エリスの苦悩
私はエリス。女騎士にして帝国の名門貴族の子女だ。我がヒラテ家は初代皇帝である勇者シムケンの親友である竜騎士カトぺーの末裔で、代々王族に仕えてきた。
私もいつかドラゴンに認められ、竜騎士になるのが夢なのが……。
「ㇷガッ。ギャウウ」
タマにえさをやろうとしたら、ひっかかれてしまった。
「あらあら、どうして食べてくれないのでしょうか?」
「タマちゃん。王子以外からは絶対に餌を貰おうとしないんだよねー」
姫とカゲロウ殿も可愛がろうとするが、プイッと顔を背けて飛んで行ってしまう。
なんで懐かれないんだろう。私たちはこんなにタマの事を世話しているのに。
悲しくなった私は、勤務時間が終わった後にマーリン殿に相談しようと彼女の研究室に赴く。
そこには、なぜかタマがいて、椅子にちょこんと座っててマーリン殿と向き合っていた。
「ギャウギャウ」
「タマ?マーリン殿と何を?」
意外な組みあわせだったので、私は首をかしげる。
「タマちゃん、私に良く魔法を習いにきてるわよ。見せてあげたら?」
「ギャウ」
タマは頷くと、全身から魔力を放出する。まぶしい金色の光がタマをつつみ、その中から小さな人影が現れる。
タマは、6歳くらいの可愛い女の子に変化した。
「か、可愛い」
「ㇷガッ。グルルルル!」
私はおもわず抱きしめようとするが、タマは一言鳴き声をあげると逃げて行ってしまった。
私はさびしい思いでその後ろ姿を見送くると、マーリン殿に愚痴をもらす。
「竜騎士になるためにはドラゴンに認められないといけないのですが、なぜかタマが懐いてくれないのです。それだけではなく、姫やカゲロウ殿にも敵意をむきだしにして」
それをきいたマーリン殿は苦笑した。
「それはね。嫉妬しているのよ」
「嫉妬?」
はて、タマに嫉妬されるようなことが私にあったか?
「そう。ドラゴンはご主人様と結ばれる可能性がある異性に対して嫉妬するという習性があるわ」
どういうことだ?私が王子と結ばれる可能性があるとでもいうのか?
「失礼ですが、それはありえませんね」
「あらあら、エリスちゃんは王子の幼馴染で仲良しさんだったじゃない」
マーリン殿が私の黒歴史を指摘するので、顔が赤くなるのを感じた。
「そ、それは昔の話です。恐れ多くも王子にたいして不敬かもしれませぬが、最近の王子は、その、我が身をささげるのにふさわしいとは思えません」
そうだ。確かに以前の王子に対しては尊敬の念を抱いていたが、今はただのバカだ。それに私に対してセクハラするし……あんな奴は大嫌いだ!
私にふさわしいのは、もっと勇敢で高潔な男だ。そう、あのハンケツ仮面のような。
「あらあら、エリスちゃん。もしかして本当に王子がバカになったと思っているのかな」
マーリン殿がからかうような顔でいうので、私はムッとなった。
「どういう意味ですか?」
「あれは演技よ」
マーリン殿が自信を持って断言するので、私は否定した。
「そんなわけがありません。演技であんな恥ずかしいことができるわけがありません」
城内をお尻丸出しで逃げ回っているんだぞ。
「そうねぇ。まあ、見限るのは早いと思うわよ。もう少し見守ってあげてもいいんじゃないかな」
マーリン殿がそうなだめてくるので、私はしぶしぶ頷くのだった。




