聖地
だが、姫と子供たちだけは守ってみせる。そう決死の覚悟を決めた時に、六歳くらいの女の子がチンピラたちの前に出てうなり声をあげた。
「ギャウギャウ」
「なんだてめー。しゃべれねえのか」
男たちが剣を突き付けて笑うと、ボンっという音と共に少女が金色のドラゴンに変化した。
「な、なんだこいつ。トカゲのモンスター?」
男たちが動揺している間に、ドラゴンに戻ったタマは私の頭の上に飛び乗ると、咆哮を上げる。
「ギュウウウ」
次の瞬間、金色の光が巻き起こり、彼らを結界に閉じ込めた。
「な、なんだこれは、出られねえぞ」
男たちは結界から一歩も動けなくなった。
「やった!」
「タマちゃんすげー」
子供たちから歓声があがる。タマは誇らしそうに胸をそらした。
「な、なんだこいつは……」
「おっと。そいつはドラゴンの子供だ。逆らわないほうがいいぜ」
軽い口調でそういったのは、ハンケツ仮面だった。
「ば、ばかな。ドラゴンがなんでこんなチンケな孤児院にいるんだ」
「チンケで悪かったな。怪我しねえうちに帰った方がいいぜ」
ハンケツ仮面がそういった時、姫に治療してもらった冒険者たちがやってきて声をあげる。
「おとといきやがれ」
「ここは聖女様とドラゴン様がいらっしゃる聖地なんだ。ここに手を出す奴は、俺たち冒険者まで敵に回すことを覚えておくんだな」
大勢の冒険者たちに睨みつけられて、ゼニスキーたちはひるんだ。
「ち、ちくしょう。覚えてやがれ」
タマが張った結界が消えると、そう捨て台詞を吐いて、去っていく。
「やれやれ、追い払ったか。だけどあいつら何なんだ」
「借金は無くなったはずなのに、なぜかここから出ていけいっていう人が未だに来るんです」
セリナが暗い顔をするので、ハンケツ仮面はよしよしどなぐさめた。
「まあ、俺たちがついているんだから、この孤児院は大丈夫だ。安心しろ」
「はい。ありがとうございます」
慰められ笑顔になるセリナを見ながら、私はなんとも言えない気分になった。
(姫もハンケツ仮面も、そしてカゲロウ殿も民のために何かをしている。もしかして私は役立たずなのではないか?こんなザマでは、竜騎士としてタマにみとめられないのも当然だ)
私はそんな思いにかられ、落ち込むのだった。
「ゼニスキー、スラムの住人の追い出しは進んでいるのか」
「それが、なかなかうまくいっておりません」
私が孤児院での出来事を報告すると、アクダンカンは目に見えて狼狽えた。
「なんだと。あの孤児院に聖女がいるだと。しかもドラゴンの子供までいるのか」
「ええ。あの孤児院はスラム街の住人や冒険者たちにとっては聖地扱いされています」
「ぐぬぬ……」
それを聞いたアクダンカンは歯噛みして悔しがる。
「こうなったら、あきらめるしか……」
「今更そんなことができるか!すでにかなりの投資をして、スラムの土地を買い占めているのだぞ」
その資金を出したのは私たち商人なんだがな。
「待てよ。ドラゴンだって。そんな貴重な魔物がいるのか。ぐふふ……」
アクダンカンは悪人面をして、何かよからぬことを考え始めた。
まさか、ドラゴンの子供に手をだすつもりじゃないだろうな。帝国では聖獣扱いされている存在だぞ。
「ゼニスキー、わが部下を貸してやる。なんとしてでもそいつらを攫ってこい」
「アクダンカン様。それはあまりに……」
思わず私が抗議しようしとしが、ギロリと睨みつけられてしまった。
「断るというなら、貴様らに対する締め付けを強化するだけだ」
「そ、そんな……」
悔しいが、治安担当であるこいつににらまれたら、帝都で商売ができなくなってしまう。
「腹をくくれ。お前はさんざん私に賄賂を貢いだし、私はお前たち商人の脱税や違法行為に目をつむってやった。我々はすでに一蓮托生なのだ。お前は私の命令に従っていればよい」
傲慢に命じてくる奴に対して、私は怒りを感じるが、どうすることもできない。
「わかりました。隙をうかがって聖女とドラゴンを捕まえましょう」
私は不安を感じながら、従うのだった。




