4日目 勃発
霧島君無双です。
最初の問題が起きたのは実験開始から4日目の登校日、土日の連休を挟んでの10月8日の朝だった。
「もう、うんざりだ、お前らいつまでそのごっこ遊びしてるんだよ。こっちは忙しいんだ、休みに入れば皆、止めるだろうと我慢してたけど、こんな恥ずかしいこと、いつまでやってるつもりだっ」
朝、教室に入るとクラスメートの一人、雪代疼矢が喚いていた。彼の主張は概ね同意出来るだけに賛同したかったが、クラスの様子が可笑しい、既にほとんどが登校していた教室内で半数以上が雪代君に冷めた目線を送っているのだ。
言外に空気読めよとか、うわ、痛いって空気を出している。普通に考えて雪代君の主張は正しい、中学生が皆仲良く厨二病ですかってディスってる訳だから、恥ずかしいのは残念ながらこちらだ。でもクラスの大半が雪代君が間違っている雰囲気をつくっている。
異様な雰囲気を感じとり、雪代君が喚きをやめる、いや嘘だろ、お前らって目で周りを見渡して顔色が悪くなっていく、私も怖くなって来たところで、霧島君が雪代君へと歩み寄っていた。
「残念だよ、雪代氏。君なら先生閣下の素晴らしい啓蒙精神と我が団の結束の意義を理解出来ると思っていたんだけどね、これは説得が必要かな、なぁ皆」
そう言って、スクールカースト上位のメンバーに向き直る、数人が頷きあい雪代君を囲み始めた。
「いや、わかった、理解したよっ、俺が…私が間違っておりました、霧島君」
そう言った雪代君を無言で見つめる霧島君他数名と、空気に呑まれ声を出せないクラスメートの中で
「霧島…氏」
掠れるような声で言い直した雪代君に、
「わかってくれたかい、信じていたよ雪代氏」
と満面の笑みを浮かべる霧島君に狂気を感じ初めていた。
その日は後は特に問題なく過ぎていく、クラス内でのやり取りがやたら軍隊めいたものになっていることも、他の先生たちが問題視することもなかった。多少、騒がしいうちのクラスが礼儀正しく規律に従って授業態度も良くなっている、むしろ歓迎している雰囲気を感じた。
ただ、実験を始めた猫家先生は困惑しているように見えた。
その日の午後のホームルームで先生が切り出した。
「少し早いが実験を終了しよう、皆の結束も高まったし、なんというか、…こんな洗脳みたいなこと、やっぱり先生、間違ってたかなって」
尻窄みになる先生の言葉に窓側の前の方に座っている雪代君が顔をあげたのが見えた。多分、同意しようとしたのだろう。俺もっ、といいかけた所で霧島君がとめた。
「雪代氏、まだ団の解散が決定した訳ではないよ。先生閣下への直言には閣下を頭に付けたまへ」
雪代君は先生と霧島君を交互に何度も見ながら、クラスメート達の圧力に何でもないと黙ってしまった。
そんな雪代君を尻目に霧島君が先生へと語りかける。
「猫家先生閣下、発言の許可を、閣下」
「いや、そういうの、もう、いいんだ」
先生の返しにクラスメートの多くから無言の抗議がかえる。脂汗をながして、先生がクラスを見回し、お前らと呟いていると、ふと先生の目が私とあった。
「…た…高波はもう、終わりにしていいと思うよな」
とんでもない爆弾を投げてくる、ゆっくりとそれはゆっくりと霧島君が振り返り、人形のような無表情で声だけは笑顔で語りかけてくる。
「高波女史、君もこの素晴らしい試みが中断されるのは残念でしょう」
胸にしっかりと手を当てて、目線を外さず語りかけてくる彼に呑まれて、私はただ頷くことしか出来なかった。
向き直った霧島君と先生の目線が交差する。
「閣下、改めて発言の許可を、閣下」
「あぁ、許す」
先生を礼賛しながらも、決して実験の中断には応じない霧島君に負け、先生が実験継続を決めたのは規定路線に思えた。
この時、救いを求めた先生に応えていたらと私は後悔することになる。
ここから、さらに話が加速して行きます。
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