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1 転生することになりました!

「……あれ?」


 俺は気づけば知らない場所にいた。

 白い雲に囲まれた空間だ。

 どこだここ?

 寝ぼけてたらいつの間にか……なんてことはないだろうしな。


「もしかして夢の中、とか?」


 なんとなく現実のような気はするのだが、それも自体も夢あるあるの一つだから宛にはならないだろう。

 俺は自分のほっぺを思いっきりぶってみた。

 痛かった。

 でもよくよく考えたらこれで夢かどうか分かるはずもなく、意味がなかった。


「うー、一体俺はどうすれば」


「……一人で何をしておるんじゃ?」


「うお!?」


 急に傍から声がした。

 そこにはしわがれたお爺さんがいた。

 マジでビビったんですけど……え、こんな人いた?


「何驚いておるのじゃ、最初っからいたじゃろう」


「いや、すみません、普通に気づきませんでした……」


「まぁよい。儂の方こそすまんがったな。でじゃ、お主姫野琉弥ひめのりゅうやという名前で合っておるかの」


「え? あ、はい。そうですけど」


 なんだなんで俺の名前を知っている?

 そのお爺さんは白い貫頭衣のようなものに身を包んでおり、何故か頭の上には天使の輪っかのようなものが浮かんでいた。コスプレのつもりなら、この歳にもなってかなりキツい感じなんじゃないか……? いやそんなことを言ったら流石に失礼か。


「実はじゃな。お主、地球で航空事故に巻き込まれて死んでしもうたんじゃ」


「……え?」


 なんの冗談を言っているのだろう。

 俺は普通に楽しく高校生ライフを送っていたはずだ。


「流石に覚えてはおらんか、ほぼほぼ即死だったからの」


「あのですね、そんなたちの悪い冗談はやめて下さいよ。もし死んでいたとしたらなんでこうやって喋れてるんですか」


 そう、これこそが一番の証拠だ。

 そもそも航空事故とか言っていたがそれも訳が分からない。交通事故とかなら聞いたことはあるけども。ますます信用できないんですが。


「まぁそう切り替えされてはここが天国とか言うても信じてもらえんじゃろうなぁ。それならこれを見てもらうのが早いか」


 お爺さんがそう言うと、目の前に映像の流れてる大きな画面が現れた。

 ホログラムのようになっており、すごく近代的な感じで少し驚いてしまったが、何より驚いたのがその画面の中に俺の姿が映っていたということだ。


「え? 俺?」


「うむ、死ぬ三十秒前の映像じゃな」


 映像の中の俺は自分の部屋のベッドの上でぐっすりと寝こけていた。

 かなり暗いので時刻は夜のようだ。

 というか俺は昼寝はそんなにしないので、寝てるときと言えば大体夜である。

 パンツと白いシャツだけののラフな姿で、確かに俺が普段寝ている時の服装だ。


「ていうか何盗撮してんの!? 犯罪じゃないかなこれ!?」


「盗撮というか過去のデータを参照しておるだけじゃな。儂は神じゃからな。これくらいのことはお手の物よ」


 えー、何だそれ。まぁ確かに天井から見下ろすようなアングルだし、盗撮するにしてもこんな手間のかかることしないか。というか俺をそもそも盗撮したところで何の価値もないような……。


「というか死ぬ前とか言ってましたけど、ただ寝てるだけですよ?」


「ほれ、ここからじゃ」


 お爺さんがそう言うやいなや、急にボゴーンという大きな音が鳴り響き、映像が物凄く激しく乱れ始めた。ごちゃごちゃとしていて、何が何だかわからなくなっている。


「え? 何が起こったんですか……?」


「小型飛行機が墜落してきたんじゃ。丁度お主の家にピンポイントで落ちてきて、お主はそれに押しつぶされて即死した感じじゃな」


「え、ええ!? それじゃ俺の親とか家族は!?」


 俺は一軒家で家族と暮らしていて、俺の他にも親二人と弟一人がいてこの時も同じ屋根の下にいたはずだ。


「ああ、それは問題なかったようじゃ。怪我の一つすらしとらんようじゃな」


 それは良かった……。

 あとこれを見て今ちょっとだけ思い出したけど、確かに寝ている途中になんか物凄く大きな音がして目が覚めたような記憶があるような……


「これで信じて貰えたかのう」


「……なんで飛行機なんかが突っ込んできたんですか?」


「うむ、どうやら米軍基地で管理する機体だったらしいんじゃが、得体のしれんやつにジャックされてしもうたらしいのう。で、操縦するアメリカ兵とそのジャックした男の二人が乗っておったんじゃが、航路の途中で取っ組み合いになってしまったらしくての、フライト維持ができなくなり墜落ということらしい。次の日の朝ニュースにもなっておったのう。お主も不幸な感じで紹介されとったぞ」


「なんだよそれ……」


 要するに無茶苦茶付いてなかった、ってことか? そんな飛行機がたまたま俺の部屋にピンポイントで突っ込んでくるとか一体どんな確率なんだ。

 まぁ、でもあれだな、流石にこれだけ説明されれば自分が死んでしまったって納得するしかないのかな。まだ夢だって可能性は捨てきれないが、死ぬ時というのは案外こんな風にあっさりとした感じなのかもしれない。


「まぁ付いてなかったの。でも安心せい。今回はそんなお主を救うためにこうして呼び出しておるんじゃからな」


「救う……?」


「これでようやく本題に入れるの。実は天国全体の取り組みとして、不幸なものを救済しようというものがなされておってじゃな、今回お主もその対象に入ったというわけなんじゃ」


