困りごと
「ぐふふ。余は自分が思いついたアイデアを民に施してやっているのじゃ。市井の間では、発想の天才『白面様』としてあがめられておるのじゃぞ」
「王子、そんなことしていたんですか。バカのくせに」
エリスが意外そうな目を向けてくるが、別に俺の頭がいいわけじゃない。前世の日本にあってこの世界にないものなんていくらでもあるしな。
「トランス王子はバカじゃないと思いますよ。ただ行いが突飛で奇矯なだけで」
「そうそう。バカなら面白いゲーム考えたりできるわけないもん」
姫とカゲロウは意外と俺のことを認めてくれているみたいだな。
「さて、食べ歩きはこれくらいにして、姫は行きたい所があるか?帝都は大都会だから、劇場や遊戯場などもたくさんあるぞ」
俺の言葉に、姫は元気よく答えた。
「それなら、冒険者ギルドに行ってみたいです」
それをきいたカゲロウとエリスは、慌てて止めてきた。
「姫。冒険者ギルドは下々の者が仕事を求めて行くところ。王族の方が赴かれる所ではありませんぞ」
「そうですよ。危ないですよ」
それを聞いた姫は、凛とした表情で諭してきた。
「いいえ。私は王族として民の上に立つ者です。市井のものが何を必要としているのか、どんなことで困っているのかをきちんと把握しておかなければなりません」
なるほど。姫にとってはこのお忍び散歩も勉強のつもりなんだな。たしかに冒険者ギルドはいい社会勉強になるかもしれない。
「よかろう。さあ、行くぞ」
俺は姫たちを連れて、冒険者ギルドに向かった。
冒険者ギルト
モヒカンやハゲの筋肉流々とした男や、色とりどりの魔物の羽で着飾った女など、ここは変わった恰好をしている冒険者たちであふれていた。
「わぁ、かっこいい」
姫はコスプレした男女を見て、目を輝かせている。
「どうしてみんなあんな変わった恰好しているんですか?」
「名前を売るためじゃ。変わった恰好しているほうが有利なのでな。有名になれば、自分を指名してくれる依頼人も増えるというわけじゃ」
そう説明する俺に、エリスが不審な目を向けてきた。
「王子はなんてそんなこと知っているんですか?」
「な、なんでもないぞ。こほん」
やばい。俺は世間知らずの王子という設定で、冒険者事情にまで詳しいのは不自然だったな。
「なるほど。ハンケツ仮面がお尻だしているのはそういうわけか。ただの変態だと思っていたよ。ところで、彼はいないのかな」
カゲロウはキョロキョロとギルドを見渡して、ハンケツ仮面をさがしている。俺がここにいるんだから、今日は現れないぞ。
「まあ、特に用はないが、依頼とかみてみようぞ。何々、イーグルウグイスの討伐、金貨1000枚か。大金だな。まあだいたいこんな感じで、モンスターの討伐依頼とか素材採集とかが主な仕事になるのじゃ」
「なるほど、勉強になります」
依頼ず貼りだされている掲示板を姫に見せていると、受付のほうで騒ぎが起こっているのが聞こえてきた。
「お願いします。もっと稼げるモンスターを教えてください」
必死になって頼み込んでくるのは、まだ幼いドワーフの美少女だった。
猫族の受付嬢は、困惑した表情で諭している。
「でも、あなたまだ12歳でしょ?依頼できる仕事って、薬草採取とかしか……」
「でも……それじゃ全然稼げません。私がお金を稼がないと、孤児院の子たちが……」
ついにはその場にへたりこんで、泣き出してしまう。
「何か事情があるみたいですね。私でよければ相談に乗りましょう」
俺が止める間もなく、それを見た姫が声をかけてしまった。
「しかたないのぅ。余に話してみるがよい」
その少女を落ち着かせ、テーブルに座らせて事情を聞く。彼女はセリナと名乗った。
彼女にジュースをおごってあげると、しゃくりあげながらポツポツと話し始めた。
「実は……私は幼い頃に両親を事故で無くして以来、ずっとこの近くのメディナ孤児院で養われていたのですが、先日シスターが病気になり亡くなってしまいました。それ以来、怖い男の人たちが借金を返せと脅してきて……一番年長の私がなんとかしないといけないと思って冒険者になろうとしたんです」
うん。なんとベタな話だ。だけど姫の同情心を買うには充分だったみたいだ。
「せめて今月の支払いだけでもしないと、私たちは追い出されてしまいます。だから冒険者をして稼ごうと思ったんです」
「かわいそう……」
姫はセリナに同情してすすり泣いている。エリスとカゲロウも目をうるませていた。
「わかりました。これを寄付させてください」
そういって姫は、身に着けていた髪飾りを渡そうとする。
しかし、俺はそれを止めた。
「やめておいたほうがよいぞ」
「なぜです?」
姫がきょとんとなるので、俺は諭してやった。
「その髪飾りだけでは借金返済には足るまい。売って今月の支払いはどうにかなったとしても、所詮は一時しのぎにすぎぬ。セリナとやら。その方らが自分たちで安定して稼げるようにならない以上、すぐに生活に行き詰まって借金を繰り返すだけじゃ」
エリスとカゲロウも、そのことはわかっていたらしく、俺の言葉にうなずいていた。
「でも……」
それでも姫が悲しそうにしているので、俺は仕方なく自分の持っているアイデアを提供することにした。
「仕方ないのぅ。なら、余に任せるのじゃ」
俺はそういって、ニヤリと笑った。




