竜騎士覚醒
アクダンカンの屋敷に着いた俺は、まずは穏便に交渉しようとした。
「ここに余の婚約者であるサクラ姫が連れてこられたと聞いた。すみやかに釈放するのじゃ」
礼儀正しく要求したつもりだったが、憲兵たちには相手にされなかった。
「そんな事実はない。とっとと失せろ」
仕方ないので、俺は自分の身分を明かす。
「なんじゃと?余の命令が聞かぬと申すか?余は第五王子トランスであるぞ」
王子の権威をもって脅しつけたが、応対したひげの憲兵はなぜか自信たっぷりにあざ笑ってきた。
「ふん。俺たちの上司アクダンカン様は、今もっとも皇帝に近いといわれている第三王子トラスト様と懇意にしているんだ」
「ああ、バカ王子のたわごとなど、誰も相手にされないだろうよ」
くそっ。俺の評判の悪さが裏目に出たか。こんな下っ端ですら命令にしたがわないなんて。
「もう一度言う。さっさと失せろ」
「……わかったぞよ」
くそ。こうなったら爺が来るのを待つしかない。そう思って引き下がろうとしたとき、屋敷の奥からタマキンの鳴き声が聞こえてきた。
「ギュイイイイイ」
聞いているだけで痛みが伝わってくるような、悲痛な叫び声である。
「貴様、タマキンになにをした」
「ああ、あのドラゴンならアクダンカン様に献上したぜ。いい金になるって喜んでいたな」
ひげの憲兵は、ニヤニヤと笑っている。
「今ごろ隷属の首輪をかけられているころだろうぜ。ドラゴンは高く売れるらしいからな。俺たちにも少しはおこぼれが……」
「ウインドショット」
最後まで聞く気になれず、俺は風魔法をふるう。ひげの憲兵は突風に吹き飛ばされて、壁に激突した。
「この野郎。俺たち憲兵に逆らうつもりか!」
憲兵たちが、剣をふるって迫ってくる。
「国の役人だとおもっておとなしくしていれば、勝手なことばかりしやがって。こうなったら、容赦しねえぞ」
俺は襲ってくる憲兵たちに向き合った。
切りかかってくる兵士たちに対して、俺は慎重に空気の対流から判断してその動きを見切る。
「くそ。なんだこいつ!」
「ちょこまかと逃げやがって」
俺に交わされた兵士たちは、ムキになって剣をふるうが、狭い部屋内なので互いの体が邪魔になって実力を発揮できなかった。
俺は兵士の顔の前に握りこぶしをつきだすと、パっと開く。
「なんだ?握りっ屁のつもりか?そんなのが通用するわけ……ぐぅ」
俺の手のひらの空気を吸い込んだ兵士は、一瞬で昏倒した。
「貴様、何をやった?」
「真空魔法『パスカル』だ。拳の中の酸素濃度を15%まで下げて、相手に吸わせれば、一瞬で酸素欠乏症になって昏倒する。接近戦なら無敵だ」
俺は兵士の口元に低濃度酸素の塊を放つ。それを吸い込んだ兵士は、瞬く間に倒れていった。
「う、うわぁぁぁ」
「だめだ。とてもかなわない」
仲間が次々と倒されるのを見て、憲兵たちは逃げていく。
「待っていろよ。エリス、姫、タマキン。『アポーツ』」
俺はハンケツ仮面の鎧を装着すると、屋敷の奥へと侵入していった。
「うわっ」
光の結界は、アクダンカンたちを吹き飛ばしていく。姫を拘束していた憲兵たちも壁に叩きつけられた。
「タマちゃん」
姫が駆け寄ってきて、タマのはがされた鱗の部分に手を当てた。
「『リボーン』」
姫の手から発せられた光が、タマの傷を癒していく。傷ついた体は、元通りになった。
「ギュウウ」
治療されたタマは、嬉しそうな鳴き声をあげた。
「き、貴様ら……ゆるさん!」
起き上がったアクダンカンたちは、剣を抜いて迫ってくる。
「死ね!」
私たちに向かって振り下ろされた剣は、光の結界に阻まれて跳ね返された。
「これがタマの力……」
「いいえ、違います。これはエリス様の力ですよ」
私のつぶやきを、姫が否定してきた。
「私の力ですと?」
「ええ。タマちゃんの力は他者の力の増幅。何度かタマちゃんに力を貸してもらって、私もそれを実感しました」
確かに、この光の結界は私の体から出ていた。
「これが私の力……」
「ギャウ」
タマが一声鳴くと、はがれた鱗が変化していく。それは瞬く間に金色のチェーン付の盾に変化していった。
「これが伝説の竜騎士カトペーの武器『シールドフレイル』。力が湧いてきた」
盾を手に取ると、盾が丸まって棘のついた鉄球に変化する。私はチェーンを手に取ると、鉄球を思い切り振りまわした。
「ぐえっ」
「ぎゅぁぁぁぁぁぁぁぁ」
鉄球に打たれた憲兵たちは、少し触れただけで感電して昏倒した。
「ひ、ひいっ。申し訳ありませんでした」
護衛の憲兵たちを打ちたおされたアクダンカンは、真っ青になって土下座する。
「さあ、お仕置きの時間だ」
私はニヤリと笑うと、鉄球をふるった。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!」
鉄球で打たれたアクダンカンは、床を転げまわってもだえる。
「覚悟しろ。姫を誘拐し、帝国の守護聖獣であるタマを傷つけた罪、陛下にさばいていただく」
私は倒れたアクダンカンを踏みつけにして、堂々と言い放った。
「陛下にだと……くっ。私はこんなところで死刑になるわけにはいかん。私には使命があるのだ……」
アクダンカンはそうつぶやくと、先ほどタマの血を収めた小瓶を手に取った。
「貴様、何をするつもりだ!」
慌てて取り上げようとするが、一瞬早くアクダンカンは血を口に含んでしまう。
「竜の血には若返りの効果がある。ならば、前世の姿をも取り戻すことも可能……おおお……力が戻ってくる……あの最も力にあふれた、すばらしい時代の肉体に……」
四つん這いで床に伏していたアクダンカンの姿が変わっていく。黒色の毛により全身が覆われ、鋭い爪と牙が這うてくる。
アクダンカンは、巨大な黒いオオカミの姿になった。
「我は魔族四天王の一人、アクダンカン。今、前世の姿を完全に取り戻した」
アクダンカンはどんどん巨大化していき、ついには屋敷を破壊するほどの大きさになった。
「ぐはは。帝国で出世して、人間社会を内部から壊してやろうと思っていたが、こうなった以上はワシが直接帝国を滅ぼしてやる」
アクダンカンは一声咆哮をあげると、結界に護られた私たちを忌々しそうに睨みつけた。
「そこでワシが帝都を破壊しつくすのを、見ているがいい。勇者無き聖女と竜騎士よ」
そういうと、アクダンカンは暴れ始めた。




