王都の危機
いきなり咆哮が聞こえたと思ったら、屋敷が崩れていく。
「なんだ?何が起こったんだ」
落ちてくる天井をさけて中庭に出たら、金色の結界につつまれた姫たちがいた。
「ハンケツ仮面様」
「ギャウギャウ」
俺を見て、姫とタマキンが喜んでけよってくる。
「ハンケツ仮面。来てくれたんだな」
「ああ、王子に頼まれてな。それより、あれはなんだ?」
屋敷を壊している巨大なオオカミのことを聞くと、エリスは事情を説明した。
「タマキンの血にそんな効果が?」
「このままだと、帝都はあいつに壊されてしまう」
エリスはアクダンカンを恐怖の目で見つめている。
「とりあえず、ここは危ない。屋敷からでるぞ。『浮身』」
俺はエリスたちに風魔法をかけると、空を飛んでその場から離れる。
外にでると、カゲロウが呼んだヒラテ爺が兵士を率いて屋敷を包囲していた。
「姫、ご無事だったんですね」
俺たちが着地すると、カゲロウが姫に抱き着いてきた。
「姫、ご無事でようございました。ここは私たちに任せて、王城に避難してくだされ」
ヒラテ爺が逃がそうとするが、姫はブンブンと首をふった。
「いえ。私には王族として民を守る義務があります。私だけ逃げ出すわけにはいきません」
「ボクも戦います!」
「ギャウギャウ」
カゲロウとタマキンも名乗りをあげる。
「仕方ないな。なら、俺たちであいつをやっつけるか」
こうして俺とエリス、姫とカゲロウのパーティが組まれることになるのだった。
「グオオオオ」
いきなり現れた巨大モンスターに、帝都は大パニックになった。
「なんだあの怪物は?」
「逃げろ!」
帝都の商業区からは、大勢の人が逃げ出していく。
「皆、包囲を崩すな。こいつを止めないと、王城まで被害が及ぶ。なんとしてもここで始末するのじゃ」
「おう」
ヒラテ爺の鼓舞を受けた兵士たちは、果敢にアクダンカンに立ち向かっていく。
「ぎゃああああ。耳が痛い」
しかし、アクダンカンの口から発せられる咆哮を受けた兵士たちは、次々に倒れていった。
「まずい。エアシールド」
アクダンカンがこっちを向いたので、俺は空気の幕を作って皆を守る。
咆哮とともに発せられた超音波振動は、俺の作った空気の幕と相殺された。
「今じゃ!魔法を放て!」
「爆炎弾」
「ファイヤーボール!」
ヒラテ爺の命令により、カゲロウと魔法騎士たちが攻撃魔法を放つ。
しかし、その黒い毛皮に魔法がはじかれてしまった。
「くそっ」
エリスが鉄球をふるうが、硬い毛皮に跳ね返されてダメージを与えられない。
「ぐはは。虫けらどもよ。何をしても無駄だ。魔王様の復活の前に帝国をほろぼしてやる」
アクダンカンが咆哮を放つと、周囲の建物が崩れていった。
「まずい。このままだと本当に帝都が破壊されてしまう」
エリスは持っている鉄球を盾に変えて、アクダンカンの前に立ちはだかる。
「『ドラゴンネット』」
盾から発せられた結界は金色の網状になり、アクダンカンを拘束した。
「今だ!私が抑えている間にこいつを!」
「わかった。『風船の手』」」
圧縮空気の玉をアクダンカンの口めがけて打ち込むが、口から発せられる咆哮で破裂してしまった。
「だめだ。こいつには通用しない。くそっ。打つ手なしか」
奴の毛皮には魔法も効かない。一酸化炭素を吸い込ませて窒息させる手も、あの咆哮で拡散されてしまうだろう。
「こうなったら、仕方ないな」
俺は覚悟を決めると、マスク以外のすべての鎧を脱ぎ捨ててすっぽんぽんになった。
「きゃっ!ハ、ハンケツ仮面、何やっているんだ?」
顔を手で覆ったエリスが詰問してくるが、これにはれっきとした理由があるんだ。
「邪魔になるから鎧を脱いだんだ。外側からの攻撃では、奴の毛皮をやぶれない。奴の口から飛び込んで、内部から攻撃してみる」
それを聞いた姫は、慌てた様子で止めてきた。
「おう……じゃなくてハンケツ仮面様。危険です!」
「大丈夫だ。風をまとっていれば、奴の体内で窒息死することはない」
俺は風魔法で酸素を自分の周囲に集める。そうしておいて、慎重にタイミングを測った。
「グォォォォ」
アクダンカンの雄たけびが再び響き渡り、エリスが張った結界をこなごなに打ち砕く。
「いくぞ!『浮身』
奴が次の咆哮をあげようと大きく息を吸い込んだ瞬間、俺は大きく開いた口に飛び込んだ。
体内に飛び込んだ俺は、喉をつたって降りていく。嚥下運動により滑り落ちそうになるところを、必死に踏ん張っていた。
しばらく進むと、道が二つに分かれていた。
「どっちにいけばいいんだ?」
気道を選べば内部から肺を破壊することができるが、食n道を選べば胃に落ちて溶かされてしまう。
「どっちだ……」
俺はどちらの道が正しいか選べず、立ち往生するのだった。




