王位継承権はく奪
「陛下!トランス王子は完全に頭がおかしくなっております。追放すべしです」
貴族たちが責めている中、必死にかばっている老人がいた。
「へ、陛下。トランス王子はご病気なのです。なにとぞ寛大な処分を」
「うむ……あ奴の頭がおかしくなったのは、毒を盛られたせいだ。あ奴のせいではない」
悲痛な顔をしたトラン皇帝も、俺に同情してくれた。
自室に軟禁され、『千里眼』の魔法でそれを見ていた俺は、やれやれとため息をついた。
「爺もおやじも優しすぎるぜ。どこか田舎の領地にでも追放してくれたら、俺も安全になるんだけどな」
そう思いながら見守っていると、俺への処分が下った。
「ですが!」
「あ奴は我が皇帝家の犠牲になったのだ。王位継承権ははく奪するが、王子の地位は残してやってもよいのでは」
「陛下がそうおっしゃるのなら……」
それを聞いた貴族たちは、安心して引き下がる。
(くふふ。もっとも帝位に近いと言われたトランス王子が、継承争いから脱落した)
そうおもった貴族たちは、自分の派閥の王子たちをアピールする。
「では、皇太子は第二王子に」
「いやいや、第一王女の美貌と美しさに、諸侯たちもこぞって頭を垂れるでしょう」
醜く争う貴族たちを無視して、トラン皇帝はヒラテ将軍に話しかける。
「あ奴はどこか属国からでも嫁を取ってやって、平和に過ごさせてやりたい」
「……はっ。それでは、トランス王子を任せられる、心優しい姫を探しておきましょう」
目に涙をためて、ヒラテ将軍は頭を下げた。
(どこか属国の姫と結婚させられる?まずいな。思惑が外れたぞ……。下手をしたら帝国から追い出されるかも。果たしてこれが吉とでるか凶とでるか)
帝国にいれば暗殺される危険性があるが、属国に入り婿になったら冷遇される可能性も高い。
(とりあえず、異国で裸一貫で放り出されても生きていけるように鍛えるか)
俺はひそかに自分の力で生きる決意を固めるのだった。
無事にバカ王子デビューを果たした俺は、勉強や修行を免除され、自由に過ごすことができるようになった。
しかし、それでもヒラテ将軍だけは俺をなんとか更生させようと必死である。
「王子、どちらに行かれるのですか」
「ちょっと城下町まで散歩に」
こっそりと城を出ようとする俺の前に、ヒラテ爺が立ちはだかる。
「なりません!。お部屋で勉強を!」
「ええ?やだーん」
「やだじゃありません。戻りますぞ」
襟首をつかんで引きずっていこうとするので、俺はとておきの風魔法を使う事にした。
「『霧化』」
「あっ」
肉体が霧と化したので、着ている服がするりと脱げてしまう。
振り返った爺が見たものは、尻丸出しで逃げていく俺の後ろ姿だった。
「王子!お待ちなさい」
「やだよーん」
俺は脱兎のようにヒラテ爺から逃げ出す。そうしておいて、鎧や武具が置いてある備品室に逃げ込んだ。
「王子!どこにいったのです?」
「しつこいな。こうなったら……」
俺は適当に備品室にあった騎士の鎧を着こむ。しかし、小柄な少年の体なので、上半身を着たところで丈が余ってしまい、腰の部分を身に着ける事ができなかった。
「まあいいか。なんとかち〇こは隠れるし」
鎧の腹部分で前は隠れるが、少しかがむだけで後ろは丸出しになる。
俺は鎧の上半身に長めのアーマーブーツを着た姿で、備品室から出た。
廊下を歩いていると、メイドたちをひきつれたヒラテ爺とすれ違う。
「これ。そこの騎士よ。トランス王子を見なかったか?」
「いえ。存じ上げません」
半月形のマスクで目元を隠した俺は、声色を使ってそう返事した。
「まったく。あのバカ王子め。ようやく姫と政略結婚させてもよいという属国が決まったことを伝えようとおもったのに。まあよい。王子を見つけたら拘束しておいてくれ」
「はっ」
俺はそう返事をして、ヒラテ爺とすれ違った。
その時、ヒラテ爺についていたメイドが首をかしげる。
「あれ?あの騎士様って、鎧の腰部分を着ていたかしら」
疑問に思って振り返ったメイドが見たものは、尻丸出しの変態騎士だった。
「き、きゃぁーーーー⁉へ、変態」
メイドの叫び声を聞いて、ヒラテ爺もびっくりする。
「な、なんだ!いきなり叫び声をあげて」
「あ、あの騎士、お尻丸出しで……」
メイドは必死に訴えるが、その時すでに俺は遠くに逃げ去っていた。
「うまくいったぞ。よし、この恰好で外を散策しよう。まさか王子が尻丸出して歩いているとは誰も思わないだろうしな」
俺は上機嫌で、城から抜け出していった。




