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ハンケツ仮面

「これが帝都モンゴリアンか。大都会だな」


俺はのんびりと帝都を見物しながら散歩する。帝都モンゴリアンは世界最大の帝国モンストルの首都にふさわしく、大勢の人でにぎわっていた。


白い肌、黒い肌、黄色い肌の人種にとどまらず、獣人族やエルフ、ドワーフの姿も見かける。彼らは人間に征服させた属国の民だった。


彼らは一応奴隷ということになっているが、文明国モンストルにおいての奴隷とは従業員に近い存在である。ちゃんと主人は給料を払わないといけないし、むやみに虐待することも禁じられている。また数年働けば、自分自身を買い戻して市民権を得ることも可能だった。


奴隷の中には、貧しい辺境国の暮らしを嫌って自分自身を売却し、この首都に流れてきたものたちもいる。

彼らによって、帝都の日々の暮らしは支えられていた。


「さて。自分の力でいきるためには、何か職を身につけないといけないな」


そう思った俺は、職業ギルドに赴くが、すげなくあしらわれてしまった。


「あんた、何か生産的スキルを持っているのかい?」

「スキル?そういわれても……」


俺は言葉につまる。王宮で教えられていたのは帝王学や剣技、魔法なので、生産的な技能とはいえなかった。


「魔法や剣はそこそこ使えるぞ」

「うーん。なら、兵士になるしかないが……」


冗談じゃない。兵士として国に仕えるのって、今の立場より悪くなるだけだ。俺はいざという時のために、国と無関係でもいきていけるような立場を手に入れたいんだ。


「あ、あと漫才とか笑劇とかできるぞ」

「残念だけど、劇場は美人とかイケメンじゃないと採用されないよ」


どうやら、この世界は不細工の芸人が人気者になるといったお笑い文化はまだないらしい。


「仕方ない。なら肉体労働で……」

「残念だが、今帝都では奴隷になりたがる奴がどんどんやってきて、人余りの状況だ。奴隷になるなら仕事は見つかるかもしれないが……」


それは嫌だ。


「うーん。なら、冒険者にでもなってみるか?」

「冒険者?」

「魔物の肉や素材を取ってきたり、遺跡にもぐって財宝を探す仕事だ。ちょっと脛に傷を持つ奴が集まる仕事だが、それでもいいなら紹介できるぞ」


職業ギルドの職員の申し出に、俺は飛びつく。職員から紹介状を貰って、冒険者ギルドに赴くのだった。




冒険者ギルドは帝都のはずれ、半ばスラム街と化している地域にある。

近づくにつれ、通行人の恰好が変わっていった。


帝都の貴族街のような上品さも、商業街のような清潔さもなくなり、頭をモヒカンにしたり、ハゲにしたりと強面の者たちが増えてくる。彼らは着ている服も獣の皮などを加工したもので奇抜だった。


(いいねぇ。ワイルドで。ここでなら俺が生きていく力を磨けそうだ)


俺はそんなことを思いながら冒険者ギルドの扉を開ける。中に入るなり、酒をのんでいる冒険者たちの視線が集まってきた。


(どういうことだ?騎士の鎧を着た奴が来たぞ)

(大方、貴族のボンボンが冒険者にあこがれて家出してきたってとこかな。ちょっとからかってやろうか)

(まあ、待てよ。何か依頼に来たのかもしれねえぜ。手をだすのは奴が冒険者手続きをして、正式な新入りになってからだ)


冒険者たちはニヤニヤと笑いながら、俺を見つめてくる。彼らの視線を感じながら、俺は猫耳の受付嬢の前にたった。


「い、いらっしゃいませ。お仕事のご依頼ですか?」

「冒険者になりに来た」


それを聞いた冒険者たちが、互いに乾杯している。


「あ、あの。冒険者というのはもっと身分が低い者たちがなる職業で、恐れ多くも騎士様のご子息には……」

「かまわない。手続きしてくれ」


俺が重ねて申し出ると、しぶしぶ入会書類を持ってくる。


「仕方ありません。この書類をご記入ください」

「感謝する」


俺は前かがみになって、書類を掻き始めた。


それと同時に、後ろで武器を構えていた冒険者たちの動きがピタリと止まる。彼らの視線は俺の下半身に集中していた。


「な、なんだあいつ……」

「後ろが……」


俺が前かがみになった拍子に、後ろの冒険者たちに尻が見えてしまったらしい。ひそひそ声が聞こえてきた。


俺は自分の尻に視線が集中するのを感じ、ひそかに悦に入っていた。


(ふふふ。俺の尻は奇麗だろう)


見せつけるように尻を振ってやると、冒険者たちからおそれの気配が伝わってくる。

面白くなってきた俺は、振り向いて手をふってやった。


「みんな、よろしくな!」

「きゃーーーーー⁉」


俺の後ろをみてしまった猫族の受付嬢が叫び声をあげるが、俺は気にしない。


「こ、こいつ。やばいやつだ。人前で尻を出すとは、よっぽどのアホか、自信があって挑発しているのか、はたまた特殊性癖を持って誘っているのか……なんにしろ。関わりたくねえ」


俺に恐れをなした冒険者たちは、こそこそとギルドを出ていった。


「そ、その。あなたはなぜそんな恰好を?」


顔を隠しながら、受付嬢が聞いてくる。


「なに。これが俺のポリシーなのさ。冒険者は各々工夫をこらした格好をして自分の名を売るものだろ」


胸をそらして言ってやると、受付嬢もしぶしぶ書類を受け取った。

「は、はい。それで、お名前は?」

「名前か……そうだな」


俺は少し考えた末、誰からも一発で覚えられる名前にすることにした。


「俺の名前は、『半月(ハンゲツ)仮面』だ」


俺は自分の目元を隠す半月形のアイガードがついたマスクを指さして名乗る。


「ハンケツ仮面?」

「ハンゲツ仮面だ」


目に力を込めて、間違えないように念を押す。


「わ。わかりました。ハンゲツ仮面さん。これで冒険者登録は終わりです」


俺のことを危ないやつだと思ったのか、ギルトの受付嬢はそそくさと手続きを終えた。


「さて……次は仕事だな。えっと、薬草集めに魔物の素材、危険なモンスターの討伐依頼か。まずは基本からだな」


俺は村を襲うゴブリン討伐の依頼書を手に取り、窓口に向かう。


「ゴブリン討伐ですね。あら?ちょっと待ってください。ごめんなさい。これは既に受付済みですね。こちらのミスで、張り出されたままになっていました」


猫耳の受付嬢はすまなさそうに頭を下げる。


「仕方ない。なら薬草採集で」

「はい」


受付嬢は受任カードを手渡してくる。俺はそれを受け取り、帝都に一番近い村であるゴルゴダ村に向かった。



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