記憶喪失
前回の話はお気に召しましたか。そうですか。では別の話もお聞かせしましょうか。
「わかりません。」彼はそう答えるしか出来なかった。1週間前、交差点で人身事故が起こった。歩行者だった彼はすぐ病院に緊急搬送されたが、意識不明の重体で目覚めても、まともに喋ることもできない程だった。
事故から1週間後、彼は喋れるようになった。しかしいくら名前を聞いても「分からない。」としか答えなかった。彼は記憶喪失らしい。医者は仕方なく彼を病院に泊めることにした。患者はその日からリハビリに専念した。
事故から3ヶ月たったある日医者に「患者の記憶が戻った」というメールが届いた。医者は休みだったが、急いで病院に向かった。しかし、病室には患者1人しか居なかった。患者は口をゆっくり開きこういった。
「戻ったよ。記憶。生い立ちから事故の直後まで全部。」医者にとって恐れていたことが起こってしまった。
「思い出したよ‥‥。全部‥‥。お前が、お前が事故を起こしたこともな。」
あの事故は医者が起こしたものだった。彼は医者の親戚にあたる人物だった。医者が車に細工していたのだ。医者の動機は遺産争いだった‥‥。患者は理性を失い暴れ出した。
翌日
「次のニュースです。〇〇病院で医師が倒れているのが発見されました。医師は意識不明の重体で、警察は殺人事件として捜査を進めています。」