記者会見 実験の終焉
霧島君の会見となります。
自殺報道から3日、年末のニュース、ワイドショーは旧財閥系企業の親族企業が関連したこの事件で持ちきりになった。それまで、子猫団関連サイトやアプリに、そして霧島銀行やPRのため抜擢された富館漣人と持ち上げてばかりで批判的な論調はネット上の一部のアンチ扱いだったものが、掌を返してバッシング合戦になっている。
自殺した室川さんが、アプリ利用前から被害に遭っていたことで子猫団を擁護する声もまだある中、ネットから同様の被害を訴える声も上がり初めて、私たち愛犬家同盟や正志さんの記事や書き込みなどの過去ログが掘られては紹介される流れが出来る。
私たちをアンチ扱いしていた大勢が、洗脳教育の危険をいち早く察知し、批判に負けずにカウンターを敢行した勇気ある少年少女と紹介しはじめると、少し前まで時代の寵児と呼んだ霧島君を洗脳された悲劇の天才と言い出した。
「悲劇の天才ってのは、霧島銀行側が言わせたんだろう、その方が被害が小さい、日丘教授の言った通りになったな」
家の回りを報道関係の人間が彷徨くようになったため、車で迎えてくれた正志さんがそう言う。私たちはこれから行われる会見をみんなで見るために正志さんのマンションにお邪魔することにしたのだ。
「でもよ正叔父、会見なんて開いてどうするつもりなんだろうな」
3LDK、10畳はあるリビングのソファーでまるで実家のように寛ぎながら、雪代君が訪ねる。
「わからん、もうすぐ会見生中継だから、見てみるしかないだろ」
そう言ってTVをつける正志さん、これうちのリビングのより二回りはデカイ、60型くらい、詳しく無いからわからないがおかげでだいぶ見やすい。
私たちの住んでる町のとなり、県庁所在地でもある鷲追市の市立文化ホールの2階、第3小ホールが会見場だった。すでに大勢の記者や関係者で満員で会見用に並べられた長机には霧島銀行や三友グループ幹部が座り、中央に霧島君とその横に富館漣人が立っていた。
~それでは会見を始めます。本日は霧島銀行を経営する創業一族のご子息が手掛けましたアプリにより、自殺者が出てしまったことについて、アプリ創設者であり、運営管理者の一人である霧島雅人氏より、会見開催の提案を受けてのものとなります。
会見は霧島雅人氏、富館漣人氏、アプリ運営関係者として霧島銀行担当者及び現鷲追市支店頭取、霧島拓氏、三友総合ホールディングス インターネットサービス部企画部長原瀬淳氏の順にお話頂きまして、その後、質問を受付ますのでお願いいたします。では、霧島雅人氏お願いいたします。~
進行役の人が会見の流れを説明して、ついに会見がはじまる。霧島君が立ち上がったまま、富館漣人と共に深々と頭を下げ、着席しゆっくりと話し始めた。
~「皆様、お忙しい中お集まり頂きまして有難うございます。まず最初に室川真由美様のご冥福をお祈りすると共にご遺族の方を含め、私共のアプリが自殺の一助となってしまったこと、誠に申し訳ありませんでした」~
そう言うと、長机に座る全員が立ち上がり深々と頭を下げる。たっぷり数秒間下げ続けたあと、ゆっくりと起き上がり着卓する。
~「では経緯の説明に入ります前に、子猫団関連サイト及びアプリケーションが西ヶ丘中学校教諭猫家博則先生の実験授業、愛猫団の下部組織と位置付けていた件につきまして、猫家先生本人は全く預かり知らない所であり、これらアプリ並び関連サイトの収益は先生には一切入っておりません。この活動は先生の授業に私個人が影響され、その活動を外部に拡散するにあたり、私の親族が善意により協力してくれたものです。猫家先生は本件には関わっていないことをもうしあげます。ですから、猫家先生への取材、また私に協力したクラスメートへの取材はご遠慮お願いいたします」~
目に涙を溜め微かに声を震わせながらも、前を向いて原稿を見ず喋る姿は誠実そのもので、また被害者を悼み、先生や私たちクラスメートに配慮する姿勢は好感が持てるだろう。
「今更、何言ってんだかな、こうなる可能性だって理解してたくせに」
雪代君が言う、確かにそうだろう。霧島君はすべてわかってやっていたと思う、それを隠して話すなら、この会見で彼の本心は聞けないだろう、期待はしていなかったが。
その後、霧島君は猫家先生が実験を始めた時のことから始まり、猫家先生が実験を中断しようとしとこと、それを自分が無理に継続させたこと、それによりクラス内に対立があったこと、ここで今回の件に繋がる問題に気付けたはずがこの活動の素晴らしい部分ばかり見て拡散拡大することに邁進してしまったと説明していた。
「嘘は言ってないな、起こったことを正直に話してる、ただ決定的な部分を語ってない、彼の計画の本当の目的と活動に対しての理解度をあえて誤認させようとしている。上手いな、これじゃ、見てる側には先生の授業内容に感動して拡散しようとして運悪く問題が起きてしまった優等生にしか見えんよ」
正志さんが関心しつつ、どこか軽蔑したような声で言う。
~「三友ホールディングスの原瀬と申します。今回の件を受け、わが社のインターネットサービス部、霧島銀行広報企画室、そして子猫団促進プロジェクトが提供する子猫CLUBを初めとする関連サイト、スマホアプリケーション子猫団員チェックの全てを閉鎖、関連する事業を凍結すること、今回の企画に関わった管理責任者の処分を検討しております。処分の内容については取締役会を経て決定しだいご報告させていただきます」~
この瞬間、猫家先生から始まった実験は終焉を迎えた。
次話を含めて2話~3話で完結予定となります。




