すごろく
私はサクラ。モンスト目帝国の属国ジパングの第一王女です。今日は私の婚約者であるトランス王子と、楽しくすごろく遊びをしています。
広い部屋には、床いっぱいにすごろくのマスが描かれていました。
「王子、これはなんですか?」
エリス様が聞いているのは、すごろくの升目のことですね。「一回休み」「振出しに戻る」「3つ進む」などの定番にまじって、ところどころ布で隠されている部分があります。
「これは『人間すごろく』といって、もし布のところに止まったら罰ゲームを受けないといけないルールなのじゃ」
「へえ、面白そう」
カゲロウも興味深そうにすごろくをみています。
たしかに、普通のすごろくだと緊張感がありませんから、罰ゲームがあったほうが面白いかも。
「何か悪い予感がするのですが、仕方ありませんね」
渋っていたエリス様も、あきらめたように首を振りました。
「一位でゴールした者には、なんでも願いをかなえてやるぞ」
王子の言葉に、私たちのテンションが上がります。
ジャンケンで順番を決めて、すごろくが始まりました。
「私からですね。えいっ。あら?六ですわ」
私は大きなさいころを振り、でた目を進めます。布で隠されたマスにとまりました。
「どれどれ。『セーラー服に着替える』か。よいよい。これ、侍女たちよ。姫を別室に」
「は、はい」
王子が合図すると、侍女たちが現れます。私は別室につれていかれて、着替えさせられました。
「これがセーラー服というものですか?かわいいですね」
「うむうむ。姫、似合っておるぞ」
王子からも褒められました。うれしいな。
「次はボクだね。3かぁ。あれ?また布のマスだ。どれどれ、『お風呂に入る』って、なんだこれ。うわっ」
カゲロウがマスに座った瞬間、床が抜けてお湯がたまっている穴に落ちました。
「あははは。ひっかかかった」
「ひどい!」
カゲロウはプンプン怒っていますが、おもしろいかも。
「つ、次は私ですね、えっと、5だから『3進む」って、私もですか!」
またまた布のマスに止まりました。エリス様は警戒しながら進んでいきます。
「何か変なことが書かれてなければよいのだが……え?『鼻フック』って」
「よし。当たりだ」
王子が合図すると、侍女たちが先にかぎづめがついたロープのようなものを持ってきます。
「エリス様、失礼いたします。お許しください」
「な、なんだお前たち、何をするつもりなんだ!」
江レス様は侍女たちによって連れていかれます。戻ってきた彼女の顔をみて、私は思わず吹き出してしまいました。
「あ、あはは。エリス様のお顔が」
「ま、まるで豚さんみたです」
かわいらしいエリス様は、鼻が平らな豚さんのような顔になっていました。
「くぅぅ……なんという辱めを……」
エリス様は涙目になっていますが、とってもかわいいですよ。
「さ、どんどん行こうかぁ」
ゲームはどんどん進行していきます。
「えいっ。あれ、また六ですね、次は『ぶるまぁ』ですか?」
「『氷風呂』って……」
「『はげカツラ装着』……」
なぜか私たちは布のマス目に止まる事が多く、すごろくは大いに盛り上がりました。
「やった。これで上がりです」
最後には、運よくマスを進めることができた私が最初にゴールすることができました。
「うう……ひどい目にあったよ」
「や、やっと終われる……」
全身ずぶぬれになったカゲロウと、珍妙な恰好になったエリス様には悪いですが、これは勝負ですからね。
「姫が優勝じゃな。望みはなんじゃ?」
トラリス王子が鷹揚に聞いてくるので、私はおねだりすることにしました。
「帝都に来てからというもの、ずっとこの塔の中にいて退屈しているのです。よければ、お忍びで帝都を見物してみたいのです」
それを聞いたトランス王子は一瞬考えこむような顔をしましたが、すぐに笑顔を浮かべました。
「よいぞ。それじゃ、正体がばれぬように変装しなければのう」
こうして、私たちは帝都を散歩することになったのでした。
「きれいな街並みですね」
俺は姫を連れて、帝都モンゴリアンの城下を歩いていていた。カゲロウとエリスも一緒である。
「私、侍女の恰好をして外を歩くのって初めてで、どきどきしちゃいます」
はしゃぐ姫は、メイド服が良く似合っていた。
「うう……なぜ私まで侍女の恰好を……」
「ボクはいつもの服だけどね。まあ、たまにはいいじゃん。可愛いよ」
ぼやくエリスを、カゲロウが慰めている。
ちなみに俺は城で働く下級役人の恰好をしていた。
「こういう城関係者であることが一目でわかる服を着ていたら、よけいなトラブルに巻き込まれることはあるまい。余はいつもこの服で城下を散歩しておるぞ」
「王子はまずそのお顔をなんとかされるべきでしょう。なんでおしろいを塗ったままなんですか?街の人たちは、関わりたくないと思ってるんですよ」
エリスは何かぼやいているが、俺は気にせず姫たちを誘う。
「さあ、今日はパーッと遊ぶか。なんでもおごってやるぞ」
こうして、俺は姫たちとのデートを楽しむのだった。
街を歩いていると、民たちから気安く声をかけられる。
「よう、白面の兄さん。可愛い子たちをつれて、うらやましいねぇ」
「ぐふふ。そうじゃろう」
俺が自慢すると、屋台のおやじは苦笑して売り物を差し出してきた。
「あんたのアドバイスのおかげで、うちも商売繁盛だ。お代はいらねえ。もっていきな」
そういって、小麦粉の生地にフルーツを巻いたものをおしつけてくる。
それを食べた姫は、笑顔になった。
「これ、とってもおいしいです」
「クレープというものじゃ。新しく出たお菓子として最近流行っておる」
姫に喜んでもらってよかったな。
さらに商人街をあるいていると、ジュース屋のおかみに声をかけられた。
「白面のにいちゃん。ありがとね。あんたの考えた卵ジュース、若い娘にウケてるよ。さあ、飲んでいきな」
おかみはホクホク顔でジュースを手渡してくる。たしかにジュース屋には10代の女の子たちが行列を作っていた。
「これ、中に何がはいっているの?まさか……」
「お察しのとおり、コーガンウォッシャーの卵じゃ」
「うぇっ……」
カゲロウは何かトラウマが刺激されたのか、嫌そうな顔をしているが、俺に促されてしぶしぶ飲んでみると笑顔になった。
「なにこれ?おいしい。それに新食感」
「うふふ。そうじゃろう」
俺が死ぬ少し前にはやったタピオカドリングだが、この世界でもどうやら受け入れてもらえたみたいだな。




