最後のキス
彼女にムリだと言われた。
だから部屋を出た。
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晩秋の小春日和、ほがらかな天気に僕が何気なく呟いた一言。
それに対する彼女の言葉が「もうムリでしょ」だった。
ムリだと言われて、僕は認めたくなかった。子供っぽい考えだけど現実を受け入れたくなかった。
だから部屋を出た。
僕は一人で海に向かった。
人が居ない砂浜。冷たい秋風が吹いている。浜風だから、街中の風よりも強い。そのせいで体感温度が低い。体を動かしてないと、ちょっと肌寒い。
海水浴シーズンが終わったせいか清掃してないらしく、砂浜に石が落ちているのが目についた。投げるのに手頃なサイズだ。
投げた。
投げた。
投げた。
秋風が吹き荒ぶ砂浜で投げた。
投げた。
投げた。
投げた。
一心不乱に投げた。
投げた。
投げた。
投げた。
ひたすら投げた。
投げた。
投げた。
投げた。
僕にはそれしか出来ることがなかったから。
投げた。
投げた。
投げた。
だけど何も変わらない。
もうムリかも知れない。
だけど認めたくなかった。
だから、投げた。
投げた。
投げた。
投げた。
……プルプル
「!?」
確かな感触にリールを巻くと鱚がかかってた。
今年最後の鱚。
彼女に、季節外れで投げ釣りではムリだと言われた魚。
だけど、今年最後の一匹が釣れた。
僕の粘り勝ちだ。
「また来年の夏に鱚釣りに来よう」
僕は彼女が待ってる部屋に帰った。
タイトル落ちです。ごめんなさいm(_ _)m
【要約(舌足らずの補完)】
主人公「いい天気だなぁ。鱚釣りに行ってこようかなぁ」
彼女「時期的にムリなんじゃない?」
主人公「ダメ元で釣りに行ってくる」
↓
砂浜で投げ釣り
↓
主人公「たった1匹しか釣れなかったけど、釣れたんだから家に帰って彼女に自慢してやろう!」
【釣り人じゃない人のための補足】
鱚は、夏の砂浜で釣れる魚です。冬は深いところに移動するので陸から釣るのは難しいです。夏の間だけ浅いところに来るので、砂浜から投げ釣りで釣ることができます。
天ぷらにすると美味しいです。
某釣りアニメにも登場した魚です。