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青蔦の若君と桜の落ち人  作者: 楡咲沙雨
辺境の街 マノア
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この世界との結び目

「初めまして。御挨拶が遅れ、申し訳ありません。本日ギルドより紹介されてやってまいりました、エミリオ・バークです。もう一人、一緒に依頼にあたっております、ハリー・デーンも来ております。よろしくお願いいたします。」




――やばい…これは子連れの獣にあった時のやばい感じだ・・。




とんでもなく威圧を背負ったヴェルノウェイ当主、カイド・ヴェルノウェイが、急に現れ、ジャンルードは慌てて挨拶をした。しかし、ふっと顔を上げるとカイドの様子がおかしい。




「エミリオ。エミリオ・バークといったか。そうか。よろしく頼む。夕食を取った後、相棒とともに俺の執務室まで来てくれるか。話がしたい。」


「かしこまりました。伺わせていただきます。」




急に威圧も消えたカイドを訝しく思ったが、とにかく助かったことは確かだ。伯父上はよっぽど美桜を溺愛していると見える。




「長々と付き合っていただいてありがとう。エミリオ。また魔法教えてもらえますか?」


美桜に頼まれると、ジャンルードは否応もなく頷いた。一方の美桜はといえば、やっと魔法の糸口がつかめてうきうきと気分が上がっていた。今まで自分の中に「魔力」というものは存在していなかったので、それを認識する。というのは『落ち人』の彼女にとっては難関だったのだ。でも今は。




「エミリオの魔力は綺麗でしたね。青くて冷たくて。」


「え・・・っいや・・・その・・・ありがとう。」




自分の中にある魔力の流れがわかった。イメージするということも。これなら何とかできる気がする。




ウォン。ウォンッ


聞きなれた鳴き声がし、森のほうから食事を終えた二匹の狼が走ってきた。すっと美桜の前にエミリオが立ちふさがる。即座に守ろうとしてくれたのだ。


「大丈夫です。これは私の友達。ハティとスコル。ハティ。スコル。エミリオさんだよ。」


ハティとスコルは、警戒しながらクンクンとエミリオの匂いを嗅いで回る。




『ハティと同じにおいする―。水が好きな人だー。あと髪の色変。』


『でも美桜とも同じにおいする―。いいひとー。』




二匹とも口々にしゃべっているが、実際美桜にしか聞こえていないので吠えられているようにしか思わないだろう。


「アルジェントウルフか。懐くなんてすごいな。でも嫌われたようだ。警戒して吠えている。」




困ったように笑うエミリオに、美桜はちょっと焦ってしまったが、いきなりテイムしましたなんてばらしてもいいものかどうかわからない。カイドとサーシャに滅多に自分のことを言うものではないといわれ、花も目立つからとサーシャが持っていたダリアの指輪をつけているくらいなのだ。




「嫌いな人には近づきもしないですから。大丈夫ですよ。」




――あぁもう。私の会話スキルどこに行ったの! 大体、こんな美青年がそんな顔するなんて卑怯だ。とりあえず退避だ。




夕食だからとエミリオと別れ、美桜は屋敷に戻った。落ちてからひと月、こちらの人にもたくさんあった。こちらの人の造作のレベルの高さに驚愕もした。自分はどう説明しても皆成人前と勘違いする幼く見られがちの平々凡々の純和顔だ。それなのに・・・・。




「それなのに、なんであの人はあんな顔でにこにこと笑ってくるのよぉぉぉぉ!」




自室のベッドでゴロゴロと転げまわる。ついてきたハティとスコルも一緒にごろごろする。遊んでいると勘違いしているようだ。


『あの人嫌いなの?美桜。』


『あの人は美桜のイノシシだよ?』


『『ねー!!』』


「イノシシって何!? 今さらっと問題なこと言ったよ!」


『美桜、イノシシ嫌い?鳥でもいいよ?』


『『ねー!!』』


いかんせん、まだ幼いハティとスコルの言葉は、こちらの語彙力のない美桜にはわかりづらい。


んもぉぉぉぉぉとまたゴロゴロ転げまわっていると、ナディアが食事の時間だと呼びに来た。




「お嬢様ったら。何なさってるんですか。お着替えになりますか?」


「自分でやるよ。ありがとう、ナディア。」




 あれから、身分階級にも少しは慣れたし、接し方も慣れた。現実社会で置き換えれば、ヴェルノウェイ社の№3になったということだ。気さくに接してもいいけど仕事は取ってはならないと納得できるし、自然と行動も選択できた。白いウイングド・スリーブの長袖と紺のロングプリーツスカートに着替え、髪だけはナディアに頼む。綺麗に編み込んでもらい、廊下を食堂へ歩いていく美桜は、右手にはめられたダリアの指輪をみて、それをもらった時のことを思い出す。




