんだよ」

 理人は娘が置いてきぼりになっていないことに安堵した。


「理実、どうだ?」

 妻の様子は娘と違い、表情は曇っていた。

「……説明は正しい。植物状態からの覚醒率は甘くみて、百人中、二十人くらい。そのうちのほとんどが、何らかの後遺症や障害を抱えるの……」

 理人は妻の言葉を飲み込むように頷いた。


 渚に向き直る。

「とても、よくわかる説明でした。続きをお願いします」

「はい、ではお配りしたバインダーを開いてください」


 表紙を捲ると、一ページ目には、SystemAwakeの意味が提示されていた。


— SystemAwakeは、以下の単語の頭文字から成るアクロニム(頭字語)である —


A – Automated(自動化された)

W – Wakefulness(覚醒)

A – Activation(活性化)

K – Kinetics(運動/刺激)

E – Enhancer(促進装置)


 植物状態から目覚めさせるための装置——、三人はそう理解した。


「ここからは私が説明させていただきます」

 スティーブがケースからまたボードを取り出し、渚に手渡した。

 またイラストやだった。


「先ほどのスティーブの説明の通り、植物状態では神経回路の活動が日々弱っていきます。脳を覚醒する方法は、これまでの長い歴史の中で、数えきれないほど考案されてきました。しかし、どれも期待した効果がないばかりか、被験者のコンディションに、深刻な影響を及ぼしてきました」


 ボードには、複数のいらすと素材を組み合わせて、人間がハンマーで頭に穴を開けられたり、電気ショックをくらったりしている様子が描かれていた。歴史の影で、過酷な人体実験が行われてきたのだ。


「心臓には電気ショックという最終手段がありますが、神の領域ともいうべき脳に対しては、こういった強引で乱暴な方法をとるべきではありません」


 渚がボードをめくった。


「そこで医療は、植物状態の意識にも()()()()()()()()()()を考えました。それがシステム、アウェイクなのです」


 ボードには、ベッドに眠る人間と、大きな装置がケーブルで繋がっていた。ベッドの人間はにこやかで、頭の中の吹き出しには、遊んでいたり野球をしたり、会社で働く人物のイラストが収まっている。


「このイラストの通り、脳に特殊な信号を送って、人工的に現実世界と同じ刺激を与え、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のです。こうすることにより、神経伝達のコンディションを、覚醒状態と同等に活性、維持させられることが、これまでの研究と実験の成果でわかっています。では、資料の二ページ目へお進みください」


 三人はページを捲った。論文調の内容があらわれ、遥花は滑る目を何とか操りながら文字を追った。父と母は流石、落ち着いた様子で読み進めている。


「理論的には何十年も前から提唱されてきましたが、現代になり、量子コンピューターの技術の進展で実現できました。十年以上前から極秘に行われた研究と臨床試験により、睡眠状態での運用は、実用レベルといっていいほど完成されています」


 資料には、開発中の装置の写真や、様々なデータのグラフが掲載されていた。

 年表には、アウェイクプロジェクトが二○二五年に発足したと書かれている。


「みなさんにも、このシステムの力を簡易的に体験できる装置をお持ちしました。ぜひ、やってみてください。」


 またスティーヴがケースから何かを取り出した。

 それは一見して、ただの黒いスマートフォンだった。ホームボタンのついていない、フルスクリーンタイプだ。


 渚がサイドのボタンを長押しして電源を入れると、パネルが明るくなり、なにかの文字があらわれた。


「この画面に人差し指を置いていただくだけなのですが、どなたか、チャレンジャーは……」


 三人は顔を見合わせて、渚が差し出した端末の画面を覗き込んだ。[ Touch me - forest - ]と表示されている。


 スティーブと渚はニコニコしていた。自分たちを不安がらせないようにしているだけではなく、この後の反応を楽しみにしているようだ。


「……わたし、やりたい!」

 遥花は好奇心が抑えられなかった。


「止めないぞ」

「私も」


 こういう時、娘は絶対に諦めないことを二人は知っている。

 渚が端末をテーブルにそっと置いた。

 父母の了承を得た遥花は、画面に人差し指を載せた。


 次の瞬間——、


「……え?」


 自分が森の中に立っていた。

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