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聖女誕生

「あれ、何だ?」


近くの屋台のおばさんに聞くと、嫌そうな顔で吐き捨てた。


「ちょっと前から帝都の治安部隊の兵士がこのスラム街に入り込んできて、治安維持の名目で好き放題ふるまっているんだ。奴らのバックにはお偉いさんがいるみたいで、国に訴えても相手にしてくれなくて……」


「なんだと!」


私が憤慨したとき、テントの奥から右足がない男が松葉杖をつきながら出てきて、兵士たちに怒鳴りつける。


「なんだてめえら!ここは俺の店だ。出ていけ!」

「笑わせるんじゃねえ。何が店だ。乞食でもしていたほうがマシだぜ」


兵士たちはあざ笑いながら、行ってしまった。


「くそ……兵士のやつら、好き勝手しやがって。この体が動けば、奴らなんてひとひねりなのに」


中年男は悔しがって肩を落とすが、娘らしき少女になぐさめられていた。


「お父さん。いいの。ここでこうやってリンゴを売っていれば、食べてはいけるわ」


「すまねえ。冒険者なんかして一攫千金を夢見た俺がバカだったんだ。こんなケガをして働けなくなってしまった。お前にも苦労をかける」


中年男は後悔しているようだが、確かに傷を負って引退した冒険者の末路は悲惨だと聞いたことがある。。冒険者は宝を見つけて億万長者になることもある夢のある仕事だが、その反面危険もおおい。

モンスターに襲われて怪我をすると、失業して餓死するかこうやって露天商でもするしかなくなるのだ。


「何言っているのよ。私は平気だよ。お父さんが生きてさえいてくれればいいの」

「うう……お前……」


二人は抱き合って涙を流す。


「あの……もしよろしければ、私に治療させていただけませんでしょうか」


見ていた姫が、同情して二人に声をかけた。


「あんた治療師か?でも、俺たちには金が無くて……それに、失われた足を治すなんてこと、伝説の聖女でもない限り無理だ……」


「私にどこまでできるかわかりませんが、全力を尽くしたいと思います」


姫の熱意に負けて、男は治療を受ける気になったみたいだった。


「そうか。ならお願いする。気休めでも、やらないよりはましだ」


姫は男を椅子に座らせ、失われた右足に手を触れる。


「治療魔法発動」


姫の手から発せられた金色の光は、男の右足をやさしく照らした。


「おお……痛みが消えていく……」


男は涙を流して喜んでいるが、姫は悔しそうだった。


「悔しい……私の力では痛みを取ることしかできないの?伝説の聖女チェリー様。力をおかしください」


「ギュイ」


姫が聖女に向けて祈った時、タマが一声鳴いて姫の頭の上に乗った。


「な、なに?この力……」


その時、姫の手から発せられる光が強くなり、男の右足を包んでいく。


光が薄れると、右足は見事に再生されていた。


「あ、足が生えた。立てる!立てるぞ」

「お父さん!」


二人は抱きあって喜び合う。


「奇跡だ!」

「伝説の聖女様が使ったといわれる、極大治療魔法「リボーン」をこの目で見ることができるなんて……」


いつの間にか人だかりができており、多くの人が姫が起こした奇跡を感動の目で見ていた。


「ありがとう。この恩は命がけで返す」


目の前で土下座する男と少女に、姫は笑って首を振った。


「恩返しなんていいですよ。それより、娘さんを大切にしてくださいね」

「はい」



男が涙を流しながら頷くと、見ていた住人たちから歓声が上がった。


「聖女様!万歳!」


「このスラム街に、新たな聖女様がいらっしゃった。俺たちの希望だ!」


そう称えられる姫を、先ほどの兵士たちが忌々しそうに見つめていた。


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