対面
城に入ったジパング使節を迎えたのは、妖艶な雰囲気を持つ20代後半のメイドだった。
「皆様、ようこそいらっしゃいました。お城では私が姫様にお仕えさせていただきます」
そのメイドは、飾り立てられている謁見の間に使節を案内する。そこでは厳粛な顔をしたヒラテ将軍が衛士を連れて待っていた。
「ジパング国の方々、ようこそお越しくださいました。今から王子がお会いになられますので、少々お待ちください」
「はい」
姫たちは案内された席に座って、王子を待った。
「トランス王子のおなーりー」
衛士のラッパがなり響き、重厚なドアが開くと勢いよく人影が飛び込んできた。
「たりらりらーん」
入ってきたのは、上半身は立派な礼服だが、下半身がドラゴンの頭を模した着ぐるみを着た白塗りの顔の少年だった。
「王子!」
あまりの姿に一同硬直するが、王子は気にもとめない。
王子は股間から突き出たドラゴンの頭を見せつけるように、姫の前にたった。
「あはは、どうだこの恰好は。びっくりしたか?歓迎のために用意したんんだ」
股間を振って妙なダンスを踊る。
「こ、このバカ王子が!」
激怒したヒラテ将軍がドラゴンの着ぐるみの頭をつかんで、引っ張ろうとした。
「あ、ああん」
「ええい。もだえるな!こんなもの」
力の限りひっぱると、スポっと頭が取れる。
「うわっ」
その中から出てきたものを見て、ヒラテ将軍はびっくりして腰を抜かした。
「ギャウ」
王子の股間からひょこっと頭を出したのは、金色のうろこをもつ本物のドラゴンだった。
「ど、ドラゴン。ドラゴンの中からドラゴンが出てきた。あははははっ」
それを見て、カゲロウは笑い転げている。
「あらあら、とってもかわいいですね」
それ見た姫が目を輝かせ、その頭をナデナデすると、ドラゴンはうなりながら威嚇してきた。
「ㇷガッ。ギャウウ」
「あ、あん。あまり触るでない。余のタマキンはとっても気難しくて暴れん坊なのじゃ」
王子が嫌そうなドラゴンをかばって前かがみになると、ヒラテ将軍の怒声が響き渡った。
「このバカ王子!」
将軍にひったてられ、王子は一時退場するのだった。
服を着替えて、俺は姫と改めて対面する。
「余がトランスじゃ、その方名をなんと申す。いくつじゃ?」
俺が機嫌よく問いかけると、姫はおっとりとした笑顔を浮かべながら礼儀正しく挨拶してきた。
「お初にお目にかかります。ジパング王国第一王女、サクラと申します。15歳でございます」
ピンク髪おっとり美少女は、俺に笑顔を向けてきた。
ぐふふ。可愛い顔しおって。
「そのほう可愛いのう。くるしゅうない。これ、爺」
「はっ」
ヒラテ爺は、俺が何を言い出すかとびくびくしている。
「風呂を用意せよ」
俺は姫の手を取って、風呂場につれていこうとした
「こら!王子!なりませぬ。まだ昼間でございます」
「ちっ」
俺はしぶしぶ姫の手を放し、隣に控える侍女に視線を向けた。
「その方は、たしかカゲロウと申したな。いくつじゃ」
「は、はい。16歳です」
黒髪ストレートのスレンダー美少女は、元気よく礼をしてきた。こういうタイプも悪くない。
「うむうむ。食べごろじゃのう。くるしゅうない。これ爺」
「はっ」
ヒラテ爺は、また何かバカなことをいうのではないかとにらみつけてくる。
俺はカゲロウの手を取ると、寝室に向かおうとした。
「ベッドを用意せよ」
「王子!」
ヒラテ爺が真っ赤な顔をしてひき離そうとするので、俺は嫌々と首を振る。
「だって我慢できないんだもーん」
俺は腰をふるってバカ王子アピールをした。
(ぐふふ。インパクトは充分だな。これで姫も俺をバカだと思うだろう)
そう思って悦に入っていると、突然姫の後ろに控えていた見慣れない侍女が声をかけてきた。
「王子。あの。私も」
その侍女は白い髪の美女で妖艶な雰囲気だったが、どこか危険な匂いがする。
俺はしぶしぶその侍女にも声をかけた。
「そのほうは何者じゃ?」
「マリンと申します。皇帝陛下から姫様つきの侍女を拝命いたしました。ご用命は私めに」
なぜか流し目を送ってくる。俺は身の危険を感じて、背中に冷や汗が流れるのを感じた。
「う、うむ。その方はいくつじゃ」
「14歳でございます」
その年増侍女は、ぬけぬけと言い放った。
何だと、これは怒らないといけないな。
「貴様!」
俺は腰の剣を引き抜き、その侍女がつけていたブローチに突きつける。
「14の女が、『化生のブローチ』を使うか!」
剣でブローチを飛ばすと、ボンっという音とともに煙が出て、その中から40代の美魔女が現れた。
「あらあら、失敗しちゃったわね」
「マーリン殿?」
ヒラテ爺は、あんぐりと口をあけて宮廷魔術師マーリンを見つめている。
「いや、童貞の王子の練習台になろうかと。失敗したら姫にもかわいそうでしょ。おほほほ」
マーリンはそんなことをぬけぬけと言い放った。
お、俺は童貞ちゃうわ!
「いい。いらない」
「仕方ないわね。その代わりに、王子にいいものをもってきたわ。これを飲んで頑張ってね」
マーリンはそういうと、カバンから怪しい薬を取り出してテーブルに並べた。
「これはなんだ」
「あ・か・む・か・で」
赤紫色をした不気味なムカデがガラス瓶の中でうごめいている。
「これはなんだ?」
ぬるぬるとした足が生えたウナギが、ビンから出ようと暴れている。
「や・ま・う・な・ぎ」
マーリンは次々とあやしい強精剤を手渡してくる。
「俺にはこんなものいらねーだよ。元気過ぎて爆発しそうなくらいだぁ」
俺は胸をそらして威張る。
「ギュイ」
俺の股間から再びタマキンが顔を出して、誇らしげに首をもたげた。
「こ、この。バカ王子ーーー⁉」
ヒラテ爺の怒声が響き渡る。こうして俺は姫との対面を終えたのだった。




