中和反応化学式
『中和反応化学式』
澄み切った透明の水の入ったバケツに
黒い絵の具を全部ぶちまけて
グルグルとよくかき混ぜて
バシャバシャと叩きつけ
また黒い絵の具を全部注ぎ
適当に眺めていると
僕の心と似たものが出来上がっていた
※
黒色っていうだけでみんなはすぐに否定する
黒色っていうだけで汚いと決めつける
黒色はみんなを暗くするから……
いやそれを否定してるわけではないよ
僕だって正直言って黒色は好きじゃないんだ
本当はパァっと華やかにする赤色や
美しさを際立たせる青色や
力強さを感じさせる緑色や
みんなと仲良くできる白色が
僕だって好きなんだ
でも僕には黒色しかないんだよ
どんなに望んでも
黒色しか手に入らないんだ
――だからは僕はいつも心を黒色で塗り潰すしかないんだよ
※
そしてある時
僕は知らない女の子から話しかけられた
「うわぁ……凄く真っ黒な水だね」
「あぁ……僕には黒色しかないから」
「黒色が好きなの?」
「いや……大嫌いだけど、僕には黒色しかないから白色なんかで薄めることができないんだ」
「君は黒色を薄めたいの?」
「あたりまえだ! 僕はこの黒色のせいでみんなと一緒になれなかったんだから……本当はみんなと仲良くなりたかったのに……」
いつの間にか涙が流れていた
ポツポツと黒色の滴がバケツに吸い込まれていく
「もう泣かなくていいよ。私が薄めてあげるから」
そういって女の子は
僕のすぐ隣りのバケツに水を満タンに入れ
そしてその水を僕のバケツに注いだ
何度も何度も
繰り返し繰り返し
満タンに入ったバケツを持って……
重たいハズなのに
女の子は苦しい顔もせず
僕に微笑みかけながら
その行動を繰り返していた
そんな彼女の姿を見て
僕の頬には
透明の涙が伝っていた