6日目 反撃の朝
6日目 前編です
雪代君とその叔父、正志さんに友人の加奈ちゃんとこれからの対策を話した翌日、私はいつもより早めに登校してクラスメートを待ち構えた。
教室には雪代君と加奈ちゃんもいて、そして雪代君と嬉しそうに話す渡部敏夫の姿もある。てか、なんで渡部君も早く来てるんだ、たまたまか。
「いやー、疼っちは良いこという。やっぱ俺は犬派だからさ、つくるなら愛犬団だよ、マジで」
「いや、俺はそんなことは言ってないからな、愛猫団をぶっ壊そうって誘っただけで」
「あー、そだっけ、でもさ、そんなら愛犬団作ろうぜ、めんどいルールなしの犬好きだけのサークル」
どうやら、雪代君が誘ったらしいが話しが変な方向だ。私は猫派なんだよな、とか思ったが、存外悪くない気もしてきた。正志さんの言うことに従うなら、この実験は洗脳実験でありファシズムによる支配実現を目指すものだが、渡部君は純粋に犬好きサークルが作りたいだけ、もしかしたら愛猫団としての団結を切り裂くパワーがあるんじゃないか、渡部はアホのお調子者キャラでクラスのムードメイカーだし、雪代君は霧島君には劣るがイケメンスポーツマンで人気がある。
すごいぞ、私だけでは孤立まっしぐら猫まっしぐらだったろう状況から、正統派貴女を守りたい美少女の加奈ちゃんまで加わって、我が軍の護りは万全だ。
慣れない早起きで、軍隊式洗脳を打ち破るはずが、よっぽど自分の方が軍人思考になっている矛盾に気付いたり気付かなかったりしていると加奈ちゃんが声をかけてくる。
「うまくいくかな、ただの挨拶作戦」
我ながらひどい命名だと思うがやることが本当にただの挨拶なんで仕方ない。
昨日話した後、正志さんにまずやることとして、徹底してルールを無視して生活することを薦められたのだ。
「猫家先生が高波さんのルール無視を黙認したことは他の生徒に2つの印象を与えたはずだ」
そう言った正志さんが説明したのは、
1 私、高波真実を先生が特別扱いした
2 前日の中断宣言を撤回したものの、本心は中断したいのだろうということ
1はそのまま、先生が私を特別扱いして依怙贔屓していると捉えた層、こちらは愛猫団活動支持派がそう考えるはずと、正志さんは言った。人間は自分の立場を補強する情報を欲しがるため、先生が実験自体に消極的だとするスタンスは取れない、なら、私が依怙贔屓されてると考える方がいいんだそうだ。そして、そこから私が実験反対派である以上、起こるアクションは私を陣営に引き入れるべく洗脳を強めるか、排除すべく弾圧するかの2択で、これは私も予想していた。
というよりは私は弾圧の可能性が高いと考えていたが、正志さんは引き入れる可能性が高いと言っていた。
「明確な反対派を引き込めれば、それは凄い宣伝効果だし、他のサイレントマイノリティを完全に黙らすことが出来る、それに先生が依怙贔屓した存在を組み込んだとなれば権威の正統性を補完出来る」
「逆に排斥すれば不満分子が暴発する原因をつくることになるし、なにより、反対派を権威の象徴である先生が依怙贔屓している状態はまずいだろう」
成る程と思ったが、その上で霧島君に気に入られたい女子の嫉妬や功名心での嫌がらせはあるかもしれないと加奈ちゃんが付け足した、確かにありそうでげんなりする。
2に関してはこちらは実験反対派及び中立派はそう感じただろうと、直前に私がした、実権が霧島君に移っている等の発言の信憑性が増したと捉える層だ。
はっきり言えば、クラスメートの大半がルールにはしたがっているが、立場は表明していないサイレントなのだ、現状は実験が継続されている以上、反対派が実はマジョリティ側で、声の大きいカースト上位者に言論封殺されてると考えるのは楽観的すぎる。
あくまでも反対派は、中立派をあわせてもマイノリティの側だと考えるべきだが、いないとは思えない。ならば其処にアプローチして、味方を増やして愛猫団側の権威を傷つけ、正統性を奪ってしまえということで、ただの挨拶作戦なんだ。
私1人が継続したところで味方を作るのは難しいが現状は渡部君も入れて4人、しかもカースト上位者に対抗出来るイケメンスポーツマン、お調子者お笑いキャラ、正統派美少女が揃ってる、私だけモブ感が酷いが参謀キャラなら影が薄いのもありだと無理やり納得する。というか渡部君を引き入れた雪代君は結構なファインプレーだ、信頼できて出来る大人の正志さんとも引き合わせてくれたし、本当に感謝しかない。
見切り発車の昨日まま突っ走ってたらと考えるとかなり怖い、よくあんな思い切ったことが出来たものだ。
「大丈夫だよ。加奈ちゃん、クラスの1割が明確な反対派で、しかも雪代君に加奈ちゃんってクラスでも人気あるんだから」
「私より真実ちゃんのが人気でしょ」
可笑しなことを友人が宣っている、全く自己評価が低いのは謙遜通り越して卑屈だぞっと注意しておく。
部活の朝練明けで教室入りのはやいものやただ単に家が近いものなど教室に入ってくる。
「おはよう」「おーおっはー」「おはようございます」
私以外の3人が元気に声をかけていく。
私も負けられない、反撃の朝がはじまった。
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