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女騎士エリス

私はエリス。モンストル帝国の騎士で、騎士団長ヒラテ将軍の孫娘である。


そんな私は、祖父からある任務を告げられていた。


「魔物の討伐ですか?」

「うむ。帝都の東、聖なる森ケンシーに異常な数の魔物が集まっておる」


祖父は資料を基に説明してきた。


「ケンシー森は帝国守護獣、金竜マザードラゴンの神殿がある場所。本来なら魔物が近寄るはずもない。何かが起こっているのじゃろう」

「では、兵士を連れて……」


私の提案に、祖父はゆっくりと首を振る。


「残念だが、ある事情で兵士は動かせぬ」

「その事情とは」


私の質問に祖父は困った顔をしたが、しぶしぶその理由を話した。


「実は、この作戦では名目上の大将として、トランス王子が参加なされる」

「なぜ王子が」


私が嫌そうな顔になると、祖父は真剣な顔になった。


「一部廷臣たちから声が上がっておる。トランス王子もそろそろ武勲をあげる機会を設けるべきだとな。彼らの根回しにより、兵士の出動が見送られたのだ」

「武勲ですか?しかし、今の王子では……」


私が言いたいことを察したのだろう。祖父はだまって首を振った。


「……わかっておる。役にたたないというのだろう。だが、いつ王子が正気に戻られるかわからぬ。それを警戒した廷臣たちが、この機会に王子を抹殺するつもりなのだろう」


それを聞いて、私の顔にも緊張が走る。


「では、どうすれば……」


困惑する私に、祖父は優しく告げた。


「心配するな。すでにギルドを通じて冒険者を雇って居る。彼らを指揮して、見事討伐してくるのじゃ」

「ですが、冒険者など頼りになるのでしょうか。奴らは町のゴロツキのようなもの。仮にも騎士たる私が指揮すべきものたちではありません」


冒険者への不信をあらわにする私に、祖父は苦笑した。


「そうバカにしたものではないぞ。世界を救い帝国の基礎を築いた伝説の勇者シムケンも冒険者だったというではないか」

「そ、それはあくまで伝説でございます。今の時代、勇者シムケンのような高潔な冒険者がいるとは……」


しぶる私に、祖父は厳しい顔になって命令した。


「これは命令じゃ。冒険者すら使いこなせずに任務を果たせないものが、どうして立派な騎士になれようか」

「わ、わかりました。ご命令、謹んでお受けいたします」


私はしぶしぶ命令書を受け取り、冒険者ギルドに向かった。


「頼んだぞ、王子の身を守ってくれ」


そう告げる祖父の顔には、トランス王子に対する心配が浮かんでいた。




冒険者ギルドに入るなり、私は顔をしかめた。


ギルドは酒場を兼ねているらしく、妙な恰好をした男女が酒を飲み交わしている。


「おう。可愛いねーちゃんだな。こっちに来ていっぱいどうだい」


さっそく、禿げた大男の冒険者に絡まれてしまった。

私は思わずかっとなって、怒鳴りつけてしまう。


「無礼者。騎士に対してその態度はなんだ?」

「騎士だって?」


荒くれ冒険者たちは私をじろじろと見つめると、奥で騒ぎながら飲んでいた男に声をかけた。


「おーい。ハンケツ仮面。あんたのお仲間がきたってよ」

「どれどれ?」


やってきた冒険者は、美々しい騎士の甲冑を着こんだ男だった。


「おぬしは騎士なのか?なぜ冒険者などしているのだ」

「……いろいろと事情があってな。アルバイト中だ」


私はそれを聞いて納得する。たしかに騎士の中には経済的に困窮している者たちもいる。かれらはこっそり職務以外に副業に励むこともあり、騎士の情けとしてそれは見過ごされていた。


おそらく、この男は貧乏騎士家の次男以降で、なかなか正式な騎士になれないので冒険者をして腕を磨いているのだろう。


「私は帝国騎士エリスだ。この度ケンシー森の魔物討伐に赴くことになった。よろしく頼む」

「ああ、話は聞いている。任せておけ」


ハンケツ仮面とよばれた騎士は、手を差し延べてきた。私はその手を握り、しっかりと握手をする。

その時、ニヤニヤとした冒険者たちが後ろから声をかけてきた。


「よーし。出陣前の景気づけだ。一杯どうだ」

「いただこう」


ハンケツ仮面はニヤリと笑って、振り向いた。


そのまま手を伸ばしてグラスを受け取ろうとする。必然的に前かがみになり……え?


「き、きゃーーーーっ!、貴様!」


思わず私は剣を抜いてしまう。ハンケツ仮面は鎧の腰の部分を身に着けておらず、後ろを向くと尻が丸出しになっていた。


「あっはっはっは。ひっかかった」

「こいつと初めて会ったねーちゃんは、みんな驚くんだよなぁ。後ろをむくと尻が見えて」

「俺たちもいろいろ工夫して傾いているけど、こいつには負けるぜ」


冒険者たちは私の驚く様子を見て、いい肴とばかりに笑い、口笛を吹いてきた。


「ぐふふ。まあ。挨拶はこれくらいにして、お前も飲め」


ハンケツ仮面はグラスを差し出してくる。その顔はマスクに隠されていて見えないが、笑っているようだった。

私はこんな奴らを率いて魔物討伐しに行かなければならないかと、頭を抱えるのだった

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