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三題噺もどき2

操り人形の末路

作者: 狐彪

三題噺もどき―さんびゃくはちじゅうよん。

 


 画面の中では、生まれたての小鳥が小さく震えている。

「……」

 小鳥が生まれてから今現在までの成長をタイムラプスのような形で動画にされているものだ。人の手によって孵化されたこの小鳥は、すくすくと育っていった。

 餌に困ることもなく、何かに脅かされることもなく、安全な鳥籠の中で、何にも害されることなく育っていった。

「……」

 ぼうっと眺めているその画面では、延々とその動画がループされている。

 スライドする気にもならないので、見ているだけで、特に何というわけでもないのだが。

 この小鳥は……今は小鳥といえるほどではないだろうけど……このさき一生、困窮を知ることもなく、恐怖を知ることもなく、安全な世界の中だけを知ったまま死を迎えるのだろう。

 ―それが果たして、鳥としての幸せかどうかは知らないが。

 しかし、それを周りが望んでいるのだから、仕方ないのかもしれない。

「……」

 生まれた環境でしか、生きられないのだから仕方ない。

 与えられた空間で、生活していく必要があるんだから、しょうがない。

 ……のかもしれない。

 だからこの小鳥が、鳥として幸せかどうかなんてどうでもいいのだろう。

 周りがこうであれと望んだ以上、そうあった方が幸せだと思い込んでいるだろうし。

「……」

 そうやって生きてきた人なんて。

 いっぱいいるだろうし。

「……」

 こうは言いたくないけど。

 私自身がそうだし。

「……」

 裕福ではないが、困ることもない家に生まれ。

 可も不可もないような生活をして。

 親が求めるいい子であろうと必死に生きて。

「……」

 自分の意思なんて、あってないようなもので。

 でもそれが当たり前だと思っていたから、何とも思わなくて。

 それが普通で、周りからはそうであれと言われているから、そうしているだけであって。

 何も思わずに、いつのまにか、働くような年齢になっていって。

「……」

 何かと人生の節目には、親の意見が第一だった。

 一度だけ、抵抗したこともあったけれど、一蹴されて終わった。

 笑われたりもしたぐらいで。

 自分の意思なんてその程度のものなのかと改めて思い知ってしまった。

「……」

 操り人形のように生きるのが。

 当たり前だと思っていた。

 その方が楽だし、そうであれと求められているんだから。

「……」

 初めて自分の意思で選んだのは、就職先だった。

 ―でも、考えてみて欲しい。それまで他人に決められた人生を歩んでいた人間が、そんな急に自分で決めてうまくいくと思うか?

「……」

 もちろん、うまくいくわけはない。

「……」

 すぐに体を壊した。

 すぐに心も壊した。

「……」

 それでも、周りからは期待されていたから応えようとした。

 あたりさわりはいいのだ。自慢ではないが。全く。

 やろうとすればできてしまうのだ。全くいい事でも何でもないが。

「……」

 それでまぁ。

 最終的には倒れて、入院までしてしまって。

 今は自宅療養中という所だろうか。

「……」

 真黒な部屋の中で。

 ぼうっと携帯を眺めているのが、果たして療養になるのかと言われると。

 そんなことはないんだろうけど。

「……」

 そうあれとして望まれたままに生きてきたこの身は。

 どうも……1人何もせずにいるのが苦痛なようで。

 自宅療養中は仕事に関わるのも、世間に関わるのも極力しないようにと言われていたけど。

 それがまぁ、難しい。

 怠惰でいることが、悪のように感じてしまっていけない。

「……」

 だから携帯をいじっているのかというと、そうでもないのかもしれないけど。

 こういうものを断つと、世間から置いていかれる感じがするのは。みんなそうだろう。

 疲れはしてしまうんだけど。

「……」

 携帯を置き、ぼうっとする。

 ……そういえば。

 数日前に、体を少しでも動かすようにと言われていたのを思い出した。

「……」

 しかし、今は夜空が広がる時間だ。

 この時間に起きるのが当たり前になっていて、外に出るのもためらわれる。

 今日はこのまま寝てしまおうか。

 ……眠れないとは思うけど。

「……」

 そろそろ社会復帰とかをしないと。

 このままだといけない気もしているし。

 夜寝て、朝起きて。

 普通の生活をしていかないと。

「……」

 それができるようにならないと。




 お題;夜空・小鳥・操り人形

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