 思わずはてなマークが浮かんできてしまうが、続きがあるらしいので黙って話を聞く。


「まっ、今回の場合は地球上のそれなりの数の人間が同情を抱いたというのが大きいのう。それで基準をみたしたんじゃ。お主は新たな命を持って異世界に転生することができる」


「転生、ですか? それも異世界って、つまり俺は生き返れるってこと……?」


「うむ、その通りじゃ。ただその世界は危険が大きいからの。何か一つ使えそうな能力を授けようかと」


「ちょ、ちょっと待って、話が追いつかないというか、異世界ってなんですか?」


「なんじゃ、お主もよーく知っておるようなファンタジーの世界じゃよ。まぁ他にも転生候補の世界は無限に近いほどあるんじゃが、地球からの転生の場合はここが無難じゃの。肉体との親和性の問題なんじゃが……まぁお主は知ってもしらんでもいい話じゃ。儂がおすすめの世界ということで厳選しておいたからここにするとよい」


「は、はぁ……」


 ファンタジーというとよくある剣と魔法の世界みたいな感じだろうか。人間以外にも色んな種族が混在していて的な。そんなに詳しいわけでもないからそのぐらいの想像しかできないけど……


「まぁあれこれ言うより実際に転生して肌で感じた方がいくらか早いとは思うが」


「危険っておっしゃいましたけど大丈夫なんですか?」


「まぁ魔物やら何やらでごった返しておるし、治安もそんなによくないところが多いのは確かじゃな。少なくとも地球のようにはいかんじゃろう。ただ安心してよいのが先程も言うたが、お主は一つだけ能力を得ることができる。これは転生の際のちゃんとした決まりじゃからの」


「能力……というと身体能力が上がるとかいう感じですか?」


「それでもよいし、もっと実用的なものを選んでもよい。因みに種類はかなりあるから、好きに選ぶが良い」


 そう言うと、俺の目の前に先ほどと同様の画面が現れ、そこにずらりと文字が書かれてあった。

 どうやらタッチパネル式になっていて、書かれているのは能力名のようだ。

 下にスクロールするとさらに色んな能力が出てきて、どんだけあるんだという感じだ。


「急げとは言わんが儂も他にやることがあるからの」


「ちょ、ちょっと待ってください。流石に多いですよこれ……」


 スクロールすればするほど新たな能力の羅列がでてきて、全部に目を通すのは短時間では不可能に近いだろう。

 でも転生するというからにはそれなりのものを選ばないとな……なんか危険らしいし。

 えっと、『自由移動』『おとも多重召喚術』『なんでも鑑定エキスパート』……えーと『資源再利用化』『臭気掌握』『捕獲の王』……うん、本当にキリないこれ。

 しかも能力名だけでそれがどれだけ使えるかとかもいまいち想像できないし、マジでどうしよう……


「あの、すみません、おすすめとかはないですか……?」


「おすすめか……といっても方向性も様々じゃしのう。派手に暴れまわって覇権を取りに行く系だったり仲間を集めて旅に出る系だったり」


「と、とにかく目立ったりとかはいいんで、安全に、快適に暮らしていけるようなやつで何か……」


「うーむ、まぁお主にもそれが合ってそうじゃのう。地球で平和ボケもしとるじゃろうし……それでいけば……これとかどうじゃ?」


 俺の目の前の画面に一つの能力名が表示された。


「『生活魔法-マスターキット』……?」


「まぁ簡単に言えば便利な魔法が沢山使えるようになるというものじゃな。一つ一つの魔法はそう目立つものではないが、生活していく上で便利だったり、何かと応用が効いたりする。これ一つで全部解決! という売り文句になっておる」


「なるほど……」


 よくわからないが、聞く限りそんなに悪い能力ではなさそうだ。まぁ色々悩んでも結局これになりそうな気もするし、もうこれでいいかな。元々おまけの転生みたいなものだし、深く考えても仕方ないだろ。


「じゃあ折角選んでもらいましたし、それでお願いします」


「ふむ、承知じゃ。あとはデフォルトで死なない程度の身体能力と異世界言語翻訳、そして不老も付与しておくからの。時間を気にせず自由に過ごすとよい」


「ありがとうございます」


 確かに言語を理解できるっていうのはかなり違ってくるよな。あと不老って地味にヤバいんじゃないか? まぁ気にしても仕方がないか、考えないようにしておこう。


「それでは早速転生といくかの」


「え、も、もうですか?」


「何日和っておるのじゃ。こうしていくつか話を聞けただけでも大分違うじゃろ」


 いや、心構えがちょっと……まぁでも確かに何も知らないままいきなり異世界にいましたとかよりは、こうして説明をしてもらっただけでも相当ありがたいよな。


「とりあえず深呼吸…………ふぅ……はぁ……」


「それじゃ転生じゃ」


「え!?」


 俺が悠長に深呼吸を繰り返していると、突如視界が七色に回り始めた。


 そして気づけば浮遊しており、七色のトンネルを出口に向かいまっすぐ突き進んでいた。


 はぁ、まだ心の準備の途中だったのに……だって異世界だよ? 普通に考えてなんか不安でしょ。……はぁ、まぁいいか。

 とりあえずタダで転生させて貰えるということで、折角だし頑張って生きてみるか。

 どんな世界かはよく分からないけど、生きている内にやりたいこととかも見つかってくるだろ。


 俺は気楽に考え、トンネルの出口に向かって飛んでいく。


 異世界への、淡い不安と期待とを抱きながら。

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