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変な王子

後宮


「そんな事があったんですか。まったく、あのバカ王子は、帝国の恥さらしです」


改めて護衛任務についた私は、姫から王子との初対面で何があったのかを聞いて憤慨していた。

しかし、姫はあまり悪い印象をもたなかったのか、コロコロと笑っている。


「面白いお方でしたね。一緒にいると楽しそう」

「それに、珍しいペットを飼っていましたね。ドラゴン自体も珍しいのに、金色の鱗でとってもきれいでした」


ああ、タマキ……タマのことだな。


カゲロウ殿は気に入ったのか、さかんにドラゴンの話をしている。


「あのドラゴンはいずれ成長して帝国の守護獣になるでしょう」


私がそう自慢すると、二人はうらやましそうな顔になった。


私たちがいるのは、後宮の一角にあるトランス王子の塔である。サクラ姫はとりあえず婚約者として認められ、王子とこの塔で同居することになった。


私は帝国産のお菓子を持参してご機嫌伺いしたところ、姫に歓迎されこうして話相手を務めている。


「この『ケーキ』っておいしいですわね。ジパングにはなかったですわ」

「ボクも気に入りました」


二人とも、私が持ってきたお菓子を気に入った様子でつまんでいる。奮発して帝都一番の店から買ってきてよかったな。


「では、お返しに。これをどうぞ」


姫が包みをあけると、白いもちもちしたお菓子が入っていた。


「これは私が作った『ダイフク』というジバングのお菓子ですよ。おひとつどうぞ」


勧められて口に入れた私は、その食感と上品な甘さに感動した。


「こ、これはおいしい。気に入りました」


「ふふ。エリス様に気に入ってもらってうれしいですわ。でもそんなに急いで食べると……」


姫がそういったとき、急に息が苦しくなる。


「うっ」


な、なんだ!何がおこったんだ!


「エリスさま。これをどうぞ」


いつのまにか隣にいた見知らぬ侍女が、お茶を手渡してきて、背中を叩いてくれた。


「ごぐごく。ぷはっ。すまない」

「いえいえ」


私が飲んでいたコップをその侍女に手渡すと、なぜかそいつは嬉しそうにコップに残ったお茶を飲んだ。


「あらあら、『ダイフク』をのどにつまらせちゃったみたいだね」

「ゆっくり食べないと、こういうことがあるのですので気をつけてくださいね」


二人にたしなめられ、私は真っ赤になった。


その時、先ほどの侍女が声をかけてくる。


「エリス様。『ダイフク』をおさげしましょうか?」

「あ、ああ。そうしてくれ」


侍女は私の食べかけのダイフクを持って行った……とおもってたら、少し離れた所でこっそり口にいれるのを見てしまった。


いかんな。異国のお菓子で珍しいものだというのはわかるが、人の食べ残しをこっそりつまみ食いとは躾がなってない。後で叱らねばな。


そう思っていたら、その侍女が戻ってきた。


「姫様、カゲロウ様。食べ終えられたようなので、食器をおさげしてよろしいですか」

「はい。お願いします」


姫は優雅なしぐさで、ケーキの乗せられていたお皿とフォークを侍女に手渡す。


それを受け取った侍女は、なぜかいやらしい笑みを浮かべると、いきなりパクっとフォークを口に含んだ。


「き、貴様。今、何をした?」

「はて、なんでしょうか?」


その侍女はとぼけた顔をするが、どう見てもちゃんと教育を受けた後宮のメイドの態度とは思えない。


というか、誰だこいつは。こんなメイドいたか?


「何者だ!貴様」

「何者だってか?」


そのメイドは不敵にニヤッと笑うと、胸につけていたブローチをはずす。


ボフっと煙が巻き起こり、その中からおしろいで顔を塗りたくったトランス王子が現れた。


「そうです。余が変な王子様です。わっはっは」

「ギュイ」


ついでに股間からタマが顔をだし、一声鳴く。


「こ、このバカ王子ー」


後宮に、私の怒声が響き渡るのだった。


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