――結構ここまでにするのは自慢じゃないが苦労した。




と カイドが見せてくれたのは、男はすべて右手にもち、特に貴族は円形に近くなるまで鍛えなければならないという紋章。カイドのそれは2本の樹が真ん中を丸く開けて伸び上がり、黄色の花が咲いたものだった。男の最愛が持つ花が紋章の中心に咲くという、この世界の理ことわり。




「オークとダリア。オークは強さの証。ダリアはサーシャの紋だ。優美さの証。俺たちはお互いの『唯一』だった。だからサーシャの紋は体のキレを上げ、風の防御で俺を守る。美桜。お前に助けてもらった時、俺は牙で木に投げつけられてたんだよ。」


「カイド! あなたヘマしたって簡単に言ってたのに!」


「はは・・すまん。そういう顔すると思ったからな。」




怒るサーシャをなだめるカイドを見つめながら美桜はおののいた。木に激突した。だからこその骨折だったという。でもあの時そばで事切れていたイノシシを最後まで仕留めたのはカイドだ。骨折しつつも仕留めたということか。それほどの身体強化とは。すごい。




「お前も「花」は出現しているから、その花を探し求める男がどこかにいるはずだ。色付ならそれこそ必死で探すだろう。自分の「唯一」と出会え、愛してもらえた男は以前の自分とは桁違いに変わるからな。ただ・・・珍しいその花は目立つ。『落ち人』の詮索をされてもかなわん。サーシャの指輪でも借りておけ。」




美桜の花を確認したサーシャに聞かれ、美桜は自分の花が「桜」という花であり、自分がいた世界の花であり、自分の名前の花であると話した。その時にカイドに隠すように言われ、指にはまっているダリアの指輪。違和感はあるがまぁそれは仕方がない。それにだ。




――・・・もうこりごり。二度とあんな思いはしない。一人で生きていけるようにならなくちゃ。




別れて撤退するフェリーで、ずっと海を見つめながら考えていた。自分は人をつなぎ留めておくほどの魅力はない。だからきっと、私の花は、こちらの世界によくある花ではなかったのだ。知らない花を探そうとはだれも思わない。違う花をつけた女性を好きになって結婚する人もいるそうなのだから。




『とにかく、そんなすぐには嫁になんかやれるか!!』とカイドは言い、美桜にとにかく早くこの世界に馴染み、愛せと言った。俺たちがその鎹かすがいに結び目になれればいいがと。そんな優しい二人に、美桜は「ありがとう。お父様。お母様。」と返事したのだ。二人の気持ちがありがたかった。家族を、居場所をやっと手に入れた。そんな気がした。




美桜が食堂の扉を開けると、夕闇迫るオレンジ色の光が自分の「家族」を包んでいる。




「お待たせしました。お父様。お母様。」


「あぁ。さあ。食事にしよう。」




和やかないつもの食卓だったが、カイドがどこか落ち着かず、そわそわしていた。サーシャのほうをそっと見ると、『思いがけない贈り物が届いたのよ。』とニコニコとしている。母の対応がこれなら心配ない。食事に集中しよう。今日はイノシシの肉のシチュー、芋とイノシシのベーコンたっぷりのオムレツにキノコのホワイトソースがかかっている。それにクルミのパンにサラダ。パンはぎっしりとしたドイツパンだ。日本のようにふかふか…とは言えない。でも、そのうち厨房にも入らせてもらおう。




食事を終えると、いつもならコーヒーを一緒に飲むのに、カイドは執務室へと急いで戻っていった。


サーシャはにこにこと、冒険者の面接をしておくのも仕事なのよと笑っていた。美桜はそんなもんかとサーシャに挨拶をして自室に戻った。明日は、魔法書を読まなくちゃ。

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