9日目 及ばない追撃
週明け、私たちは嫌がらせや中傷があることを折り込んで活動をスタートした。その前準備としてクラススリングや愛犬家同盟メンバーそれぞれの友人にスリングを送り、活動の支持と、愛猫団が目指していることがクラスの団結などでは無いことを訴えた。
クラススリングへの書き込みは愛猫団メンバーの書き込みに埋もれてしまうため、私たちは4人で書き込みを続けた。その甲斐があってか、私たちに賛同してくれるものが出て来てくれた。表だって活動は厳しいが愛犬家同盟に加わり、活動の輪を拡げる約束をしてくれた一部のクラスメートが部活などのつながりを利用して参加者を募ってくれたのだ。
実際、何人くらいの支持者がいるのかはわからないが、私たちも学内にひとつの勢力をつくれたわけで、少なくとも愛猫団の活動が西ヶ丘中学校の中ではそうそう簡単に拡がる事はないと思える状況をつくれた。
そう、私たちは思っていた、だが霧島君は私たちより上手だった。
クラス内の対立は冷戦構造のように、お互いが非干渉でピリピリとした雰囲気のまま、膠着したが、子猫団が作ったアプリは当然のこと、学内でも話題になっていた。
むしろ、学校の人気者たちが手掛けたアプリで可愛らしい子猫のスタンプが手にはいるし、難しい要素も課金要素もないとなれば、ひろまらないはず無かった。
昼休み、いつもの中庭に集まった私たちは厳しい表情でアプリ画面を眺めていた。
登録者1000人突破記念、みんなにスタンプサービス&緊急ノルマだよ。週末の10/19までに登録者1万人突破で利用者全員に特製スタンプ大放出、みんながんばるニャン。
「何ががんばるニャンだよ、気持ちワリィ」
雪代君が吐き捨てるものの、公開されている特製スタンプはとてもかわいい。その上、登録者の達成人数ごとにアプリ内のマイページで使える壁紙などが提示されていて、凄い。
流石に完全無料で作られている以上は粗もあるし、今後、ユーザーが増えた場合、サーバー負荷で重くなることが予想されるが、そうなっても問題ないという構えかもしれない。
「でもよー、こんなんすぐ飽きるだろ、それにちょっと変わった要素あるだけで、これを使って洗脳とか出来んのか」
渡部君が疑問を投げてくる。それに答えたのは雪代君だった。
「正叔父がさ、関連サイトやメンバーのブログ追いかけたみたいなんだけど、かなり巧妙に裏サイトへの誘導があるみたい、称号のゲットやポイントの付与なんかで、で、その裏サイトは登録制らしいんだけど、まあ簡単に言うと子猫団幹部養成のカリキュラムが仕込まれたものになっていて、正叔父が『やっぱり霧島って子は新興宗教を作るつもりだろ、てか、裏に誰かいてもおかしくない』ってさ」
多少は冗談も混じってはいるだろうけれど、そのくらいには驚いていたと言うことだろう。
「まじかよー、そういえば霧島って、家がヤバいんだっけ」
「え、ヤバいってとっしー、霧島んちってこっちなん」
そう言って相澤さんが頬のあたりを斜めに切ってみせる。
「違うよ、旧財閥系の三友の持ち株企業の一つで霧島銀行の創業一族なんだよ」
加奈ちゃんが苦笑いしながら説明する。そう、霧島君はお父さんがこの県にある霧島銀行支店の副頭取をしていたはずだ。東京にある本店の取締役を霧島君の叔父にあたる、霧島君のお父さんの兄たちがしてると聞いたこともある。
「まさか、親父さんが裏で糸ひいてるとか」
渡部君が自信なさげに言う。
「それはないと思うよ、いくらなんでも中学生の息子にそんなことさせないでしょ」
「どちらかと言うと、霧島が親を利用しようとしてるぞ」
私の返しに雪代君が被せて来る。どういうことだと、視線が集まると操作していたタブレットを見せてくる。
「ためしに霧島の親父のブログ見てたら、ほら」
ブログの中身はお父さんのほのぼのとした息子自慢だったが、自慢の内容が気になる。
~息子が自作のアプリケーションゲームを見せてくれて~
~なかなか良く出来ていて、友人と作ったというし、内容もただのゲームでなく、集団行動の円滑化のための教育内容を伴ったもので、まあ、子供の作ったものだから、色々とお粗末ではあるが、流石、我が息子だと誉めると嬉しそうにしていて、まだ中学生だなと~
~だから、まあ、無理だと思うが一万人も登録者が増えたら、ネットで少しは話題になるかもしれんし、兄たちや関係者にあたって支援してやると冗談で言ったら、約束だよなんて、まだまだ子供だな。まあ、万が一そうなったら知り合いのメディア関係者に兄を通じて話してみるか~
「親父さんは完全に冗談のつもりだけど、万が一あるだろ、だって霧島銀行って、ドラマなんかのスポンサーもしてるし、タレントなんかに薦めたりしたら」
雪代君の言葉はたいぶ飛躍があるのは確かだ、でも霧島君は様々なアクションを起こして数打ちゃ当たるをやってるんだとすれば、霧島君のお父さんがこうしてブログで紹介したように、関係者の人にそれとなく薦めてくれるように頼んだかもしれない。もし、その何処かから火がついたら。可能性は低くはないだろう。
「相澤さん、ツミートなんて言ってられないかも、私はこの一連の出来事を小説にしてあちこちにアップする、相澤さんと渡部君は憎まれ役になるけど、それでもツミートやブログあげお願い。雪代君と加奈ちゃんは私のサポートお願い」
加奈ちゃんが小説なんて書けるのって聞いてくるけど、とにかく何か発信しよう、正志さんのコネを頼ることになるけど、作品として取り上げて貰って、上手く類似性をついて、攻撃材料にして貰えればいい。
つまるところ、このアプリで問題が起きる前に人気が無くなってしまえばいい。
そもそも、登録者が増えなければいいんだが、それは希望的過ぎると言うものだ。
その日の放課後、雪代君の家にお邪魔して小説を雪代君のノートパソコンで小説を書き始める、何気にタイプが速い雪代君に打ってもらい、私はひたすら、ここ最近の出来事をまとめ、ノンフィクションノベルとして仕上げていく。
加奈ちゃんが聞き手として、描写のおかしな箇所を校正して修正していき、元々、文章を書くことは好きな私はかなりの勢いで物語を構築していく。
「最初に小説って聞いたときは、まじかってなったけど、この分なら数日で仕上がるな」
「出来たところで誰も読まなきゃ意味ないけどね」
「そこは正叔父がライター関係の伝で広めてくれるらしいから、俺たちは恥かかせない程度に頑張りましょ」
こうして完成した小説は相手にもされなかった。
子猫団サイトやアプリが登録者を増やし続ける中で。