1日目 実験の開始
初の連載小説となります。
応援お願いいたしますm(_ _)m
実際の事件をモチーフとしていますが、この作品は全てフィクションです。
町立のどこにでもある中学校、私たちの通う町立西ヶ丘中学校は特に秀でたところもないごく普通の中学校だった。
「お前たち~、静かにしろっ」
教室に担任で社会科教諭の猫家先生の声が響く。私たち2年3組の社会の授業中、男子たちがふざけていたからだ。
男子たちの言い訳とは思えない弁明に先生が呆れながら突っ込みを入れている。仲がいいのだ、この先生は生徒たちと。
距離感が絶妙で性格も明るく面白い、見た目も存外悪くはなく、まだ20代後半で未婚の先生は女子受けも悪くはなかった。
まぁ、私こと高波真実にとってはどうでも良かったが、教え方は巧く、授業も分かりやすいので、たまにこうして生徒と一緒に漫才さえしなければいい先生だ。多分、皆にとっては今のままで最高の先生かもしれないが。
そんな先生が可笑しなことを言い出したのは2学期の途中、10月3日の授業中だった。
「今日は少し変わった実験をする」
ホームルーム冒頭にそう切り出した先生が述べたのは、このクラスだけのルールの導入だった。それが何の目的で何を調べる実験かは終了後に教えてくれるという。
女子は軽いブーイングとともに抗議の意思をしめした者がいたが、男子のほとんどが面白そうだと同意してしまった。
黒板に愛猫団なるふざけた名称を書いた先生は振り返ると「今日からこれがこのクラスの名前だ」と宣った。
「えー、オレ、犬派なのに~」
「五月蝿い、渡部、お前は俺の名前に喧嘩売る気か、おい」
「先生の発言こそ、全国の犬派を敵に回してるよ」
お調子者の渡部敏夫が野次をいれるが、軽く流され、先生の話は続く。
「お前たちは俺のことを猫家先生閣下と呼ぶように」
教室中から失笑と爆笑が木霊する、さっき絡んだばかりの渡部など閣下~と繰り返しながらひきつり笑いが苦しそうだ。
「お前らっ、先生だって恥ずかしんだぞっ」
ぶつぶつと文句を言いながら、先生がルールとやらを黒板に箇条書きしていく。
1 このクラスを愛猫団とし、猫家先生を団長、生徒を団員と定める
2 団長には敬称として閣下をつけて猫家先生閣下と呼ぶ
3 団長への直言、直答のさいは必ず、発言の前に閣下、発言の終わりにも閣下をつける
4 団長には必ず敬語を使う
5 団員の勧誘は行わない
6 団内のルールの追加は団長の許可を得て行う
何か軍隊みたい、と思ったのは私だけじゃないだろう、女子たちがめんどくさーいと口々に声をあげるも、男子は既に何人かが吹き出しながら、猫家先生閣下、発言をお許し下さい、閣下。などと騒いでいる。
「はいはい、静かにしろ、じゃあ、今からスタートだ。ここからは俺は団長だ」
「規律を破っているものには、デコピンだからな」
そう言いながら右手の中指を左手で弾いてる先生を見ながら、こういう遊びで距離感をつめてくるあたり、先生は上手いな~なんて呑気なことを考えてたんだ、この時は。
あの時、誰かが猫家先生の実験を止めていれば、あんな事にはならなかったのに。
不定期更新となりますが、よろしくお願いいたしますm(_ _)m