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谷澤礼那は公立高校入試に失敗して今の私立高校に入学した。もともと礼那は公立高校に行きたかったので、望んで今の学校に入ったわけではない。周りのクラスメイトとは合わないし、担任の杉崎--40代半ばの未婚女性国語教師--はヒステリックでいつも怒っていてうっとうしい。女子は男の話かファッションの話か美容の話か猥談しかしないし、男子もアニメの話かゲームの話か彼女の話しかしないので、礼那にとっては「それしか話すことないの?」という気持ちだ。さらに礼那は周りから浮いており、ガリ勉と言われてからかわれたこともある。そんな礼那の救いは、X--旧Twitter--で知り合った35歳の葉山だ。葉山は礼那の恋人で、同年代の男子にはない包容力があった。
礼那はテストに合格し、2年生になって所属が普通科から特進科に変わる。担任も杉崎ではなく優しい男性英語教師になり、特進科ではもうガリ勉と言われていじめられることもなくなった。礼那は1年生の時にいじめてきた奴らやいつも怒ってばかりでヒステリックな杉崎に、合法的にやり返してやろうと考えるようになる。といっても犯罪には手を染めたくないので、犯罪にならない範囲での復讐となるけれど。
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礼那は日曜日、葉山の自宅マンションで一緒に過ごしていた。その時礼那は見たくないものを見つけてしまう。それは葉山と女性のウェディングフォトや葉山が同じ女性に後ろからバックハグしているプリクラだった。どの写真の葉山も若く、特にタキシード姿の葉山は礼那にとって眩しく見えた。そもそも礼那は葉山を婚姻歴なしの35歳独身だと思っていたし、まさか既婚者だなんて思っていなかったのだ。すかさず礼那は例の写真やプリクラを葉山の元に持っていき、
「これ誰? 結婚してるの?」
とそれらをテーブルに叩きつける。葉山は
「このひとは元奥さんで、子どもができなくて別れたんだ」
とのことだ。礼那はまさか葉山に離婚歴があるとはという気持ちだ。そんなことは一切知らされていなかったので、今後も何かあるごとに隠し事をされるのではないかと不安だった。
「ふーん。いま結婚してないなら良いけど。てかなんでそんな大事なこと黙ってたの?」
礼那が問いただすと、葉山は
「ごめん。俺がバツイチって知ったら礼那に嫌われるかなって思って、それでずっと言い出せなくて……」
としどろもどろな様子だ。そもそもなんで元奥さんとの写真をいつまでも取っておくのか。別れたひととの写真とか早く捨てたら良いのに。礼那としてはそんな気持ちだった。