素材集め
ボクの名前はカゲロウ。ジパング国がら姫のお供をしてやってきた女忍者だ。
今日は姫のおつかいで、一人で帝都を歩いていた。
「エリス様がジパングのお菓子を大層気に入ってくださいまして、作り方を教えてほしいと頼まれました。でも後宮ではなかなか材料がそろわないので、調達してくれませんか」
そう姫から頼まれたので、ボクは帝都の市場に探しにきている。
「もち米?ああ、東方の一部で栽培されている米だな。残念だけどここにはないと思うぜ」
「うーん。砂糖はあるけど、小豆かぁ。すまない。ちょうど切らしているんだ」
いろいろ店をまわってみたけど、材料がそろわなかった。
「困ったな………なんとかならない?」
「そうだな……代用品ならないこともないが」
そういって紹介されたのは、なんと冒険者ギルドだった。
「カゲロウさん。いらっしゃい。今日は冒険者の仕事をさがしているのですか?」
「いや、今日は仕事の依頼だよ」
顔見知りの猫族の受付嬢に相談すると、彼女は頷いて素材になるモンスターの資料を持ってきてくれた。
「それなら、モッチースライムとコーガンウォッシャーを討伐する必要がありますね。ただ、どちらも厄介なモンスターなので、討伐依頼をかけてもなかなか集まらないかもしれないですが」
「そうか、なら仲間を集めてボクが採取にいくよ」
モンスターが生息している場所の資料をもらって、ボクは冒険者たちに声をかけていく。
だけど、誰もがモンスターの名前を聞くと、尻ごみした。
「モッチースライム?ごめん。私たちは遠慮するわ」
声をかけた女性冒険者のパーティからは、微妙な顔をして断られてしまう。
「コ―ガンウォッシャー?うぉぉ。やめてくれ。トラウマが……」
仕方ないので男性冒険者のパーティに話をもちかけたが、蒼い顔をして逃げて行ってしまった。
「困ったな……そんなに危険なモンスターなのかな」
「いや、危険はないんだが、ちょっと問題があるモンスターなんだよ」
ボクに話しかけてきたのは、騎士のマスクをかぶった冒険者だった。
「ハンケツ仮面。久しぶり」
「おう、元気だったか」
ボクが親しみを込めて手を差し出すと、ハンケツ仮面はしっかりと握手してくれた。
「ギュウ」
その時、ハンケツ仮面の鎧の下から金色の鱗をもつドラゴンが出てきて、不機嫌そうにボクの手をべしぺしと叩いた。
「あれ?タマちゃん。なんでハンケツ仮面と一緒にいるの」
「ああ、こいつは俺の友達で、よく一緒に狩りにでているぞ」
「ギャウ」
タマちゃんはハンケツ仮面の肩に登って、誇らしげに首をそらす。懐かれているみたいでうやらましいな。
「そっか。なら君たちに依頼していいかな。ボクと一緒にモンスター狩りにいこう」
「俺はいいが、本当にいいのか?カラダを張ってもらうことになるぞ」
「かまわないよ。姫のためだもん」
こうして、二人と一匹でパーティを組んでモンスター狩りにでる。でも、そのあとボクは心底後悔することになるのだった。
モッチースライムの生息所は、帝都の穀倉地帯、ドカイナ村である。
「いや、あんな魔物を討伐に来ていただけるとは、奇特なお方だっぺ。いくらでも取っていってください」
俺たちを出迎えた村長は、もろ手をあげて歓迎してくれた。
「いいんですか?」
「ええ、奴らはコメを食い荒らす害獣です。おらたちも必死に駆除しているんですが、すぐ増えるんですよ」
村長は疲れ切った顔をして、ため息をついた。彼に案内されて、俺たちはモッチースライムが暴れているという田畑にいく。
「うわぁ。いっぱいだね」
田畑には、真っ白い雪のようなスライムが繁殖しており、作物を食い荒らしていた。
「さてと……いっちょやるかな」
短剣を構えて田畑に入ろうとしたカゲロウを、俺は押しとどめる。
「慌てるな、モッチースライムを駆除するには、まず準備が必要なんだ。とりあえず、脱げ」
「はっ?」
俺の言葉をきいたカゲロウの目が点になる。
「だから、服を脱いで裸になるんだ」
そういうと、俺はマスク以外のすべての服を脱ぎ捨てた。
「なにしてんだよ。変態!ふんっ」
怒ったカゲロウは、俺の忠告を無視して田畑に入る。
次の瞬間、白いモッチースライムたちが一斉にむらがってきた。
「くそっ。このっ!離せ!」
カゲロウは必死に短剣でスライムたちを切り刻むが、切られたスライムたちは仲間同士再結合して元に戻る。
とうとう、カゲロウは合体したスライムに取り込まれてしまった。
スライムが出す粘液が、カゲロウの忍者装束を溶かしていく。
「あっ!こら!、どこさわってんだよ!えっち、離せ―」
カゲロウはひっしにもがくが、スライムに全身を拘束されて動けない。
「いいか、奴らを倒すには、まず全裸になってから、カラダにあるポーションを塗ってだな……」
「そんなのいいから、助けて!」
半泣きで頼んでくるので、仕方なく薬を放ってやった。
「な、なにこれ」
「ぬるぬるポーションだ。モッチースライムに嫌われる香料が入っているから、それを体に塗れ」
「くっ。わかったよう」
既に大部分の忍者装束を溶かされて下着姿になっていたカゲロウは、必死に白いポーションを自分の体にふりかける。
「キュウウウウウ」
ポーションにふれたモッチースライムは、鳴き声をあげてカゲロウを離した。
「く、くそっ。よくもボクを辱めたな。くらえ、忍魔術、火遁の術」
カゲロウの手から放たれた炎の玉が、モッチースライムに触れた瞬間大爆発を起こす。
「ギャゥゥゥ」
スライムは核を破壊され、駆除されたのだった。
「うう……汚されちゃった気分」
なんとかスライムたちを倒したものの、カゲロウは下着姿で白い粘液まみれである。
「……おいしい絵、いただきました」
それを見て、俺は喝采をあげるのだった。




